水月光庵[sui gakko an]

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大学教員 不安を口にできない仕組み

2010年06月28日 | 庵主のつぶやき
英科学誌ネイチャーが、世界の科学研究者を対象に「待遇の満足度調査」を行ったそうだ。給与、休日、健康、年金、労働時間など8項目についての満足度を調べたらしい。欧米諸国や中国、インドなど16カ国中、日本は最低だという。(日本人科学者、待遇に不満? 満足度調査で最下位に, asahi.com, 2010年6月24日)

関係者は、このニュースを聞いて、それぞれの立場で複雑な思いを抱えていることだろう。教授・准教授・講師・助教などの間だけでも、受け止め方は大きく異なるだろうし、ここにポスドクや専業非常勤講師などが入ればもっとややこしくなるはずだ。

一番トップがもし、「そうだ、私たちの待遇は酷い」と言ったとする。すると、ただちに二番目は「私たちはさらに酷い」となるだろう。三番目は「なにを贅沢な」となり、一番下は「自分たちの待遇こそ改善してもらいたい」と続いていくのは目に見えている。きりがない、が、まだ下がいる。

ポスドクからすれば「うそでしょう、天国じゃないですか?」と映るだろうし、専業非常勤講師の口からは「私たち同じ先生やってますけど、年金とか保険とかなぜか無縁だし」とあきらめにも似た台詞がつぶやかれるかもしれない。さらに下のオーバードクターは「地獄だ」と言ったきりだまってしまうかもしれない。院生まで下がるとどうなるんだろうか。

少子化で、定員割れ大学も増えている。たとえ今、正規雇用されていても今後はどうなるか怪しい。万一、所属大学がつぶれれば、専任教員といえどただちに今度は、ポスドクや専任非常勤講師以下にまで転落する。どんよりと重い空気は積み重なるばかり。

我が国の高等教育界には、よく知られているように公的資金の投入が他国に比べて小さい。どこも金がなくてピーピー状態だ。格差も広がっている。待遇は、この先も厳しくなるばかりだろう。それをどうにかしよう、との声はあまり大きくならない。立場を超えて〝相談できる〟ような状況ではとてもないからだ。いや、他の人のことを考えると「自分だけ言えない」と、皆が互いに気を遣っているといったほうが正解か。

明日の我が身を考えると、それぞれが暗澹たる気持ちになっている。そうした不安を抱えながら、「講義+研究」という労働を等しく大学という現場で担っている。少しだけ前向きな視点でいけば「本当は仲間なんでしょう」。でも、不安が強くなりすぎて、それが分からなくなってるみたいだ。

一方、学生はそんな先生方を見てこう呟くかもしれない。「先生方も大変でしょうが、私たちも学費が高くなりすぎて大変です」。

この国の高等教育界は果たして大丈夫なのだろうか。このままだと「人を育てる」という大事な役割を果たせなくなるかもしれない。

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