一般的に言えば、量の測定(認識)はまず大小関係の比較、特に等量関係の観測に始まり、次に単位の設定と「数値×単位」としての定量的表現へと進みます。具体的操作を重力質量を例として示してみましょう。
重力質量は一定の重力場で物体に働く力の式から定義されます。
f=mg --(1)
fは物体に働く力
mは物体に固有の係数
gは重力場に固有の係数(重力場の強さを示す係数)
ここで天秤を使うと、重力場の強さの如何によらず2つの物体の質量の大小関係の比較ができます。すると質量の等しい複数の物体を得ることができます。すると質量の等しいn個の物体Aの個々の質量を仮にaとすれば、物体Aのn個と天秤で釣り合う物体の質量はanであるとみなすことができて、質量の定量的表現が定義できます。
すなわち一般的に言えば、物体に付随する量について「2つの物体の持つ量が等しい」ということを決める実験的方法があれば、そしてこの量が外延量であれば*1)、すなわち可算加法的であれば、「数値×単位」としての定量的表現を実験的に求めることができるのです。
例えば物体の長さを考えると、並べて見て両端が一致することを視覚的に観測することにより、「2つの物体の長さが等しい」と決めることができます。そして物体を一方向に並べることで可算加法的であることがわかりますから、物体の長さも「数値×単位」としての定量的表現を実験的に求めることができます。
運動方程式から定義される慣性質量はどうでしょうか。
f=mα --(2)
2つの物体に同じ力を加えて同じ加速度を示せば、この2つの物体の慣性質量は等しいと決められます。ひとつの方法として滑車を使う方法がRef-1に書かれています。
もっとも、この方法で精密測定をするのは難しいでしょうから、原理を考えるための思考実験と思った方が良いかも知れません。なおRef-1では2つの物体を摩擦のない面上に置くとしていますが、無重力空間で実験する方がより正確でしょう。その場合は移動距離測定のため固定面に物差しを置くという方法は使えませんが、レーザーでの位置測定などが使えますから大丈夫です。さらにRef-1のような力の方向を変える方法ではなく、2つの物体を平行に動かすような方法ならば、両者の加速度が等しいか否かの比較は精度が高まるのではないでしょうか。まあ、比較自体は滑車の回転で検出するのが精度が高いかも知れません。いずれにせよ両物体に働く力は等しいことが保証されますし、物体の加速度自体を数値的に求める必要はありません。
さて慣性質量を数値的に求めるには式(2)から力と加速度の数値的値を使って求めることもできますが、原理的には上記の方法により、慣性質量同士の比較だけから数値的に求めることもできます。すなわち、力と加速度の数値的値で慣性質量の大きさを定義する必要はないのです。2つの物体に働く力と加速度が等しいかどうかが決定可能であればそれで十分なのです。この意味で言えば、慣性質量値の定義は式(2)でなされるのではないと言えるのかも知れません。05/16の記事で述べた小林稔の「運動方程式は力の定義でも質量の定義でもない」という主張は、もしかしてこういう意味なのでしょうか? だとしても「定義でもない」と断言してしまうのは無茶ですが。
参考文献
Ref-1 広瀬立成『質量の起源』講談社(1994/02),2章
Ref-2 『間違いだらけの物理概念』丸善(1993)「f=mαは、力の定義か質量の定義か?」
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*1) 外延量については05/16の記事の参考文献を参照
重力質量は一定の重力場で物体に働く力の式から定義されます。
f=mg --(1)
fは物体に働く力
mは物体に固有の係数
gは重力場に固有の係数(重力場の強さを示す係数)
ここで天秤を使うと、重力場の強さの如何によらず2つの物体の質量の大小関係の比較ができます。すると質量の等しい複数の物体を得ることができます。すると質量の等しいn個の物体Aの個々の質量を仮にaとすれば、物体Aのn個と天秤で釣り合う物体の質量はanであるとみなすことができて、質量の定量的表現が定義できます。
すなわち一般的に言えば、物体に付随する量について「2つの物体の持つ量が等しい」ということを決める実験的方法があれば、そしてこの量が外延量であれば*1)、すなわち可算加法的であれば、「数値×単位」としての定量的表現を実験的に求めることができるのです。
例えば物体の長さを考えると、並べて見て両端が一致することを視覚的に観測することにより、「2つの物体の長さが等しい」と決めることができます。そして物体を一方向に並べることで可算加法的であることがわかりますから、物体の長さも「数値×単位」としての定量的表現を実験的に求めることができます。
運動方程式から定義される慣性質量はどうでしょうか。
f=mα --(2)
2つの物体に同じ力を加えて同じ加速度を示せば、この2つの物体の慣性質量は等しいと決められます。ひとつの方法として滑車を使う方法がRef-1に書かれています。
もっとも、この方法で精密測定をするのは難しいでしょうから、原理を考えるための思考実験と思った方が良いかも知れません。なおRef-1では2つの物体を摩擦のない面上に置くとしていますが、無重力空間で実験する方がより正確でしょう。その場合は移動距離測定のため固定面に物差しを置くという方法は使えませんが、レーザーでの位置測定などが使えますから大丈夫です。さらにRef-1のような力の方向を変える方法ではなく、2つの物体を平行に動かすような方法ならば、両者の加速度が等しいか否かの比較は精度が高まるのではないでしょうか。まあ、比較自体は滑車の回転で検出するのが精度が高いかも知れません。いずれにせよ両物体に働く力は等しいことが保証されますし、物体の加速度自体を数値的に求める必要はありません。
さて慣性質量を数値的に求めるには式(2)から力と加速度の数値的値を使って求めることもできますが、原理的には上記の方法により、慣性質量同士の比較だけから数値的に求めることもできます。すなわち、力と加速度の数値的値で慣性質量の大きさを定義する必要はないのです。2つの物体に働く力と加速度が等しいかどうかが決定可能であればそれで十分なのです。この意味で言えば、慣性質量値の定義は式(2)でなされるのではないと言えるのかも知れません。05/16の記事で述べた小林稔の「運動方程式は力の定義でも質量の定義でもない」という主張は、もしかしてこういう意味なのでしょうか? だとしても「定義でもない」と断言してしまうのは無茶ですが。
参考文献
Ref-1 広瀬立成『質量の起源』講談社(1994/02),2章
Ref-2 『間違いだらけの物理概念』丸善(1993)「f=mαは、力の定義か質量の定義か?」
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*1) 外延量については05/16の記事の参考文献を参照
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