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限界まで目を開いた。いくつでも聞きたいことはあるはずだったのに、のどが詰まってうまく出てきてくれなかった。
そんな僕の顔が面白かったのか、彼女はようやく明るい笑みをこぼしてくれた。
「ふふっ、驚いたでしょ? 魔法で姿を変えてるの」
そのとき、ぱっと思い出されたのは、濡羽色の宝石。
『彼女の名前はナイトウォーカー。か弱い人間をただ愛でていたいだけの天使たちの中で、最も歪んだ愛し方をする異端の天使』
あの魔女は、たしかにそう言っていた。あとは、
「……他の天使たちが嘘の縦糸と真実の横糸で《世界》という巨大な布を織り上げているとすれば、ナイトウォーカーはそれに鋏を入れて切り刻もうとしている。
そう、聞いたことがあります。……いつか、その意味も知りたいと、思っていました」
深呼吸のあと、一息にそう言い切った。改めて彼女の翡翠色の瞳を見つめれば、何かを期待するようなわずかな熱を込めた微笑みで、うなずき返された。
「それはね、私が君たちに、君たち自身の意思で自由になってほしいと思っているから。何事もなく、軽快に廻り続けている『楽園』の歯車を少しずつ壊そうとしている私は、同胞から疎まれ、警戒されてるのよ」
驚いた。本能と反射で生きる人間の幼児のようなブロッケンにとって、この《世界》は飽きないおもちゃで、とても執着しているものだと感じていた。
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