診察室でのひとり言

日常の診察室で遭遇する疑問、難問、奇問を思いつくままに書き記したひとり言

人食いバクテリア

2015年10月21日 | 医療、健康
またTVで放送されていたのか大げさに診察室に入ってきた Oさん。「 先日、脛のところがチクチクしたので人食いバクテリアかと心配して皮膚科に行ってきました。大丈夫といわれホッとしました」。「また、TVででもやっていたの?」。「すごく進行が早くて脚が腐って死んでしまうんですね!人を食べるなんて怖いですね!」。「???」。「日本でも調査され出して15年ほど経っているようですが、ここ数年に症例数が増えてきたので騒がれ出したのかもしれませんね」。死亡率は3割ぐらい。死亡しなくても手足の切断など大きな障害を残す怖い病気です。「私も死ぬのではと、一人でパニックになっていました(笑)」。元々、扁桃腺炎や丹毒、蜂窩織炎、とびひ(伝染性膿痂疹)などの原因菌(A群溶連菌)で珍しい細菌(バクテリア)でもなく、庭で草いじりをして虫刺されした後に汚れた手で特に爪を立ててかきむしった数日後に脛のあたりを赤く腫らして受診する患者さんが結構います。これは丹毒、蜂窩織炎で皮下組織までの侵襲であり抗生剤を服用すると間もなく治癒します。尤も、丹毒や蜂窩織炎は黄色ブドウ球菌感染の方が多いようですが。このA群溶連菌が筋肉や血液にまで到達すると劇症化して3日程度で死亡してしまうようです。今のところ年間300名ほどの感染者で死亡者は90名ほどですから、昨年の交通事故死亡数が4,100名強に比べると危険性は非常に低い数字と感じませんか。よくもこんな低い数字の疾患をTVで堂々と放送したかと思うとこれを計画したTV局スタッフのレベルの低さが示されている。「Oさん、今まで生きてきて交通事故にあったり、怖い目にあったことはありましたか?」。「いいえ、全くないです」。「なら、心配しなくていいですよ(笑)」