『ひみつのアッコちゃん』といえば、アニメ化(第一期)の際、玩具メーカー・中嶋製作所が大々的に売り出し、爆発的なヒットアイテムとなった魔法のコンパクトが有名だが、当初はコンパクトではなく、前述したようにアンティークな鏡台だった。
アンティークな鏡台は、前述の「われた鏡とお正月」で、不慮の事故から割られてしまい、元に戻れず、途方に暮れるアッコの前に、再び黒服にサングラスを纏った鏡の国の使者が現れ、鏡台の代わりに、持ち運びしやすく、いつでもどこでも変身可能なコンパクトサイズの木彫りの手鏡が手渡されるというプロットが、既に原作内で描かれていたが、東映動画の池田宏(後に、テレビアニメ版『ひみつのアッコちゃん』の演出を担当)は、アニメ化の構想案がプレゼンテーションされた極めて初期のステップから、マーチャンダイジング戦略の一環として、この木彫りの手鏡をグッズ化しやすく、また女の子の憧れの定番アイテムであるコンパクトへと変更する改善提案を強固に主張したという。
その結果、魔法のコンパクトは、コモディフィケーションにおいて、目論み通り、お洒落に目覚めた少女達の需要を喚起する超ロングセラーとして、玩具市場を席巻することになり、メーカー側に莫大な利益をもたらす結果となった。
アッコが様々なものに変身する際の「テクマク・マヤコン、テクマク・マヤコン、◯◯になあれ~」(テクニカル・マジック・マイ・コンパクトの略)や、元に戻る際に唱える「ラミパス・ラミパス・ルルルルル~」(スーパー・ミラーの逆さ読み)といった、今尚広く知られるこれらのフレーズは、第一期テレビアニメ化(69年1月6日~70年10月26日放映)に際し、初回のシナリオを担当した雪室俊一が発案した造語であり、テレビとのタイアップで、原作も前作同様「りぼん」(68年11月号~69年12月号)でリバイバル連載された際、東映動画のイメージ戦略にレスポンドし、魔法の手鏡はコンパクトに、変身の呪文は逆さ言葉から「テクマク・マヤコン」へと変換され、ここで漸く、原作版『アッコちゃん』も、現在のパブリックイメージへと定着してゆく。
また、第二期原作に当たる1968年版の第一回目作品「ふしぎなコンパクト」(68年11月号)では、大切な鏡を割ってしまったアッコが、魔法のコンパクトを件の黒服にサングラスの青年ではなく、夢の中で鏡の精から受け取るという、旧原作とは全く異なるエピソードが描かれ、歴代のテレビアニメ版の初回放送では、アッコが魔法のコンパクトを手に入れる経緯として、毎回このシチュエーションを踏襲して使われることとなった。