帰 国
<<いよいよ帰国>>
2006年2月4日(土) その2
機内で,けだるい時間が過ぎていく。スクリーンには何か映っているが見る気がしない。描きためたスケッチを手直ししながら時間が過ぎるのを待つ。
添乗員のSさんが私の所へくる。
「・・・ワカパパビジターセンターに,このファックス出しておきましたよ・・」
と私に何か書いてある紙を差し出す。私が外側の空ケースだけを買ってしまったので,中身のCDを,私の家に送るように依頼する文章が書いてある。
===========================================
TO:Wakapapa Visitor Centre
ATTN:Rose Tel 07-892-xxxx
Fax 07-893-xxxx
“Hie !” My name is M\\\\ S\\\\. I am Tour Leader of Japanese Group (Alpine Tour).
My Guest bought CD which “A glimpse of Tongariro” $19.95 but empty inside, only case.
Please send CD to him then he will be happy.
Address is
\\\\-\\-\, T\\\\\, Kamakura
Kanagawa Japan 24\-\\\\\
Name is Mx Flower-Hill
Phone no is 04\\-\\-\\\\\
Alpine Tour
M\\\ S\\\\
============================================
この文章は青インクで,花文字のような字体で書かれている。しかも,途中でCDのイラストが入っていて,傍に顔文字が書かれている楽しいメールである。さすがに外国暮らしの長い添乗員である。何となくバター臭い雰囲気も漂っている。私は,どうせ送ってくる筈などないと多寡を括っているが,とにかく親切にいろいろと手を打ってくれるS添乗員に心から感謝している。
14:43,スチュワーデスがアイスクリームを配る。バニラである。機内が何となく乾燥していて,蒸し暑い。ノートの紙が,完走してバリバリしている。こんな時には,アイスクリームがとても美味しく感じる。外には,かなりの雲が浮いているのが見える。雲間に青い海原が広がっている。一体,どの辺りを飛んでいるのだろうか,全く見当も付かない。気流が多少悪いのか,飛行機は絶え間なく小刻みに上下する。
15:13,スチュワーデスが飲み物を配り始める。私はトマトジュースを貰う。ジュースを飲みながら,スチュワーデスが置いていった紙ナプキンで,折り鶴を作って時間をつぶす。
15:58,時間をそろそろ日本時間に直そうと思う。ニュージーランドと日本の間には,4時間の時差があるので,今,日本時間では11:58である。私の腕時計は水が入って壊れているので使えない。そこで,デジカメの時間を日本時間に戻す。したがって,ここからは日本時間で表記することにする。
13:20,おしぼりが配られる。
13:59,いよいよ夕食である。
夕食は,ビーフとチキンのどちらかの選択だったが,私の所に配られる直前にビーフはなくなった。
「チキンしかありません」
とスチュワードが素っ気なく応対する。
食事をしながら,何となくスクリーンの映画を見る。
“Pride and Prejudice”
という若い貴族の恋愛を描写した映画である。途中から見始めたが,中世のヨーロッパ貴族の生活や価値観が垣間見える。それが面白くて,映画に何となく引きずり込まれてしまう。結局,最後まで見る。
15:15,時折,スクリーンに映し出される日本の地図がだんだんと大きくなる。いよいよ日本が近いなという雰囲気である。
15:30,機長がアナウンスする。
「あと40分ほどで,成田空港に到着します・・・」
この辺りから飛行機はだんだんと高度を下げているようである。今,どの辺を,飛行しているか良く分からないが,長く弧を描く白い波打ち際が続いている。房総半島のどこかであろう。飛行機が大きく旋回する。燃えるような眩しい夕日が機内に射し込んでくる。
16:07,私達を乗せた飛行機は,成田空港に着陸する。そして,ゆっくりと誘導路を移動する。オークランド空港とは比較にならないほど沢山の飛行機の翼がくっつくように過密に駐機している。飛行機の種類や塗装の仕方も多種多様である。この情景に,もの凄いエネルギーを感じる。
16:23,無事,ディセンバーグ。
飛行機から外に出た途端に,もの凄い冷気を感じる。やたらに寒い。あまりの寒さに,何とも落ち着かない。
16:39,意外にすんなりと入国審査が終わる。
16:50,機内に預けた荷物を受け取る。ここで,一同流れ解散である。瞬く間に,辺りから仲間の姿が消える。私は,たちまちの内に,独りぼっちになってしまう。私は成田第二ビル17:03発のエアーポート成田で帰宅することに決める。今日は土曜日。サラリーマンの姿が少なくて,列車は比較的空いている。もう何ヶ月も前から,あれほど焦れったいほどに期待していたニュージーランドの旅も,あっけなく終わってしまった。私は電車がレールを刻む音を聞きながら,充実感と寂寥感が入り交じった複雑な気持ちのまま,何となくぼんやりと窓外の風景を眺めている。
そのうちに喧噪な東京駅を過ぎる。ここからはサラリーマン時代に何百回と往復した路線である。この路線を走っている内に,否応なしに気持ちが現実に引き戻されてくるのを感じる。そして,19:15,大船に到着する。列車から降りると,ホームには強い北風が吹いている。とにかく,めったやたらに寒い。つい半日前まで,南半球の暑い夏の中に居たので,大きな気温の差が堪える。普段,私は滅多にタクシーには乗らないが,今日は荷物があるし,寒い中を歩くのは億劫なので,家までタクシーを利用する。
19:20にタクシーに乗車,19:30に帰宅する。玄関を開けて,我が家に戻ると,そこには日常があった。さっそく,風呂に入る。もう,何もする気にならない。
風呂場で,恐る恐る体重計に乗ってみる。
なんと,9日間で,体重が2キログラムも増えている。これはまずい。明日からは減量に励まなければならない。
待ちに待った今回の9日間の旅は,もう終わってしまった。いよいよ明日からは,現実に戻って,日常の生活が始まる。また,背広を着てさまよい歩く現実が待っている。
(第36話おわり)
<<いよいよ帰国>>
2006年2月4日(土) その2
機内で,けだるい時間が過ぎていく。スクリーンには何か映っているが見る気がしない。描きためたスケッチを手直ししながら時間が過ぎるのを待つ。
添乗員のSさんが私の所へくる。
「・・・ワカパパビジターセンターに,このファックス出しておきましたよ・・」
と私に何か書いてある紙を差し出す。私が外側の空ケースだけを買ってしまったので,中身のCDを,私の家に送るように依頼する文章が書いてある。
===========================================
TO:Wakapapa Visitor Centre
ATTN:Rose Tel 07-892-xxxx
Fax 07-893-xxxx
“Hie !” My name is M\\\\ S\\\\. I am Tour Leader of Japanese Group (Alpine Tour).
My Guest bought CD which “A glimpse of Tongariro” $19.95 but empty inside, only case.
Please send CD to him then he will be happy.
Address is
\\\\-\\-\, T\\\\\, Kamakura
Kanagawa Japan 24\-\\\\\
Name is Mx Flower-Hill
Phone no is 04\\-\\-\\\\\
Alpine Tour
M\\\ S\\\\
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この文章は青インクで,花文字のような字体で書かれている。しかも,途中でCDのイラストが入っていて,傍に顔文字が書かれている楽しいメールである。さすがに外国暮らしの長い添乗員である。何となくバター臭い雰囲気も漂っている。私は,どうせ送ってくる筈などないと多寡を括っているが,とにかく親切にいろいろと手を打ってくれるS添乗員に心から感謝している。
14:43,スチュワーデスがアイスクリームを配る。バニラである。機内が何となく乾燥していて,蒸し暑い。ノートの紙が,完走してバリバリしている。こんな時には,アイスクリームがとても美味しく感じる。外には,かなりの雲が浮いているのが見える。雲間に青い海原が広がっている。一体,どの辺りを飛んでいるのだろうか,全く見当も付かない。気流が多少悪いのか,飛行機は絶え間なく小刻みに上下する。
15:13,スチュワーデスが飲み物を配り始める。私はトマトジュースを貰う。ジュースを飲みながら,スチュワーデスが置いていった紙ナプキンで,折り鶴を作って時間をつぶす。
15:58,時間をそろそろ日本時間に直そうと思う。ニュージーランドと日本の間には,4時間の時差があるので,今,日本時間では11:58である。私の腕時計は水が入って壊れているので使えない。そこで,デジカメの時間を日本時間に戻す。したがって,ここからは日本時間で表記することにする。
13:20,おしぼりが配られる。
13:59,いよいよ夕食である。
夕食は,ビーフとチキンのどちらかの選択だったが,私の所に配られる直前にビーフはなくなった。
「チキンしかありません」
とスチュワードが素っ気なく応対する。
食事をしながら,何となくスクリーンの映画を見る。
“Pride and Prejudice”
という若い貴族の恋愛を描写した映画である。途中から見始めたが,中世のヨーロッパ貴族の生活や価値観が垣間見える。それが面白くて,映画に何となく引きずり込まれてしまう。結局,最後まで見る。
15:15,時折,スクリーンに映し出される日本の地図がだんだんと大きくなる。いよいよ日本が近いなという雰囲気である。
15:30,機長がアナウンスする。
「あと40分ほどで,成田空港に到着します・・・」
この辺りから飛行機はだんだんと高度を下げているようである。今,どの辺を,飛行しているか良く分からないが,長く弧を描く白い波打ち際が続いている。房総半島のどこかであろう。飛行機が大きく旋回する。燃えるような眩しい夕日が機内に射し込んでくる。
16:07,私達を乗せた飛行機は,成田空港に着陸する。そして,ゆっくりと誘導路を移動する。オークランド空港とは比較にならないほど沢山の飛行機の翼がくっつくように過密に駐機している。飛行機の種類や塗装の仕方も多種多様である。この情景に,もの凄いエネルギーを感じる。
16:23,無事,ディセンバーグ。
飛行機から外に出た途端に,もの凄い冷気を感じる。やたらに寒い。あまりの寒さに,何とも落ち着かない。
16:39,意外にすんなりと入国審査が終わる。
16:50,機内に預けた荷物を受け取る。ここで,一同流れ解散である。瞬く間に,辺りから仲間の姿が消える。私は,たちまちの内に,独りぼっちになってしまう。私は成田第二ビル17:03発のエアーポート成田で帰宅することに決める。今日は土曜日。サラリーマンの姿が少なくて,列車は比較的空いている。もう何ヶ月も前から,あれほど焦れったいほどに期待していたニュージーランドの旅も,あっけなく終わってしまった。私は電車がレールを刻む音を聞きながら,充実感と寂寥感が入り交じった複雑な気持ちのまま,何となくぼんやりと窓外の風景を眺めている。
そのうちに喧噪な東京駅を過ぎる。ここからはサラリーマン時代に何百回と往復した路線である。この路線を走っている内に,否応なしに気持ちが現実に引き戻されてくるのを感じる。そして,19:15,大船に到着する。列車から降りると,ホームには強い北風が吹いている。とにかく,めったやたらに寒い。つい半日前まで,南半球の暑い夏の中に居たので,大きな気温の差が堪える。普段,私は滅多にタクシーには乗らないが,今日は荷物があるし,寒い中を歩くのは億劫なので,家までタクシーを利用する。
19:20にタクシーに乗車,19:30に帰宅する。玄関を開けて,我が家に戻ると,そこには日常があった。さっそく,風呂に入る。もう,何もする気にならない。
風呂場で,恐る恐る体重計に乗ってみる。
なんと,9日間で,体重が2キログラムも増えている。これはまずい。明日からは減量に励まなければならない。
待ちに待った今回の9日間の旅は,もう終わってしまった。いよいよ明日からは,現実に戻って,日常の生活が始まる。また,背広を着てさまよい歩く現実が待っている。
(第36話おわり)