毎回、さまざまなセクターのチームリーダーから、チームリーダーの在り方などを学ぶこの講座。今回(第2回)のゲストは、工藤啓さん(認定NPO法人育て上げネット 理事長)。
まず、この「育て上げネット」のホームページには、以下のような内容が書かれています。
”2012年のデータを見てみると、15~34歳、ついで25~34歳の完全失業率が全年齢の平均に比べ高くなっています。また、長期失業者を年齢別に見ると、60%が15~44歳の若者層になっていて、直近20年間で10%も増加しています。
若者の自立が今、社会問題となっているのです。
「就学していない、働いていない、職業訓練もしていない」いわゆるニートと言われる人々は60万人。ひきこもり状態にある人が70万人。働いている人の3分の1が非正規労働者で、5人に1人が年収200万円以下。若者の自立を取り巻く状況は厳しいものだと言えます。
私たち、認定NPO法人育て上げネットは、「社会経験の穴」を埋めていける場をつくり、若者を支援していくとともに、その保護者や家族へのサポートも実施しています。また、地域社会、行政、企業と連携しながら、社会問題解決のために「社会的投資」の担い手を増やしています。”(引用ここまで)
そのような組織の理事長、工藤さんのお話の中で印象に残ったことを、自分視点であげてみると・・・
①個人のサポートを主軸に活動している
社会の担い手を応援するこのNPOでは、個人サポートを主軸に活動していることが特徴。確かに現行の制度改革などを主軸に活動すると、どうしても時間・人・金などの資源に注目してしまうが、「個人が行いたいことは何か?」ということに対して支援者がネットワークを使ってつなげていくことは小さいながらも小回りが利いて実現確率も高い。本人を交えて創造していくことを重視しているし、その実践が積み重なれば大きな行政を動かしていくこともできる。つい、教育をどうするか、労働環境をどうするかというような問題は制度自体に注目してこれをなんとかして変えていこうとしてしまうけど(もちろんその意味も長期的には大切だけど)、目の前の困っている人をどうするか、何ができるかに注目することで軽やかに実行していくプランが次々と生まれていくイメージが持てた。
②代表が人事・決済権を持たない
組織の代表が普通に持っていてしかも最大の強みとして効いてくるのが、人事権・決済権の行使。これが普通では組織の常識だが、「育て上げネット」ではそうしていない。代表は対外的なトラブルの火消しなどを積極的に行ったり、法人内での人の争いなどがあったときの仲介を行う。そして特に新しく組織に入った新人に対して積極的な声掛けやインタビューとすることでひととなりや適性をしっかり把握しておく。その人にとって「育て上げネット」が合わないなと思うなら、違う仕事を紹介したり、転職を促したりもする。それもまた個人に向き合う代表の姿勢を感じられた。
③オープンな姿勢
代表が人事・決済権を持たない・行使しないことで、組織メンバーとよりフラットな関係を築ける。また、代表という気負いもあえて持たないことから、知らないことを謙虚に質問したり、気軽に質問されたことに答えるというスタンスが生まれる。聞かれて困ることもないので常にオープンな姿勢でいられるし、相手からは話を聞いてもらえる安心感を持ってもらえる。もちろん代表として対外的にしなければいけないことをおろそかにしているわけでもないし、組織全体の責任を負いながらのミッションは遂行しつつ、組織メンバーとのきめ細かいオープンなコミュニケーションを大切にする姿勢がうかがえた。
④タッチポイントを意識的に多めに
一人の人に長時間接するのではなく、軽めでも多くの人と接触頻度を高めるコミュニケーションを心掛けているとか。このことは組織のリーダーとして大事だ。誰か特定少数の人のみにしか声をかけていない姿がメンバーに映れば、リーダーは遠い存在になってしまう。また声をかけられた特定少数の側は優越感や側近感など特別感をいだいてしまい、そういう人たちとのギャップもまた生じる。かといって誰とも接する時間がないようなふるまいだと、これまた代表は忙しい人、声をかけずらい存在、遠い人という印象を与えてしまう。だから、工藤さん自身も「タッチポイントを多めにとっている」と表現されていたが、細目で小さなコミュニケーションを大切にしているとか。これもリーダーとして備えておきたい資質だと感じた。
⑤困難なことへはステップバイステップで近づく
お話に出てきた具体例は少年院との交流事業の話。いきなり当事者と密に交流するパターンでの事業展開ではなく、間接的にかかわることから始める。そして安心や自信がついてきたところで次のステップへ事業を拡大・深ぼっていくという戦略。確かに、誰もがいつも大ジャンプを目指したいチャレンジャーではないから、安心のもと少しずつ着実に運んでいこうというリーダー側の意図を知ることができた。
というわけで、今回も実りの多い実践的なリーダー論を聞くことができました。また、こうしたブログのシェアで少しでも組織やリーダーに関わる人の参考になればと思っています。