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怪人二十面相 72

2023-01-06 22:52:56 | 怪人二十面相

 小林君はそういいながら、その記事ののっている個所をひろげて見せました。社会面の半分ほどが二十面相の記事でうずまっているのです。その意味をかいつまんでしるしますと、きのう二十面相から国立博物館長にあてて速達便がとどいたのですが、それには、博物館所蔵の美術品を一点ものこらず、ちょうだいするという、じつにおどろくべき宣告文がしたためてあったのです。例によって十二月十日というぬすみだしの日づけまで、ちゃんと明記してあるではありませんか。十二月十日といえば、あますところ、もう九日間しかないのです。

As Kobayashi said this, he opened the newspaper to show the article. Half of the city news section was about Twenty Faces. Basically the director of National Museum recieved a express letter from Twenty Faces which was a surprising declaration that he will take all of art works in the museum. As usual it said the date clearly, 10th of December. It means that they have only 9 days.

 怪人二十面相のおそるべき野心は、頂上にたっしたように思われます。あろうことか、あるまいことか、国家を相手にしてたたかおうというのです。今までおそったのはみな個人の財宝で、にくむべきしわざにはちがいありませんが、世に例のないことではありません。しかし、博物館をおそうというのは、国家の所有物をぬすむことになるのです。むかしから、こんなだいそれた泥棒を、もくろんだものが、ひとりだってあったでしょうか。大胆だいたんとも無謀ともいいようのないおそろしい盗賊です。

It seemed like Twenty Faces' audacious ambition reached the summit. Of all things, he is trying to antagonize this nation. So far all he has done is stealing the private possessions which was abhominal but not unprecedented. However attacking the museum is to steal the possession of the nation. There has never been such a daring thief. Is it audacious or reckless.

 しかし考えてみますと、そんなむちゃなことが、いったいできることでしょうか。博物館といえば、何十人というお役人がつめているのです。守衛もいます。おまわりさんもいます。そのうえ、こんな予告をしたんでは、どれだけ警戒がげんじゅうになるかもしれません。博物館ぜんたいをおまわりさんの人がきでとりかこんでしまうようなことも、おこらないとはいえません。

Come to think of it, is it possible? In the museum dozens of people are working. There are guard people too. There are policemen too. On top of that with this declaration how closely they watch, you never know. Maybe a wall of policemen surround the whole museum.

 ああ、二十面相は気でもくるったのではありますまいか。それとも、あいつには、このまるで不可能としか考えられないことをやってのける自信があるのでしょうか。人間の知恵では想像もできないような、悪魔のはかりごとがあるとでもいうのでしょうか。

Ah, is Twenty Faces has gone insane? Or he is confident enough to do things impossible? Does he have a devil's conspiracy no human can imagine?

 さて、二十面相のことはこのくらいにとどめ、わたしたちは明智名探偵をむかえなければなりません。

Now, put aside Twenty Faces, we are meeting the detective Akechi.

「ああ、列車が来たようだ。」
 辻野氏が注意するまでもなく、小林少年はプラットホームのはしへとんでいきました。

"Ah, the train's coming."
Before Tuzino warned this Kobayashi rushed to the edge of the platform.

 出むかえの人がきの前列に立って左のほうをながめますと、明智探偵をのせた急行列車は、刻一刻こくいっこく、その形を大きくしながら、近づいてきます。

Standing front row of crowd and turn left, he could see the express train Akechi was on coming nearer and nearer.

 サーッと空気が震動して、黒い鋼鉄の箱が目の前をかすめました。チロチロとすぎていく客車の窓の顔、ブレーキのきしりとともに、やがて列車が停止しますと、一等車の昇降口に、なつかしいなつかしい明智先生の姿が見えました。黒い背広に、黒いがいとう、黒いソフト帽という、黒ずくめのいでたちで、早くも小林少年に気づいて、にこにこしながら手まねきをしているのです。

With an aerial vibration the steel black boxes passed through bofore him. Passing people's faces in the windows, a squeak of the brake, then train stopped. He could see familiar Akechi on the entrance of the first class coach. He was in black suits, black coat and black hat, saw Kobayashi and waved his hand smiling.

「先生、お帰りなさい。」
 小林君はうれしさに、もうむがむちゅうになって、先生のそばへかけよりました。

"Master, welcome home."
Kobayashi ran to him with a delight feverishly.