「ご老人、ゆうべのエジプトたばこの味はいかがでした。ハハハ……、思いだしましたか。あの中にちょっとした薬がしかけてあったのですよ。ふたりの刑事が部屋へはいって、荷物を運びだし、自動車へつみこむあいだ、ご老人に一ねむりしてほしかったものですからね。あの部屋へどうしてはいったかとおっしゃるのですか。ハハハ……、わけはありませんよ。あなたのふところから、ちょっとかぎを拝借すればよかったのですからね。」
"Man, how did you like the egyptian cigarette last night? Ha ha ha, You remember? I put some drug in it. I wanted you to sleep during the two detective got in the room, brought everything out and put all of them into the car. Do you ask how I could get in the room? It was nothing. I just borrowed the key from your pocket.
二十面相は、まるで世間話でもしているように、おだやかなことばを使いました。しかし、老人にしてみれば、いやにていねいすぎるそのことばづかいが、いっそう腹だたしかったにちがいありません。
Twenty Faces talked calmly as if he was enjoying a small chat. But for the old man, It must be more irritable that he was talking nicely.
「では、ぼくたちは急ぎますから、これで失礼します。美術品はじゅうぶん注意して、たいせつに保管するつもりですから、どうかご安心ください。では、さようなら。」
"Now we must hurry, so excuse us. Please feel comfortable about art works because we will take a good care of them. Then, good bye."
二十面相は、ていねいに一礼して、刑事に化けた部下をしたがえ、ゆうぜんと、その場をたちさりました。
Twenty Faces bowed politely, left there grandly with those detective-disguised subordinates.
かわいそうな老人は、何かわけのわからぬことをわめきながら、賊のあとを追おうとしましたが、からだじゅうをぐるぐる巻きにしたなわのはしが、そこの柱にしばりつけてあるので、ヨロヨロと立ちあがってはみたものの、すぐバッタリとたおれてしまいました。そして、たおれたまま、くやしさと悲しさに、歯ぎしりをかみ、涙さえ流して、身もだえするのでありました。
The poor old man mumbled something, tried to follow them. But the rope tying him was connected to the pillar, he stood up totteringly and fell soon. Remaining in this position, he ground his teeth, wept, squirmed by chagrin and sadness.
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