「ほ~・・・」
しばらくの間、僕とおだちゃんは、覆いかぶさるようにカワセミを眺めていた。独特のコバルトブルーの背中と、オレンジのお腹。くちばしは下側だけ赤い(これはメスの特徴。オスは黒。)。めだった外傷はなく、腐ってもいないようだ。この暑い時期なのにこの状態とは、まだ死んだばかりなのだろう。
「おだちゃんってさ、よく釣りに行くらしいけど…カワセミとか見たことあるん??」
「…いんや。あっくんは?」
おだちゃんは僕との会話中も、その死体から目をそらさない。
「…僕もないなぁ。」
「ていうかカワセミって、山奥の、水がきれいな、その…ヤマメとかがおるとこにおるんやないん?」
「でも…ここにおるもんね。」
「・・・。」
二人とも首をひねる。
「う~ん。」
考えてもわからないので、とにかくお墓を作って埋めてあげることにした。穴を掘りながら、おだちゃんが、さっきの話しの続きを始めた。
「こういう時、あれやりよる人がおったらええのにね。」
「あれって??」
「ええっと…あれいね。あの…鳥を観察するやつ。」
ああ、なんかあったな。そういうの・・・。思い出した!
「バードウオッチング!?」
「それそれ!そういえば、この間学校で、誰かがバードウオッチング始めたって言よった気がするねぇ…。」
「同級生で?へ~物好きな人もおるもんやね。」
「俺は釣りんがええなぁ。」
「ははは!でも・・・バードウオッチングも楽しいかも。」
なんてことを話している間に、お墓完成。側に生えていた花を摘んでお供えもした。
「いや~。思わぬ出会いやったね!」
おだちゃんはまだ、興奮冷めやらず、という感じだ。
「ほんと!よし!そろそろ帰ろうかね。」
・・・僕も同じくらい興奮していた。
こうして、二人は、もと来た道をまた歩き出した。最初にここへやってきた理由も忘れて・・・。
―現在
「っというあの事件を思い出して、まぁ、バードウオッチングもええかなと思ったわけよ。」
おだちゃんは、昔とかわらず得意気に語る。僕もやっと納得できた。
「そういうことかぁ・・・。まてよ!てことは、今も五反田川にはカワセミがおるってことか!」
「そうかもね。」
興奮気味の僕に対して、冷静なおだちゃん。
「よし!こりゃ早速カワセミ探しに…。」
「あっくん!」
いきなりおだちゃんが叫ぶ。
「今日は、コゲラ探しやろ。」
「おっ!そうかそうか。ごめん、おだちゃん。」
昔からちっとも進歩していない自分…。少しショックだ。
“ツツピー ツツピー”
向こうの林から、鳥の鳴き声が聞こえてきた。
「あっくん。なんか鳴いたよ。」
「うん。コゲラとは違う気がするけど、行ってみよっか!」
カワセミだって、すぐ近くにいるんだ。なにが飛び出すかわからない!