上橋菜穂子 『 隣のアボリジニ 』 ←アマゾンへリンク
わたしにしては珍しく、出たばかりの本だ!
というのはさておいて、守り人シリーズや獣の奏者シリーズで有名な上橋菜穂子である。
あのあたりはおおかた借りて読んだが、カバーをめくって著者紹介を読むと、必ず書いてあるのが、
アボリジニ研究をする文化人類学者、という一節。
へえ!こんなにたくさん本を書いて、学者さんもやっているの!?
研究についての本も読んでみたいなぁ、と思っていた。
そうしたら、この本が出たのだ。
いや、文庫になるまえ、2000年に筑摩書房から単行本で出ていたらしい。
それはちっとも知らなかった。
で読んでみましたよ。
さすが上橋菜穂子、ほかのちくま文庫の民族研究みたいな本とは読みやすさがぜっんぜん違う。
構成、話の持って行き方、そしてなんといっても文章のレベルが断然上。
こういうノンフィクションはちょっと、という方にも安心してお薦めできます。
とはいっても、内容もイージーかというと決してそんなことはない。
彼女のフィクションがそうであるようにね。
普通の人がアボリジニ、といって思い出すあたりとは違い、
白人社会のそばにいる、人によっては見分けもつきにくいくらい混血の進んだ、
アボリジニの現在の状況を、彼女ならではの視点で描写している。
『 裸足の1500マイル 』 というDVDを最近見たので、
荒野に暮らすアボリジニ、という絵はイメージすることができた。
また、同化政策で引き離された子供がどういう目にあっていたのか、という絵も
イメージすることができた。
その情報もとても大事なんだけれど、
そういう歴史があった上に、今どういう状況があるのか、
ということが書かれているのだ、この本は。
かつて自分達のものだった伝統をずいぶん失ってしまった、「隣のアボリジニ」、
その揺れるアイデンティティがつらい。
よそから来た白人こそよそ者であるべきなのに、
むしろ白人の隣に暮らしている彼らこそがよそ者のような気分を味わされているようだ。
しかも、もう少し伝統を守っているアボリジニ達からも、よそ者扱いされる。
しかし、伝統を失ったことをただ単に悲しむだけではない。
これは 『 新書アフリカ史 』 にあったことだが、
われわれ日本人が 開国 という言葉からどんなイメージを思い起こすだろうか?ということだ。
ただ無理やり外から国を開かれ、伝統をぶち壊しにされてしまったよくないこと、
という風には思わないだろう。
いや、日本の開国に比べたら、オーストラリアで起きたことはもっと酷いけれど、
それでも伝統のよくない部分もあって、あれがなくなったのはよかった、と
思われている部分もある、ということだ。
なにごとも単純ではない。
わたしは群馬の山奥に住んでいるけれど、移住してさっさと悟ったことがある。
ああ、わたしは死ぬまでよそ者なのだ、ということを。
どれだけ長い時間ここに住んで、仲良くお付き合いしたとしても、
ネイティブの方々との壁は消えない、ということを。
彼らはここに住んでいる間はマジョリティだけれど、
一歩でもここから出ると、急に萎縮してしまう。
職業意識のあまり強くない人が多くて、大の大人が
春は山菜摘み、夏は釣り、秋はキノコ狩り、冬は鉄砲、
仕事そっちのけで遊びやお付き合いにいのちをかけているように見える。
それはある意味、とっても人間らしく充実した生き方のように見えるけれど、
その一方で仕事による自己実現が宙ぶらりんで、
そこがなんだか自信のなさに繋がって見えることもある。
そういうネイティブの方々のなかには、
ネイティブとそうでない者との付き合い方を、あからさまに変える人もいる。
付き合わない、と公言する人もいる。
やっぱり一線を画した付き合い方しか出来ないのだ、わたしは。
壁はわたしの方から作っただけではなく、彼らの方にもある。
こういう感じ方は、文化人類学的でしょう!?
それにしても17年も住んでいると、集落が限界に近づいてきていることを肌で感じる。
国土が荒れます。
国の政策として、もっと過疎地に人が移住するようにしてくれないと、
とってもまずい、という気がする。
話がそれた。
荒野のアボリジニではなく、白人の隣に暮らす混血のアボリジニ達を、
上橋菜穂子ならではのアプローチ、女だったからできたアプローチで描いている。
彼らを知るには、そのまえにオーストラリアの状況というものも知らなくてはならない。
そのくだりも面白かった。
現在のオーストラリア、というと、
ジャスティーン・ラーバレスティア 『 あたしと魔女の扉 』 3部作を思い出す。
わたし的には ? なんだけれどこの話は、それは置いておいて、
オーストラリアの人の考え方、というのが垣間見えた話だった。
ティーンの少女の置かれた状況は、『 隣のアボリジニ 』 とも重なるし。
近いけれど遠いオーストラリア、
隣のアボリジニ達は親類縁者ととても親しく楽しく、したたかに生きている。
↑↑写真はサルビア・ガラニチカとニラの実、等。 秋雨に打たれている。
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