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高智晟著『神とともに戦う』(10)古びた銅のヒシャク
私は、母が私を生み育ててくれた所へと戻って来た。この洞窟、我が家、そして山道、目にするものすべてが私を追憶へといざなう。私の脳裏は、母の姿かたち、声、面影と笑顔で満たされる。
私が生まれた洞窟を、母は数年前人にあげたので、今では他人が住んでいる。私たち兄弟姉妹はここで生まれた。そしてまさにここで、母は私たち兄弟姉妹を育て上げたのである。洞窟内のオンドルは、4人で寝る分には比較的ゆったりしているが、5人だときつい。父が存命中、ここに9人で寝た。物心ついてから、私は4番目の弟と父の3人で、1枚の布団で寝ていた。これは、父が亡くなる前に病院へ運ばれるまでずっと続いた。1枚の布団を独り占めする幸せは、我が家の誰ひとりとして味わうことはなかった。
毎晩床に就くころ、みんながきちんと寝られるようにと、知恵を絞る両親を覚えている。そのことを、後に母は冗談交じりにこう言った。「毎晩、お前たちが何とか寝られるようにと、全身汗びっしょりになったんだよ」。母は、このように寝る前でさえも、全身汗だくになる苦しい状況のもと、我々を育て、一人また一人と社会へ送り出したのであった。
私の生まれた洞窟の外には、外の世界へ通じる1本の小道がある。
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