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■取材・文/西谷格 【プロフィール】 西谷格(にしたに・ただす)/ライター。1981年、神奈川県生まれ。
地方紙『新潟日報』記者を経て、フリーランスとして活動。
2009年に上海に移住、2015年まで現地から中国の現状をレポート。
著書に『香港少年燃ゆ』『ルポ 中国「潜入バイト」日記』など。
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11月26日夜から27日にかけて、中国全土で「ゼロコロナ政策」への抗議デモが続発。
参加者は「何を書いても消される」という当局の言論弾圧を象徴する白い紙を手にし、「習近平は退陣せよ!」と中国共産党を激しく批判した。
デモのうねりは海を越え、11月30日には東京・新宿でも在日中国人たちが声をあげた。
そして12月に入ると習政権はついにゼロコロナ緩和の動きを見せ始めた。中国事情に詳しいライター・西谷格氏が、新宿で行なわれた抗議デモの様子をリポートする。
11月30日午後7時、新宿駅南口に在留中国人たちが集結した。
開始時刻を迎えると、路上に主催者や中心人物と見られる人々が並び、メッセージの書かれた紙を掲げて声をあげた。
周囲には、すでに平日とは思えないほど多くの人が集まっている。
「国賊・習近平は退陣せよ! 共産党は退陣せよ! 自由万歳! 民主万歳!」
シュプレヒコールの音頭を取っていたのは、天安門事件後に海外に亡命した中国人たちが組織する団体「民主中国陣線」のメンバーだ。
民主活動家だけのことはあり、絶叫調の演説で聴衆をアジテートした。
周囲と比べ、突出してテンションが高い。
「我々はみんな立ち上がった。
我々には信念がある。
中国共産党はまもなく崩壊する。
この政権は必ず滅亡する。
歴史に逆行することはできない。
長江も黄河も決して逆流することはない!」
その後は「検査はいらない! メシをくれ!」「ロックダウンはいらない! 自由が欲しい!」といったコールがあちこちから聞こえた。
群衆の数は目算で500人ほどだろうか。大勢の人々が集まり、熱気に包まれていた。
マイクの音量が小さいと「こっちは聞こえません!」と合いの手が入ったり「習近平をロシアに送ってしまえ!」など即興でヤジが入ったりして、中国らしいフランクな雰囲気だった。
交通整理を行なうスタッフもおり、特に混乱は見られなかった。
しばらくするとデモ現場は4つほどのゾーンに分かれ、道路の東側は「共産党は退陣せよ」などと強い主張を訴える演説ゾーン、西側は静かに祈りを捧げる黙祷ゾーンとなった。
こうなることを予測していたのか「熱血派はこちら、穏健派はこちら」と書かれたボードで案内をしている人もいた。
友人と2人で現場に来ていた20代の在留中国人女性が語る。
「今後、中国本土での取り締まりは厳しくなると思いますが、人々の考えは暴力によって変えられるものではありません。
この運動はゼロコロナの抗議だけでなく、自由や民主といったものの要求も含んでいます。今後も続いていくと信じています」
上海に住んでいる友人は、現地で行なわれたデモに参加して大変な目に遭ったという。
「2日間も警察に拘束され、スマホの中身を全部削除させられたそうです。インスタグラムで連絡を取り合っていたのですが、アカウントごと消えてしまいました」 中国本土ではインスタグラムは使用できないが、友人は「VPN」と呼ばれるインターネット上の”抜け道”を使ったという。
「私の友人たちは、8割ぐらいが使っていると思います」とこの女性は話す。
彼女は都市部の出身で、日本で大学院を卒業したばかりだという。
都市部の若い“エリート層”には、想像以上に海外の情報が入っているのかもしれない。
同じく新宿のデモに参加した20代の在留中国人男性はこう語った。
「日本でドキュメンタリー映画『時代革命』を見て、ようやく中国共産党の恐ろしさを知りました。彼らの恐さを日本人にも知って欲しいのです」
映画『時代革命』は2019年に香港で起きた大規模な反政府デモを記録したもので、中国や香港では発禁扱いとなっている。
「日本で仕事を見つけたので、ずっと日本に住むつもりです。
親には経営者ビザを取得してもらい、日本に移住してもらうことも考えています」 デモ現場には、香港やウイグル、チベットの権利回復や独立を訴える巨大な旗が掲げてられていたほか、「習近平 国賓不適 来日迎撃」と書かれた穏やかならぬ看板を持つ男性が現れるなど、反中意識の強い人々も一挙に集まっていた。
ゼロコロナに反対したい人、自由と民主の獲得を求める人、とにかく中国共産党が嫌いな人……。ゼロコロナに反対というスローガンこそ共通だが、参加者の思いにはそれぞれ微妙な温度差があるようだ。
個人的に参加している人もいれば、組織の一員と見られる人もいる。
中国本土ではすでに厳しい取り締まりが始まっており、今後のデモ活動は困難な展開が予想される。
天安門事件以来とも言われる市民の抗議運動はどうなるか、注目したい。
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