土手猫の手

《Plala Broach からお引っ越し》

作品No.1「鍵」

2007-12-12 22:57:03 | 詩歌(創作)



同じことを何度も云うのが嫌いな私は一つの扉を閉めて鍵をかけました。
出口は入り口
でもそれは次の世界への入り口ではありませんでした。
真っ暗な深い闇
何も無い。先の見えない自分の姿すら見えない。
闇の中で途方に暮れていると。閉じた背から
『どうぞ開けて』追いかけて来た声が『泣き真似』しました。
嫌な声です。人の声を装った、人の心を蝕むような、
「行かないと」
振り払うように闇雲に歩き出すと
やがて、?いえ途端だったのかもしれない?
小さな光が現れました。次の部屋へと導く標です。
それは本当に本当にかすかな光で
瞬きしただけで見失う。そんな危ういものでした。
歩いても歩いても近づけない、近づいているのかさえ解らない。
何故なら
それは鍵穴から洩れている小さな小さなほんの僅かなものだったから。

どれくらいの時間が経ったのか
辿り着いた やっと  待ち望んだ 次のドア。
けれども、その小さな鍵穴は古い鍵を受け付けてはくれませんでした。
私は鍵を捨てました。

新しい鍵を持たない私は中に入れません。
招き入れてくれなければもう歩めません。

扉の鍵を持っているのは扉の向こうの人なのです。
「どうぞ開けて」
私は嫌な声になりたくなくて
声を殺して泣くことを選びました。
暗闇は恐くありません。ここには私しか居ないから。
殺した声は聴こえないでしょう。
何故なら鍵を持つ主はひとりぼっちではないのです。
大きな笑い声の前で
私の声はきっとかき消されます。
煙草とお酒の匂いで消されます。

どれくらいの時間が経ったのか
私は耳を塞いでいました。
他の人だけに向けられる声に耐えられなくなっていたのです。
瞳も閉じています。
僅かな光にすがることに疲れたからです。
瞬きしなかった真っ赤な瞳は光を閉じました。

私は同じことを繰り返すのが嫌いです。
繰り返された「今日こそ」は積もり積もって記号に形だけのものになりました。
「Open the door」
私には姿がありません。闇の中に居るから。
私には名前がありません。呼んでくれないから。

鍵は『私の名』 名前を呼んで

どうぞ塞いだ手をそっとはずしてその声を
聴かせて下さい、光を下さい、

わたしだけに、わたしのために、わたしだけのために、


?  2007.12.10記