僕の音楽の聴き方の特徴のひとつに「アルバムを買う」「アルバム全部を続けて流す」「一定期間ヘビーローテーションする」というのがあります。音楽の好みって絵画や他の趣味と比べて何故か他人とぴったりと合う事がより少ないような気がしますし、聴き方自体にいいとか悪いとか好き嫌いとか、個人的な所を超える基準などはあまりないのかなと思うんですが、ただ結果としてこういう聴き方をしていると、ある時期の自分のある種の気持ちと、本来全然関係のないその時期に聴いていた音楽が、分かちがたく結びついてしまうことがあります。僕なんかの場合は、高校卒業を控えて初めて親元を離れて暮らすことが決まったときの期待と不安とホワイトアルバムとか、結婚披露宴を間近に控えた慌しさとサイモン&ガーファンクル、子供を連れてドライブに行く楽しみとスピッツなど。プロジェクトで1ヶ月地獄の深夜担当をやったとき、通勤の車で聴き続けたウェザー・リポートのナイト・パッセージは今でも軽いトラウマで、あまり聴こうと思わなくなっちゃいました。ウェザーリポートの皆さんすみません。全然ウェザーリポートの所為じゃないのにね。
このKacey Musgravesさんのアルバムも、そういう歌い手さんにまったく関係ない、謂れのない因縁を私の中で結びつけてしまったもののひとつです。先日、海外単身赴任の最後の一時帰国として、10日ばかりの休暇を家族と一緒に過ごしたのですが、その時の道中でヘビーローテーションしていたので、道々の光景やそのときの心情とアルバムの曲が相互に結びついてしまったのです。
本家USのスターバックスでは、プリペイドカードや12回買い物でドリンクが無料になるポイント制度などのサービスメニューがあるんですが、そういうサービスを管理できるスマートフォンアプリも一緒に配信されていまして、そのソフトを入れておくと、オマケで月に1回くらいネットから音楽が無料でダウンロードできるクーポンが送られてきます。最初はポイント狙いでソフトを入れたのですが、この音楽ダウンロードサービスを見つけてからはほぼそれ狙いでずっと使っています。そんで、ダウンロードした曲を集めて車の中でかけるんですね。
その中にケーシー・マスグレーブズさんの曲があって、繰り返し聴く内に気に入って、じゃあアルバムも買ってみよう、と。たしか初めて、そのダウンロードから知ってアルバムを買ったCDだったと思います。見事にマーケティングに乗っかってますよね、まあいいけど。どうも、メジャーデビューのアルバムみたいです。配信も決して「新曲」がターゲットではないので1年前くらいだったりするのですが、例のごとくお気に入りの曲の入り方はメジャーだろうが遅かろうが気にしないので問題なし。ケーシーさんはカントリー界の期待の若手女性シンガー、みたいな感じで書いてあって、アレンジもそれを意識してか、それとも元からかわかんないですけど、バンジョーなどを効果的に使ってカントリーな雰囲気が出るようにしています。が、そういうの抜きにしても全体的に非常に良質のポップスだと思いますし、なんというか、そういうアオリの文句や外野の”意図”が聴いているうちに霞んで消えていくほど、自然に「ケーシーさん」らしさが出てきてるところがよいです。
でもですね、そういうケーシーさんの曲の魅力とは全然関係のないところで、僕がこのアルバムを聴くと無性に帰りたくなるわけです。乗り換えのボストン空港での手持ち無沙汰、機内食で選んだ和食、成田空港からの電車から見える風景、そして再度渡米する前日の夜に泣き出す子供を慰める父親。普段、普通、という言葉がまれなる輝きを見せたつかの間の日々。
そんなだから、もうちょっとして帰国の日程が確定になるまで、しばらく聴かないようにしています。いい曲を聴いてモチベーションを落としている自分というのも中々切ないものがあるので。何度も言うけど全然ケーシーさんの所為じゃないのにね。
Kacey Musgraves 「Same Trailer Different Park」 Mercury B0018029-02
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