むかし・あけぼの

田辺聖子さん訳の、
「むかし・あけぼの」
~小説枕草子~
(1986年初版)角川文庫

5、おしゃれ ①

2022年07月01日 08時14分33秒 | 田辺聖子・エッセー集










・今回はおしゃれについて。

ちょっと前になるけれど、
ある女性週刊誌で読者投票による、
「ワーストドレッサー」を選んでいた。

ワルクチというものは、
たのしいものであるけれど、
かねがね私は「ベストドレッサー」を選ぶのはいいが、
「ワースト」なんてきめる基準があるのかなあ、
と思っていた。

そもそも服装というのは、
その人の個性のあらわれだから、
服装をけなす、というのは、
その人の個性をけなす、
ということであろう。

それから服装は時代の流行や嗜好に左右される。

現代(昭和五十年代)からみて、
大多数の人がワーストテンに入るような服装でも、
半世紀あとでみれば、斬新な美意識のさきがけ、
ということになるかもしれない。

だからその時代時代の「ベストテン」を選ぶのはいいが、
「ワーストテン」というのは、どうもおかしい、
と思うわけである。

たとえばいまハヤリのダークグリーンや、
それにカーキ色というのか、
昔の兵隊服、国民服の色、
あの色が若い女性に好評で、
Tシャツやスーツに仕立てて着ているのをよく見たが、
彼女らにしてみればベストでも私などからみれば、
まさにあれこそ「ワーストドレッサー」である。

戦時中を連想させ、
ひいては硝煙や血の匂いを思わせる。

兵士の服の色、
あの色の服はどんなに小粋に仕立ててあっても、
私個人ではワースト一位、
というところである。

しかし要するに、
こういうことはお遊びで、
ワーストドレッサーに選ばれるということ自体、
いまの世では価値あることなのだろう。

「注目度が高い、ということですから、めげないで」

と編集部はなぐさめている。

この記事をごらんになった方もあると思うが、
ワースト一位は大家政子さんであった。

二位が八代亜紀さん、
三位が芳村真理さん、
以下、森昌子さん、美空ひばりさん、
松田聖子さん、小柳ルミ子さん、
佐藤陽子さん、研ナオコさんと来て、
十一位くらいに黒柳徹子さんなどと続くが、
これでみると、個性がある人ほど名があがってる、
ということではないか。

そうしてその理由として、
いちばん多いのに、

「年相応のおしゃれをしてもらいたい」

「年相応の流行を」

「若いとき買った服は捨てたら」

「お年を考えなさすぎ」

「も少しシンプルなドレスを」

「もっとシックなものを」

という声が多い。
こういう反応もいかにも日本的である。

そして投票者の住所を見て気付いたが、
関東が多い。

関東の人は「シック好き」「シンプル好き」「年相応」
という好みがかなり強いようである。

私は実のところうんざりしているのだ。

年とって黒っぽいもの、
地味なものを着て、
それがシックだと思い込んでいる手合いの、
美意識には飽きてしまった。

私は大家政子さんとは二、三度しかお目にかかっていないし、
自分では夫人と同じものを着てみたいとは思わないが、
あのぱ~っと目に立つ原色のギンギラギンは、
ご本人によく似合ってすてきで、
胸のすくファッションだと思うのだ。

実はあれは、
大阪の伝統的な色彩感覚なのである。

大阪では着物などもパッと目をひく、
派手な柄がもてはやされる。

「何という泥くさい」

と他県からは軽侮の目で見られがちであるが、
しかし私から見ると、ヨソの土地の着物は、
あまり地味すぎて物足りず、
気分まで滅入ってしまう。






          


(次回へ)

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