退院してひと月が経った。
そういえば左のあばら骨と腹の境の引きつれるような痛みはいつの間にかなくなっていた。その周囲が軽くマヒしている感じは残っているけれど。まだ少し息苦しくなるけれど、左側を下にして横向きになることも出来るようになった。風邪をひいて気管支がひゅうひゅういっているような息苦しさというのもずいぶん楽になった。大泣きしてしゃくりあげるような感じにひゅっひゅっとなることがたまにあるけれど、横隔膜ががんばっているんだろう。
回復しているのだなあ。
しかし抗がん剤(UFT)が始まったので、そこで少し体力を削がれている感じはある。
肺がんの相対生存率は 胃がんや大腸がんなどの消化器がんでほどではないにせよ5年を超えると生存率は大きく低下しないので、抗がん剤を手術後1,2年程度使うのはそれなりに効果があるとされる。主治医には抗がん剤を使うと10ポイント程度率が上がる効果がある、と言われた。
体力は削がれている感じはあるものの、口内炎になるとか下痢になるとか風邪っぽくなるとかという症状は出ていないので、続けていこうと思う。
ところでUFTというのは1984年に大鵬薬品から発売され今まで使われ続けている代表的な飲み薬の抗がん薬で、テガフールとウラシルの2成分を配合したものである。
テガフールに聞き覚えがなくてもウラシルなら聞いたことのある人はいるだろう。そう、DNAには含まれずRNAにのみ含まれる塩基だ。ではテガフールは何か、というと、そのままでは作用を発揮しないが肝臓でフルオロウラシル(おや?ウラシル?)に変化するいわゆるプロドラッグだ。じゃあフルオロウラシル(5-FU)は何か、といえば、ウラシルの5位水素原子がフッ素原子に置き換わったものでウラシルによく似ているため、がん細胞が増殖するときにRNAに取り込まれることで分裂を妨げる作用がある。核の中でDNAは主に情報の蓄積・保存の役割を担っているがRNAはその情報の一時的な処理を行うので、必要に応じて合成・分解される頻度はDNAよりもずっと高い。この抗がん剤がDNAではなくRNAに作用する物質なのはそういう理由だ。
フルオロウラシルを直接用いずテガフールを使うのは、作用持続が目的である。一緒にウラシルが配合されているのはフルオロウラシルの分解を抑えて効果を高めるためである。
肺がんと診断されてから手術を受ける間にたくさん検査を受けたが、その中でPET検査というのがあった。陽電子放出断層撮影(positron emission tomography) のことで、放射線を出す物質を含む薬剤を用いる核医学検査の一種である。フルオロデオキシグルコースを用いる場合ブドウ糖代謝の盛んな部分が分かる検査で、がん細胞は細胞分裂が盛んなので見つけやすい。フルオロデオキシグルコース(18F-FDG)というグルコースの2位の水酸基を18フッ素で置換したものを、検査前に点滴した。18フッ素は108分の半減期で陽電子を放出してほとんどが安定な18酸素に変化する。
ハロゲンでいちばん小さいフッ素原子はいろいろ使い勝手がよいらしい。
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