知識は永遠の輝き

学問全般について語ります

男女3歳にして

2017-11-12 06:33:53 | 生物学
 日経サイエンス2017/12号に「トランスジェンダーの子どもたち」という記事が載りました。これはトランスジェンダーの子どもたちの自分の性別の認識が、普通の子供たちと同様であることを明らかにした報告ですが、そもそもその普通の子供たちのジェンダー認識というのが意外に早いのです。

--------------引用開始--------------------
 西洋の文化圏(この種の研究のほとんどは西洋でなされている)では,乳幼児は1歳にならないうちに人の性別を区分し始め,その人を男性または女性として見るようになる。1歳半ころには,"girl"や"man"など性別を反映した単語を理解し始め,それらの単語をその性別に合致する人と関連づける。2歳までに性別に関する既成概念(女性と口紅を結びつけるなど)を聞き知り,3歳前にほぼ全員が,自分自身と他の人について,その性別に一致したジェンダーをラベルづけする。
--------------引用終り--------------------

 確かに自分の記憶を振り返ってみても、物心ついた頃には既に男と女という概念はわかっていたと思います。西洋の言葉だと男性・女性・中性の区別がある言語も多いですから、男女概念が理解できなければ言葉も正しく覚えられませんよね。

 でも、繁殖年齢にもならないうちから自分や他者の性別を認識することに、どんな適応的意味があるのでしょうか? ちょっと不思議に思えます。

 そういえばブルック・バーカー;服部京子(訳)『せつない動物図鑑』ダイヤモンド社(2017/07/20)[*1]には「オスの子イヌは、メスとのけんかにわざと負ける」という節がありました。この観察が事実ならば、犬でも、そしてたぶん祖先の狼でも、幼くしてジェンダーが認識されていることになります。余談ですが、この本はちょっと記載が簡単すぎるような気がします。子供向けでも、いやだからこそ、もう少し詳しくても良いのでは?

 ちなみに狼のオスはメスを攻撃しないという話はコンラッド・ローレンツ(1903/11/07~1989/02/27)(Konrad Zacharias Lorenz)の著書に載っていたと記憶していますが、犬に関しても愛犬家の間で知られているようです[*2,3]

 考えてみると犬も狼も人も群れで生活し、群れの中での個体関係が生きてゆくうえで大切な動物です。必然的にいわゆる社会知能が進化しています。そしていずれの種でも社会関係には性別が大きく関わります。注3のサイトでもわかるように、狼の例では群れの中の順位がオス間の順位とメス間の順位との2本立てで、男女間には順位というものはないようです。なにしろオス同士は恋のライバルだし、メス同士もそうですが、男と女は通常はライバルにはなりません。となるとこれらの動物が幼くしてジェンダーを認識するのは、社会関係を身に着けるため、というあたりが理由のように思えます。

 この仮説は他の動物と色々と比較してみれば確かめられることでしょうが、その研究もなかなか大変そうですね。


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*1) 最近、子供向けの似たような本が他にも出ている。いや、それって必ずしも「ざんねん」じゃないから(^_^)。
 今泉忠明(監修)『おもしろい!進化のふしぎ ざんねんないきもの事典』高橋書店(2016/05/21)
 今泉忠明(監修)『おもしろい! 進化のふしぎ 続ざんねんないきもの事典』高橋書店(2017/06/10)
 新宅広二『しくじり動物大集合』永岡書店(2017/03/15)
 アマゾン書籍検索、ふしぎな動物の図鑑たち
*2) Yahoo知恵袋(2017/09/22)
*3) 狼については"Resident for forest"というサイトに群れの生態が紹介されていてありがたいが、出典がないのが困る。

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