"Encyclopedia of Science Fiction"(3rd)の用語集に"Hard Fantasy"の項目があります。これによれば、ハード・ファンタジーではハードSFと同様に「ヒーローは魔術的状況の問題を論理的に解決しなければならない。」"the hero must logically solve a problematic magical situation" とされています。例えば科学知識で魔界に挑む(2018/10/26)で紹介したポール・アンダースン『魔界の紋章(Three Hearts and Three Lions)』がそうでした。そのためには見慣れない現象でも、よく観察し、論理的に推理し、不明な点は検証する、ということが必要です。
上記の"Hard Fantasy"の項目の記事にはローレンス・イェップ(Laurence Yep)作"Dragon Cauldron"(1991)の中の例が載っています。この例の概要は以下のとおり。
-----引用開始(私の翻訳)-----------
この中でヒーローは魔法の島に閉じ込められ、そこでは浮かんで離れようとする物体は全て岸へと引き戻されてしまう。彼は考えた。この呪文は泥(dirt)には効かないはずだと。さもなくば、周囲の河川からの泥(silt)が島と海岸とに橋を架けてしまうはずだと。そこで粘土製の壺で筏を作り、この罠から脱出した。
--------引用終り-------------
ここで推理に使ったのは質量保存則よりも以前の「物体不滅の法則」とでもいうものです。引き寄せられ続ける泥はそこで消滅したりはしないはずだと推理したわけです。
このように論理や推理を武器として戦う主人公は確かにハードな作品の大きな魅力と言えるでしょう。例えば『アルドノア・ゼロ』の界塚伊奈帆(かいづか いなほ)の第2-3話での活躍も推理を武器とする魅力にあふれていました。これはSFジャンルに入る作品でしょうが、主人公が対峙した敵は火星の古代文明が残した地球人には未知のテクノロジーで武装していましたので、はっきり言って魔法との違いはありません。区別がつかないというレベルじゃないですね(^_^)。
説明のために物語の背景をざっと述べます。1972年のアポロ計画(16号と17号)の最中に、月で地球と火星を繋ぐ古代文明の遺産「ハイパーゲート」が発見され、火星に派遣された調査団により古代火星文明のテクノロジー「アルドノア」が発見されました。ところがこの遺産には(たぶん)人工知能らしきものが組み込まれていて発見者のレイレガリア博士を遺産の後継者と認識し、彼の遺伝子にアルドノアを起動する鍵を埋め込んだのです[*1]。こうしてレイレガリア博士とその直系の子孫にはアルドノアを自由に起動したり止めたりする力が与えられました。舞い上がったレイレガリア博士は自らを皇帝と称し、火星に「ヴァース帝国」を作ってしまいました。ヴァース皇帝の力の一部は血縁のない人間にも貸すことができたので、彼は忠誠と引き換えに力を与えた「騎士」を軍事力の要に置いたのです。この騎士たちの操る1人乗り巨大兵器「カタクラフト」が1機で地球側の軍隊を軽く一蹴できるほどの、ほぼ無敵の力を持つというわけです。
まったく「小人閑居して不善を成す」と言いますが、「小人、神通力を得て、災厄を成す」ですよねえ。恐らくはアメリカ人の科学者だったはずですが、貴族階級を作り非民主的な政治体制を作り、地球人は劣等という選民思想を煽り、内政では人民を食糧不足に追い込むという失政をやらかし、その失政から人民の眼をそらすために外部地球という敵を作り、小人(しょうじん)としか言いようがありません。根はそんなに悪い人間でもなさそうなので、まさに平凡な人物がたまたま力を持ってしまって舞い上がったということなんでしょうね。ヒトラーは悪人と言えますが、彼は悪人なりに自分の力でのし上がり強大な権力を得たのです。が、ヴァース皇帝はたまたまアルドノアの第1発見者になっただけであり、宝くじに当たったみたいなものです[*2]。
さてヴァース帝国建国当初のヴァース対地球の開戦と休戦から10年後、親善大使として地球を訪れたヴァース帝国のアセイラム姫の暗殺をきっかけに月で待機していた騎士達が地球に襲い掛かるというところから物語が始まります。火星側のカタクラフトがそれほどの威力を持つとは想像していなかった地球側は抵抗むなしく蹂躙されていきます。主人公伊奈帆(いなほ)の暮らす新芦原(しんあわら)市にも1人の騎士が侵攻しますが、そのカタクラフトは体の表面に次元バリアなるものを張り、外部からの全ての攻撃を吸収だか消滅だかさせてしまいます。ゆえに無敵、に見えたのですが、伊奈帆(いなほ)は観察の結果から次のように推理しました。
1. 外部からの攻撃等を全て遮るのなら外を見ることもできないはずだ。
2. ビルの陰からはこちらを見つけたのに、トンネルに入ると追跡をあきらめた。
1と2を合わせると上空の眼に映る映像を使っていると推理できる。そして、
その情報を受け取るための隙間が次元バリアには必要なはずだ。
ということで隙間を見つけるために橋の上に誘い出して橋を破壊することで海に落とし、海水が吸い込まれない部分を見つけて、そこを攻撃して破壊しました。ビデオを一時停止してよく見ないと違いがわかりませんでしたが。
最初の火星側カタクラフト次元バリアの威力が無敵過ぎて、どうにも絶望的な相手に見えましたが、それをまさしく知恵と勇気で打ち破った展開は感動的ですねえ。火星側カタクラフトは騎士の好みとか個性もあり、各機がなかなか個性的なのですが、その後も伊奈帆(いなほ)は、これらの特徴の異なる敵に対して独創的戦術を考え出して打ち破っていきます。ですが回数が重なると慣れてしまうこともあり、やはり最初の敵の撃破が一番衝撃的ですね。
ところで足の裏に次元バリアを張ると地面を消しながら沈み込んでしまいますから足の裏には張れない、ということも伊奈帆(いなほ)は見抜いていました。すると例えば靴底にアンテナを仕込めば電波で情報を受け取れそうなものですけど、大地についているとノイズとかで難しいのでしょうか?
続く
-------------
*1) こういった事情は6話でアセイラム姫の口から語られている。
*2) もしかしたらアルドノアにも選択の基準は何かあったのかも知れないが、あったとしてもそれほど厳しい制限でもなかったのではないだろうか。
上記の"Hard Fantasy"の項目の記事にはローレンス・イェップ(Laurence Yep)作"Dragon Cauldron"(1991)の中の例が載っています。この例の概要は以下のとおり。
-----引用開始(私の翻訳)-----------
この中でヒーローは魔法の島に閉じ込められ、そこでは浮かんで離れようとする物体は全て岸へと引き戻されてしまう。彼は考えた。この呪文は泥(dirt)には効かないはずだと。さもなくば、周囲の河川からの泥(silt)が島と海岸とに橋を架けてしまうはずだと。そこで粘土製の壺で筏を作り、この罠から脱出した。
--------引用終り-------------
ここで推理に使ったのは質量保存則よりも以前の「物体不滅の法則」とでもいうものです。引き寄せられ続ける泥はそこで消滅したりはしないはずだと推理したわけです。
このように論理や推理を武器として戦う主人公は確かにハードな作品の大きな魅力と言えるでしょう。例えば『アルドノア・ゼロ』の界塚伊奈帆(かいづか いなほ)の第2-3話での活躍も推理を武器とする魅力にあふれていました。これはSFジャンルに入る作品でしょうが、主人公が対峙した敵は火星の古代文明が残した地球人には未知のテクノロジーで武装していましたので、はっきり言って魔法との違いはありません。区別がつかないというレベルじゃないですね(^_^)。
説明のために物語の背景をざっと述べます。1972年のアポロ計画(16号と17号)の最中に、月で地球と火星を繋ぐ古代文明の遺産「ハイパーゲート」が発見され、火星に派遣された調査団により古代火星文明のテクノロジー「アルドノア」が発見されました。ところがこの遺産には(たぶん)人工知能らしきものが組み込まれていて発見者のレイレガリア博士を遺産の後継者と認識し、彼の遺伝子にアルドノアを起動する鍵を埋め込んだのです[*1]。こうしてレイレガリア博士とその直系の子孫にはアルドノアを自由に起動したり止めたりする力が与えられました。舞い上がったレイレガリア博士は自らを皇帝と称し、火星に「ヴァース帝国」を作ってしまいました。ヴァース皇帝の力の一部は血縁のない人間にも貸すことができたので、彼は忠誠と引き換えに力を与えた「騎士」を軍事力の要に置いたのです。この騎士たちの操る1人乗り巨大兵器「カタクラフト」が1機で地球側の軍隊を軽く一蹴できるほどの、ほぼ無敵の力を持つというわけです。
まったく「小人閑居して不善を成す」と言いますが、「小人、神通力を得て、災厄を成す」ですよねえ。恐らくはアメリカ人の科学者だったはずですが、貴族階級を作り非民主的な政治体制を作り、地球人は劣等という選民思想を煽り、内政では人民を食糧不足に追い込むという失政をやらかし、その失政から人民の眼をそらすために外部地球という敵を作り、小人(しょうじん)としか言いようがありません。根はそんなに悪い人間でもなさそうなので、まさに平凡な人物がたまたま力を持ってしまって舞い上がったということなんでしょうね。ヒトラーは悪人と言えますが、彼は悪人なりに自分の力でのし上がり強大な権力を得たのです。が、ヴァース皇帝はたまたまアルドノアの第1発見者になっただけであり、宝くじに当たったみたいなものです[*2]。
さてヴァース帝国建国当初のヴァース対地球の開戦と休戦から10年後、親善大使として地球を訪れたヴァース帝国のアセイラム姫の暗殺をきっかけに月で待機していた騎士達が地球に襲い掛かるというところから物語が始まります。火星側のカタクラフトがそれほどの威力を持つとは想像していなかった地球側は抵抗むなしく蹂躙されていきます。主人公伊奈帆(いなほ)の暮らす新芦原(しんあわら)市にも1人の騎士が侵攻しますが、そのカタクラフトは体の表面に次元バリアなるものを張り、外部からの全ての攻撃を吸収だか消滅だかさせてしまいます。ゆえに無敵、に見えたのですが、伊奈帆(いなほ)は観察の結果から次のように推理しました。
1. 外部からの攻撃等を全て遮るのなら外を見ることもできないはずだ。
2. ビルの陰からはこちらを見つけたのに、トンネルに入ると追跡をあきらめた。
1と2を合わせると上空の眼に映る映像を使っていると推理できる。そして、
その情報を受け取るための隙間が次元バリアには必要なはずだ。
ということで隙間を見つけるために橋の上に誘い出して橋を破壊することで海に落とし、海水が吸い込まれない部分を見つけて、そこを攻撃して破壊しました。ビデオを一時停止してよく見ないと違いがわかりませんでしたが。
最初の火星側カタクラフト次元バリアの威力が無敵過ぎて、どうにも絶望的な相手に見えましたが、それをまさしく知恵と勇気で打ち破った展開は感動的ですねえ。火星側カタクラフトは騎士の好みとか個性もあり、各機がなかなか個性的なのですが、その後も伊奈帆(いなほ)は、これらの特徴の異なる敵に対して独創的戦術を考え出して打ち破っていきます。ですが回数が重なると慣れてしまうこともあり、やはり最初の敵の撃破が一番衝撃的ですね。
ところで足の裏に次元バリアを張ると地面を消しながら沈み込んでしまいますから足の裏には張れない、ということも伊奈帆(いなほ)は見抜いていました。すると例えば靴底にアンテナを仕込めば電波で情報を受け取れそうなものですけど、大地についているとノイズとかで難しいのでしょうか?
続く
-------------
*1) こういった事情は6話でアセイラム姫の口から語られている。
*2) もしかしたらアルドノアにも選択の基準は何かあったのかも知れないが、あったとしてもそれほど厳しい制限でもなかったのではないだろうか。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます