・桜の葉Cherry leaves さくらのは
桜の葉の塩漬けはピンク色のあんこの入った餅を包み独特の香りで、「桜餅」や「甘鯛の桜蒸し」に使われています。
主に産毛(うぶげ)も少なく柔らかい、成分が抽出が容易な大島桜を使いますが、八重桜など他の桜でも作ることが出来ます。桜の葉は、塩漬けすることで桜の葉特有の芳香成分(クマリンCoumarin)が強く抽出してきます。この桜の葉の香りを生かして、桜の葉の塩漬けを乾燥させ紅茶・緑茶・ほうじ茶にブレンドしたお茶も販売し人気があるようです。
白い大島桜の花は白い花で淡い香りがあります。桜の葉を摘む時期は、花が終わって若葉の柔らかい頃が向いているといいます。
さくら味の元となる成分は、細胞内の「液胞」と呼ばれる水分が豊富な区画の中で、「o-クマリン酸配糖体」と呼ばれる状態で存在しています。塩漬けの過程で液胞が崩壊し、細胞の外まで流れ出ると、もともと葉の中に含まれているβ―グリコシダーゼの酵素の働きにより、「o-クマリン酸」という物質まで変化します。さらに、「ラクトン化」という構造変化が起きて、「クマリン」に変化します。こうしてできたクマリンが、さくらの葉の味となります。
なお、さくらの葉の芳香は春を代表としていますが、葉に含むo-クマリン酸配糖体の量は、実は秋に一番多いらしいことが知られています。もしかすると、秋の桜葉を使った方が、より濃厚なさくら味がに作れるのかもしれないとも思われますが、食用としては、山菜も新芽が軟らかくていいように、硬くなり不向きなのです。
桜にとってクマリンは、実は、外敵から身を守るための物質で、周りの植物の種子の発芽や成長を抑える働きがあることが知られます。植物は動くことができないため、基本的には生えているその地で、いかに子孫を残し成長するか、生長、存続していくかの獲得した成分なのです。桜は、クマリンによって他の植物の育ちを阻止することで、自らの成長を守っているのです。
秋口のクマリンを濃縮した成分は、生存への手立てのひとつなのです。このような、植物が出す化学物質が他の植物の育ちを邪魔、引き寄せたりするような作用のことをアレロパシーAllelopathyと呼びます。
桜餅は、江戸向島の長命寺が発祥の地といいます。
1717年(享保2年)創業者の山本新六が、門番をしていて大川の土手の桜の季節は落ち葉の掃除に手を焼いていたそうで、ふとした思いつきから桜の葉を塩漬けにして、薄い皮で餡を包んだものに巻いて門前で売ったところ、大変な売れ行きだったということです。隅田堤は、その頃より桜の名所で、花見時には多くの人々が集い、人々に知れ渡り桜もちが喜ばれたといいます。
この桜餅は薄く焼いた小麦粉の皮を二つに折ってこし餡を挟み、それに塩漬けした2枚の桜葉で包んだものでした。
また女の子の初節句には、健やかな成長を願って桜餅をお返しに贈ることが定着していったようです。
*クマリンCoumarin くまりん
フラボノイドの一種で主に黄色い花に含む黄色の色素で明日葉(あしたば)、ホップや食用菊の花、ガジュツ ( 紫ウコン )、カシア(シナモン) などミカン科、マメ科、キク科、セリ科の植物に主に含みます。俗に桜餅の香りと言われる芳香物質で、感受性の高い人では比較的少量でも治癒可能な肝臓障害を引き起こす場合があります。桜の葉や木に生えたままの葉からは芳香はしません。塩漬けにするなどの加工、加水分解前の葉の細胞中ではクマリンは クマリン酸Coumalic acidの配糖体として、グルコースなどの糖類と結合した状態にあるからです。
単離したクマリンは、食品に使用してはならないことになっています。食品に香り付けするために使用する植物部位にクマリンが含まれる場合には、耐容一日摂取量(TDI)を設定しています。TDI:0.1mg/kg体重/1日(欧州食品安全機関(EFSA)設定のTDIと同値)、クマリン量は食品1kg当たり2mgに制限しています。医薬品としての有効成分は3~30mg/1日を目安量としリンパ液、静脈血の流れをよくし静脈瘤、血栓の予防に役立たせています。
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(初版2020,4,30)
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