![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/00/e6/3f3bfaea39c668b6711d582270dec9c9.jpg)
「熔ける」 井川意高 読了
2011年大王製紙の創業家3代目の社長がカジノ使用目的で子会社から106億円もの不正借り入れを行て逮捕されたいわゆる「大王製紙事件」、
その本人による自伝的な著書。
近々のコロナ騒ぎの中でパチンコ屋に並ぶ人々を見て、なぜそこまでギャンブルしたくなるのかを知りたくギャンブルで身を崩した人の本を読んでみようと考えたことからこの本を手に取った。
結果として、この本を通じて自分が思うような一般的なギャンブル依存症の思考回路を理解することはできなかったが、
この本を読み、逆にこんな人でもギャンブルにハマるとブレーキが効かなくなるものかと驚かされた。
以下が、簡単な内容と感想です。
●本書の良い点
文章は簡潔にそれでいて克明に書かれており、内容も文章も非常に読みやすく、特に時期や金額など、すごくきちんとまとめれられている。
●本書の微妙な点
副題を「懺悔録」としているわりに、人物評価にかかわる箇所には”ふくみ”のある記載が多く、また週刊誌などへの反論も目立つのでどうにも中途半端な印象を受けた。
構成上仕方ないが、章ごとでビジネス書、暴露本、海外カジノの解説、犯罪者の手記といったように内容がコロコロ変わるため、自分のように特定の目的をもって読んだ人間からすると、どのジャンルのボリュームとしても中途半端かと思った。
自分な不利な点も書かれていないので、事実ではあるが偏っていると思われる。
●内容
前半は著者の王子製紙創業家に生まれ大王製紙社長に至るまでの回想的な内容と、大王製紙の経営者としての実績がまとめられている。
読むまで知らなかったのだが、著者自身がただの創業家3代目の放蕩息子ではなく、東大法学部にストレート合格した頭脳を持ち、経営者としてきちんと仕事をされていた(本書にある限り)ということが良くわかった。
そして、一方で経営者でありながらもギャンブルにハマっていく様子が克明に語られており、なぜ海外のカジノにはまったか。
ジャンケットと呼ばれる仲介業者の存在と、その解説や、また種銭がショートした際に、ジャンケットと海外でどう資金を手配したかなどかなり具体的に語られている。
種銭作りのため、質屋で元金の3000万円に対して半分以上の手数料を取られても「最終的に取り返せばいいのだ」と自分に言い聞かせる情熱的で破滅的なギャンブラーの姿は、前半に書かれた理知的で厳しい経営者からはとても想像できない豹変っぷりであり、その対比が非常に興味深い。
この点が大なり小なりギャンブル依存症の考え方なのだろう。
後半は、子会社からのの資金借り入れの細かな内容から、特別背任で地震が逮捕され、取り調べを受けられたことが細かく書かれている。
後半部も当時の時代背景などの解説も含めてわかりやすい手記となっている。
ギャンブル依存症であるほかに、アルコール中毒であったことの指摘を受けられたことをさらりと述べられており、ご自身の生活にもだいぶ問題があったのではないかと思われる。
●印象に残ったエピソード
大正製薬と永谷園の社長と結婚式のテーブルでいっしょになり、多業種におけるテレビCMの話からヒント得て、広告宣伝の費用対効果に気づき広告宣伝の戦略を徹底的に考え直した、というところは個人的に勉強にった。
●読み終えて
前半の経営者としての章では仕事への情熱を感じなかったのは書き方に拠るところだけだろうか。
ほかの役員や、ブレーンと呼べるような人との仕事の取り組みの描写も無かったし、孤独だったんじゃないかと勘ぐってしまう。
やはりギャンブルが仕事のストレスの捌け口になっていたことだろう。
なお、この事件による創業家と、大王製紙の経営陣の対立は未だにクリアになっていないようで、色々尾を引いている。
今後もウォッチしていきたい。