中高年の山旅三昧(その2)

■登山遍歴と鎌倉散策の記録■
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ペルー訪問記(53):第15日目:モレーンキャンプへ移動

2008年10月29日 04時41分14秒 | ペルー:ブランカ山脈ピスコ山登頂

                   <ベースキャンプの朝>

     ペルー訪問記(53):第15日目:モレーンキャンプへ移動
           2008年7月15日(水)

<ベースキャンプの朝>

■冴え渡る月夜
 夜中に,トイレに行きたくなり,目が覚める.今,何時か良く分からないが,テントの外へ出る.
 外は寒いが,雲一つない空に満月に近い月が煌々と冴え渡っている.氷河を抱いた高山が真っ白に輝くように屹立しているのが見える.素晴らしい光景である.月がすごく明るいのでヘッドランプなど全く使わずに,トイレテントまで歩くことができる.
 用が済んだ後,ほんの暫くの間,辺りの明るい夜景を眺めながら過ごす.
 寒い.ふたたびテントに戻って,シュラフに潜り込む.

         <ベースキャンプから見上げる早朝のピスコ山(6:40頃)>

■朝のベースキャンプ
 6時30分頃,起床する.寒いので,暫くの間,テントの中で過ごす.テントの外で,人の声が聞こえてくる.どうやら,現地スタッフが早起きをして食事の支度をしているようである.
 6時40分頃,沢山の着衣を着込んで,テントの外へ出てみる.
 山の窪みにある幕営地には,まだ朝日は射し込んでいないが,目の前には,双耳峰の尖峰が朝日を浴びて眩しく輝きながら屹立している.チュピカルキ(Chopicalqui,標高6354m)
である.

       <朝のベースキャンプ:チュピカルキが見えている(6:40頃)>

■食事テントで朝食
 輝く山を眺めながらストレッチをして,固い体をほぐす.
 7時30分から,食事テントでモーニングティーである.
 今日の朝食は,ホットケーキ,ご飯,味噌汁,ホウレン草のオシタシ,それに各種のティーバッグのお茶である.標高が高くなっているので,食欲が落ちている.困ったことである.

                 <食事テントでモーニングティ(7:34頃)>

<モレーンキャンプを目指して>


■ベースキャンプを出発
 10時17分に,ベースキャンプを出発する.
 使ったテント,シュラフ,身の回り品は,現地スタッフが運んでくれるので,私達は飲料水,防寒具など,最低限必要な身の回り品物だけをリュックに入れて自分で運ぶ.
 ベースキャンプを出発すると,山小屋のある尾根の右岸をトラバースしながら,だんだんと高度を上げていく.これまで長い時間を掛けて高度順応をしてきたとはいえ,やはり登り坂は苦しい.意識して沢山の空気を吸うようにしながら,ユックリ,ユックリと登り続ける.足元はガレていて,やや歩きにくい.山小屋の先には,これか登るピスコ山が白く聳えている.
 TさんとNさんが次第に遅れ始める.
 10時33分頃,一面にガレ場が広がる扇状地のような場所に到着する.多分,氷河が流下してできた所だろうと勝手に想像する.前方には,これから私達が登っていく登山道がクネクネと続いているのが見えている,その登山道の先は,向かって右側から降りてくる尾根の向こうに回り込むようにして見えなくなっている.
 私が立っている足元は,賽の河原のような礫と砂利だけの台地である.見えている登山道も,道と言うよりは踏み跡のようなもので,多分歩きにくいだろう.こんな風景を見ていると,この道が人生を象徴しているような気がしてくる.
 多分,現在の私は,賽の河原のような礫と砂利の中に居るのだろう.そして,私の将来はこの踏み跡道のように頼りなく歩きにくいのだろう.そして行く先は何かに隠れて見えない・・・でも,最終的には真っ白な極楽浄土がある.私は「ブルル・・」と首を振って,縁起でもないことは考えないようにしようと思う.
      
           <ベースキャンプからヒュッテ下のトラバース道を進む>
   ※下の写真は,この絵の「トラバース」と書いてある付近から,ベースキャンプを見下ろして撮影した.


            <振り返るとベースキャンプが見下ろせる(10:33頃)>
              ※ヒュッテは,この写真から外れて左手にある.

■素晴らしい眺めのチュピカルキ
 歩き進むにつれて,周囲の風景がだんだんと嶮しさを増す.
 真っ白に輝くチュピカルキの双耳峰が,ますます近づく.チュピカルキの後に広がる空の色を何と表現したらよいのだろうか.紺碧というか深紫を含んだ青色というか,とにかく簡単には表現できないほど,凄い青色をしている.
 ごつごつと屹立するチュピカルキの山肌は,鋭い刀でザクザクと斬りつけたように切り立った崖が連なっている.その崖が荒々しい氷河で覆われている.とても並みの人間では近づけそうもない凛とした山である.神が宿る山とは,このような山のことだろうと勝手に想像する.


            <途中からチュピカルキが見える(10:55頃)>

■名前のない湖
 11時58分,私達は尾根を登り詰める.尾根の先には氷河湖特有のグレーシャーブルーの水をたたえた湖が広がっている.湖は鋭く切り立った崖で囲まれている.その湖の向こうには,明日,私達が登るピスコ山が白く聳えている.私はガイドのクラウディオさんに,英語で,
 「この湖の名前は何ていうんですか・・・」
と聞く.するとクラウディオさんは,困ったような顔をして,
 「実は,この湖には名前がないんですよ・・・」
と答える.
 “名前のない湖か!”,こんなに素敵な湖なのに・・・私は,名前がないと伺った途端に,そういえば,ニュージーランドのルートバーンにも,“Mt. No Name(名前のない山)”という名前の山があったなと懐かしく思い出す.

            <前方にピスコ山ワンドイ3峰が見える(10:56頃)>
    ※広角レンズでもこの広い風景は収まらない.
     絵に記載のランドロイはワンドイに読み替える(現地人に聞きながらメモしたが正確に聞き取れなかった).
     絵の中の「ランドロイ西峰」は「ワンドイ東峰」の誤り.

■ザレた急坂を下る
 展望の良い所で一休みした私達は,湖に向かって鋭く切り落ちている崖を20メートルほど下って,崖の中腹から延びる尾根の上に乗る.この崖が火山灰のような赤茶けたザラザラな粒で覆われているので,足を置くと,ザラザラと粗い砂が下に向かって崩れていく.数日前に,国際ガイドのKさんが,
 「ピスコ山へ向かう途中に,嫌らしい所があったぞ・・・カナダだったら通行禁止になるよ・・」
と冗談交じりに言っていたが,ここのことかと納得する.
 私達は,前を行く人との間を空けて,1人ずつ慎重に崖を下る.そして崖を下り終えてから,湖のリムに沿うヤセ尾根の道を進む.

               <峠から名のない湖が見下ろせる(12:00頃)>
        ※カメラでは全景が到底収まらないので,ラフスケッチを掲載した.


                  <名もない湖(1:158頃)>

<モレーンキャンプ>

■モレーンキャンプに到着
 リムが終わると,辺り一面に石がゴロゴロと転がっている場所を通過する.
 12時46分,目の前に1000平方メートルほどの空き地が見える所に到着する.ここがモレーンキャンプといわれる幕営地である.中央の平坦な所は沼地だったらしくて,幕営には不向きなので,平地の縁に幕営するとのことである.
 幕営地の入口近くのリムに,3人の先客が居る.若い白人の男性である.
 「今日は,皆さんはどこからお出でになったんですか?」
と伺う.アメリカからワンドイ北峰(Huandoy)にアイスクライミングをするために,ここへ来たという.ワンドイは,私達が登ろうとしているピスコ山のコルから南西につながる3峰の連山である.私達が立っている所から,氷河が屹立するワンドイ東峰(標高6,000m),北峰(標高6,395m),南峰(標高6,356m)の3峰が,人を寄せ付けないほどの荒々しい姿で聳えている(ワンドイ西峰はここからは見えない).
 彼らが登ろうとしているワンドイ北峰が,私達の目の前に立ちはだかるように聳えている.私達の登山技術では,この山の麓にも近づけないなと,私は心の中で震えるように思っている.よくまあこんな凄い山に登ろうと決心したなと,この3人の顔を見ながら驚嘆する.

 私は,ここでお会いするのも何かの縁(えにし)と思って,ノートに3人のサインを頂戴する.3人の無事登頂を願いながら.彼らの名前は,ウエストウイルソンさん,ネイルグリマルチさん,それにウイルウェッエルさんの3人である.
 Mさんが,次第にこの3人に興味を示す.
 彼らの目指すワンドイは,私達が登るピスコ山の西南に続く位置に聳えている針峰である.私のような素人には到底及ぶべくもない難所である.
 「こういう所は,確かに面白いんです・・・でも,こんな所ばかり登っていたら長生きできないな・・」
とMさんが独り言のように言う.
 
               <ワンドイ北峰を目指す若いアメリカ人>
                 ※後に見えるのはワンドイ北峰

■素晴らしい眺望
 モレーンキャンプからの眺望は素晴らしい.この幕営場の周囲はブランカ山脈の標高6,000メートル級の山々で囲まれている.
 荒涼とした幕営場は,累々と重なり合う岩礫の間にできた小さな湖沼跡である.青色を通り越した深い青紫色の高山特有の空が広がっている.その空を引き裂くようにチュピカルキが見えている.
              
            <モレーンキャンプから見た6000メートル峰(13:26頃)>

■テントの設営
 15時頃,現地スタッフが総出で設営したテントの準備が完了する.今晩も私は年の功で1人テントを利用させて頂く.有り難いことである.
 早速,明日の登頂に備えて,ガイドが各人の持ち物のチェックを行う.登山靴,アイゼン,ピッケル,ハーネス,サングラス,防寒具,カラビナ,スリング,ヘッドランプなど,忘れ物がないか,不完全な装備はないかを念入りにチェックする.
 その後,食事テントで,ティーブレーク.
 明日持参するお湯を500ミリリットルのテルモス2本に入れて貰う.なぜテルモスを使うのか.それは,標高5,000メートルを超える高地では,気温が零下10数度まで下がるので,ただの水では凍り付いてしまうからである.

                 <モレーンキャンプ(14:03頃)>

■夕食
 16時を過ぎて,日が沈むと,それまでやたらに暑かったのに,みるみると気温が下がって,寒くなる.
 17時頃から夕食になる.ゴハン,ショウガ入りのスープ,トウモロコシ,パパイヤなどの果物など.
 ある程度,高度障害が出ているらしくて,食欲が殆どない.それでは困るので,少しずつ流し込むようにして食事をする.そうかといって,無理矢理に食べても,高所では消化不良になるだけで,身体に良い訳がない.その辺のかねあいが難しい所である.
 17時40分,食事を終えてテントに引き揚げる.

■明日に備えて
 明日は早出をする.早出に備えて,ハーネス以外の全てを着込み,その上からヤッケ,オーバーズボンまで履き込む.そして,手には薄手のアンダー,毛糸の手袋,オーバーミトンを嵌めている.
 全てを着込んで丸くなった状態で,シュラフに潜り込み.横になる.さすがに寒くはないが,高度障害が出ているらしくて,何となく頭の中がホワーンとするような気がしてくる.
 こうして,ペルー周遊第15日目が終わった.
 明日は,一体,どうなることやらと,一抹の心配をしながら,仮眠を取る.

※2008年11月4日
 転換ミスを訂正
 誤記「ワンドロイ」を「ワンドイ」に訂正.
 誤記「ワンドイ西峰」を「ワンドイ東峰」に訂正.

                            (つづく)
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このシリーズの最初の記事
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