英語学習は続く・・

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怪人二十面相 75

2023-01-12 23:37:23 | 怪人二十面相

 辻野氏に化けた二十面相は、まるで明智探偵を崇拝すうはいしているかのようにいうのでした。しかし、ゆだんはできません。彼は国中を敵にまわしている大盗賊です。ほとんど死にものぐるいの冒険をくわだてているのです。そこには、それだけの用意がなくてはなりません。ごらんなさい。辻野氏の右手は、洋服のポケットに入れられたまま、一度もそこから出ないではありませんか。いったいポケットの中で何をにぎっているのでしょう。

Twenty Faces in disguise said as if he was admiring the detective Akechi. Still it's not the time to relax. He is an arch-thief, enemy of whole country. He is planning devastating adventure. He must be well-prepared. Look, he has never shown his right hand keeping it in his pocket. What on earth he holds in his pocket.

「ハハハ……、きみは少し興奮しすぎているようですね。ぼくには、こんなことは、いっこうにめずらしくもありませんよ。だが、二十面相君、きみには少しお気のどくですね。ぼくが帰ってきたので、せっかくのきみの大計画もむだになってしまったのだから。ぼくが帰ってきたからには、博物館の美術品には一指いっしもそめさせませんよ。また、伊豆の日下部家の宝物も、きみの所有品にはしておきませんよ。いいですか、これだけははっきり約束しておきます。」

"Ha ha, you seem too excited. This is nothing for me. Still, Twenty Faces, I feel sorry for you. I have ruined your big plan by coming back. Once I have come back you have no chance to steal anything from the museum. And I don't let you keep those treasures of Kusakabe's. All right? I promise."

 そんなふうにいうものの、明智もなかなか楽しそうでした。深くすいこんだ、たばこの煙を、フーッと相手の面前めんぜんに吹きつけて、にこにこ笑っています。

As he talked he looked enjooying. He inhaled tobacco smoke and exhaled toward his opponent smiling.

「それじゃ、ぼくも約束しましょう。」
 二十面相も負けてはいませんでした。

"Then I make a promise too."
Twenty Faces wouldn't back off.

「博物館の所蔵品は、予告の日には、かならずうばいとってお目にかけます。それから、日下部家の宝物……、ハハハ……、あれが返せるものですか。なぜって、明智君、あの事件では、きみも共犯者だったじゃありませんか。」

"I will take all of museum property on schedule. And those treasures of Kusakabe? Ha ha. You couldn't. Because you know, you were an accomplice in that case."

「共犯者? ああ、なるほどねえ。きみはなかなかしゃれがうまいねえ。ハハハ……。」

"An accomplice? Oh, I see. That's a good witticism. Ha ha."

 たがいに、相手をほろぼさないではやまぬ、はげしい敵意にもえたふたり、大盗賊と名探偵は、まるで、したしい友だちのように談笑しております。しかし、ふたりとも、心の中は、寸分すんぶんのゆだんもなくはりきっているのです。

The two of them, the arch thief and great detective with extreme hostility that wouldn't extinguish until the other one destroyed were talking friendly as if they were friends. Still in their heart, they were on full alert.

 これほどの大胆のしわざをする賊のことですから、その裏面には、どんな用意ができているかわかりません。おそろしいのは賊のポケットのピストルだけではないのです。

This is a thief planning such an audacious act, you never know what kind of preparation he got. It's not only the pistol in his pocket you should be scared.

 さいぜんのひとくせありげなボーイ長も、賊の手下てしたでないとはかぎりません。そのほかにも、このホテルの中には、どれほど賊の手下がまぎれこんでいるか、知れたものではないのです。

The chief waiter might be his subordinate. Or no one knows how many subordinates he has in this hotel.

 今のふたりの立ち場は剣道の達人たつじんと達人とが、白刃はくじんをかまえてにらみあっているのと、少しもかわりはありません。気力と気力のたたかいです。の毛ほどのゆだんが、たちどころに勝負を決してしまうのです。

Now two of them were like two master swordsmen with real swords graring each other on the battle field. It's a fight of spirit versus sprit. A tiny bit of carelessness may lead to the end.

 ふたりは、ますますあいきょうよく話しつづけています。顔はにこやかに笑みくずれています。しかし、二十面相のひたいには、この寒いのに、汗の玉がういていました。ふたりとも、その目だけは、まるで火のように、らんらんともえかがやいていました。

Two of them keep talking amiably. Their faces are smiling. However Twenty Faces got some perspiration on his forehead despite of the coldness. Their eyes were shining like fire burning.

 

この章は終わりました。