ジャーナリストの佐々木俊尚
が11月1日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。中国が提唱する「グローバルAIガバナンス」について解説した。
〇中国「グローバルAI秩序」提唱、アメリカに対抗
中国の習近平国家主席
は10月31日までに、世界各国とAIの秩序ある発展を目指す「グローバルAIガバナンスの提唱」を発表した。
中国は国内でAI規制を強めており、提唱を国際社会に浸透させ、アメリカに対抗してAI分野の主導権を握りたい考えとみられる。
飯田)一方でアメリカのバイデン政権は、AIの安全性に関する新基準などを盛り込んだ大統領令を公表しています。
この分野でも米中対立になるのでしょうか?
佐々木)ChatGPTのような生成AI、対話するAIをどうつくるかは全部オープンに公開されているので、日本でも生成AIをつくる企業や研究所が出てきています。
飯田)ビジネスに特化したものも出ています。
〇習近平主席や天安門事件については答えない中国の生成AI
佐々木)基本的にデータを大量に用意し、それを読み込ませるやり方自体は既にわかっているので、誰でもできるのです。
中国の企業もたくさんつくっているのですが、いろいろ調べてみると、習近平主席や天安門事件について聞いても答えてくれないそうです。当然でしょうね。
〇宗教観が影響し、「AI規制論」が浮上するアメリカ
佐々木)「テクノロジーをどこまで進めるのか」は難しい議論になっています。
例えば、FacebookやGoogleは個人のパーソナルデータを集めて、広告ビジネスやマーケティングデータなどに活用しています。
それに対して、「人を監視して得たデータをもとに経済を回している」と批判する『監視資本主義』という本も出ており、ベストセラーになっています。
そういうビッグ・テック企業が批判される流れが、この5年くらいで起きています。
佐々木)その流れのなかで、生成AIも大量に集めたインターネットのデータを読ませているので、どうしてもフェイクニュースなどがそのまま出てしまうという問題があります。
特にアメリカなどがそうですが、キリスト教の影響が強いので、「人間そのもの」のようなAIをつくるのはいかがなものかと。
「我々は神ではないので、人間そのもののようなAIをつくってはいけないのではないか」という宗教観が影響し、生成AIに対してかなり警戒的になっています。
だからアメリカでは、「AI規制論」のようなものが浮上しているのです。
〇プライバシーに関係なく、AI技術を進める中国 ~将来的には中国に抜かれる可能性のあるアメリカ
佐々木)しかし、中国は基本的にプライバシーデータを気にしません。国を挙げて個人の監視をしている状況ですから、今後も積極的にAI技術を進めていくでしょう。
そう考えると、いまはアメリカが圧倒的に強いのですが、AIに関しては将来的に中国に取って代わられる可能性は0ではない。ここ数年、それが懸念されています。
〇1つの企業だけが先端的にAIを独占してしまうと、圧倒的に強大な力を持ってしまう可能性も
佐々木)何が問題なのかと言うと、生成AIの元になっている「大規模言語モデル(LLM:Large Language Models)」は、深層学習でAIに大量のデータを読ませるというやり方をしており、それは全部オープンにされています。
なぜオープンにするかと言うと、AIの研究者や技術者の間では、AI技術をクローズドにしてしまうと危ないと考えられているのです。
〇中国だけが強大なAIを持ったらパワーバランスが完全に崩れる
佐々木)1つの国だけ、あるいは1つの企業だけが先端的にAIを独占してしまうと、圧倒的に強大な力を持ってしまう可能性があります。
一時、アメリカのヘッジファンドがAIを活用しているという話がありました。ものすごく速いスピードで投資して、株価の上下動に合わせて「パッ」と買うというような。
しかし、ヘッジファンド1社が強力なAIを独占してしまうと、そのヘッジファンドだけが株価で大儲けできてしまう。
実際に、一時ヘッジファンドがAI技術者をかき集めていた時代があるのです。
飯田)そうなのですね。
佐々木)とても批判されて、いまはそうでもなくなっていると思いますが、「なるべく1社に独占させないようにしよう」というのがAI技術者の間での主要な考え方です。
ただ、ChatGPTをつくった米OpenAI社は技術を公開していません。
〇習近平氏が「グローバルAI秩序を」と言っても乗る国はない
佐々木)一方、Facebook改めMetaがつくっているAIはオープンソースになっており、せめぎ合いが常にあるのです。
これをやっておかないと、中国だけが強大なAIを持ったらどうなるのかと考えたら、完全にパワーバランスが崩れる可能性があるので危険です。
飯田)中国だけが。
佐々木)アメリカが中心になり、公開して「オープンソースにするのか、あるいは独占するのか」という議論はあるにしろ、きちんと議論できる土壌をつくっておかないと、アメリカ企業だけ、あるいは中国企業だけが独占するような状況にはなって欲しくない。
習近平氏が「グローバルAI秩序を」と言っても、中国のAIが完全に世界を覆い、それを習近平氏がコントロールするような状況はディストピア以外の何物でもないので、これに乗る国はないと思います。
そうは言っても、アメリカで規制論が台頭している状況のなか、中国が先を行ってしまう可能性もあるので、相当警戒する必要があります。
〇ChatGPTのような生成AIを信頼する日本人
飯田)アメリカの大統領令でも、安全保障に関しては政府への通知を義務づけています。
それ以外のところは開発を進めて欲しいと、2つに分けるような趣旨です。
佐々木)有名なAI研究者のジェフリー・ヒントン氏さえ、「いまのAIは危険すぎるので、このまま放っておくと危ない」と言っています。
一方で、日本人は意外とChatGPTのような生成AIを信頼している人が多いのです。
日本はいままで、テックに関して後ろ向きな人が多かった。
飯田)積極的に進める感じではありませんでした。
佐々木)「テクノロジーが怖い」と言って、アメリカや中国に比べるとテクノロジーに乗れないところがあったけれど、今回の対話型AIに関してだけは、世論調査によると日本人はとても前向きです。
私は「ドラえもん」と「鉄腕アトム」のおかげなのかなと思います。
喋るAIに関して、我々は期待感が高い。
飯田)なるほど。
佐々木)テックに乗り遅れている日本ですが、このノリを上手く活かし、AIの世界では前のめりに進んで「アメリカと肩を並べることができなくもないかな」と、個人的には期待しています。
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