・今回はおしゃれについて。
ちょっと前になるけれど、
ある女性週刊誌で読者投票による、
「ワーストドレッサー」を選んでいた。
ワルクチというものは、
たのしいものであるけれど、
かねがね私は「ベストドレッサー」を選ぶのはいいが、
「ワースト」なんてきめる基準があるのかなあ、
と思っていた。
そもそも服装というのは、
その人の個性のあらわれだから、
服装をけなす、というのは、
その人の個性をけなす、
ということであろう。
それから服装は時代の流行や嗜好に左右される。
現代(昭和五十年代)からみて、
大多数の人がワーストテンに入るような服装でも、
半世紀あとでみれば、斬新な美意識のさきがけ、
ということになるかもしれない。
だからその時代時代の「ベストテン」を選ぶのはいいが、
「ワーストテン」というのは、どうもおかしい、
と思うわけである。
たとえばいまハヤリのダークグリーンや、
それにカーキ色というのか、
昔の兵隊服、国民服の色、
あの色が若い女性に好評で、
Tシャツやスーツに仕立てて着ているのをよく見たが、
彼女らにしてみればベストでも私などからみれば、
まさにあれこそ「ワーストドレッサー」である。
戦時中を連想させ、
ひいては硝煙や血の匂いを思わせる。
兵士の服の色、
あの色の服はどんなに小粋に仕立ててあっても、
私個人ではワースト一位、
というところである。
しかし要するに、
こういうことはお遊びで、
ワーストドレッサーに選ばれるということ自体、
いまの世では価値あることなのだろう。
「注目度が高い、ということですから、めげないで」
と編集部はなぐさめている。
この記事をごらんになった方もあると思うが、
ワースト一位は大家政子さんであった。
二位が八代亜紀さん、
三位が芳村真理さん、
以下、森昌子さん、美空ひばりさん、
松田聖子さん、小柳ルミ子さん、
佐藤陽子さん、研ナオコさんと来て、
十一位くらいに黒柳徹子さんなどと続くが、
これでみると、個性がある人ほど名があがってる、
ということではないか。
そうしてその理由として、
いちばん多いのに、
「年相応のおしゃれをしてもらいたい」
「年相応の流行を」
「若いとき買った服は捨てたら」
「お年を考えなさすぎ」
「も少しシンプルなドレスを」
「もっとシックなものを」
という声が多い。
こういう反応もいかにも日本的である。
そして投票者の住所を見て気付いたが、
関東が多い。
関東の人は「シック好き」「シンプル好き」「年相応」
という好みがかなり強いようである。
私は実のところうんざりしているのだ。
年とって黒っぽいもの、
地味なものを着て、
それがシックだと思い込んでいる手合いの、
美意識には飽きてしまった。
私は大家政子さんとは二、三度しかお目にかかっていないし、
自分では夫人と同じものを着てみたいとは思わないが、
あのぱ~っと目に立つ原色のギンギラギンは、
ご本人によく似合ってすてきで、
胸のすくファッションだと思うのだ。
実はあれは、
大阪の伝統的な色彩感覚なのである。
大阪では着物などもパッと目をひく、
派手な柄がもてはやされる。
「何という泥くさい」
と他県からは軽侮の目で見られがちであるが、
しかし私から見ると、ヨソの土地の着物は、
あまり地味すぎて物足りず、
気分まで滅入ってしまう。
(次回へ)