
・私は着物は着ないが好きなので、
展示会などあるとよく見にいくのだが、
京・大阪を見た目には、
東京呉服は「こうと」すぎる。
「こうと」というのは上品、地味、シック、シンプル、
というような意味をすべてふくみ、
なお時によると、質素、ひかえめ、
といったニュアンスもある古い言葉である。
東京のデパートの呉服売り場をまわると、
「こうと」なものが多くて、
他の階にもしかして派手なのが並んでいるかもと、
店員さんに、
「呉服売り場はここだけですか?」
と聞いたりしてしまう。
関西にも「こうと」好みはいるものの、
同じ着物を着るなら、ぱっとしたのを着よやないか、
というのが関西女の好みである。
また同じ派手さでも、
京都と大阪と神戸ではそれぞれニュアンスが違う。
京都は大阪弁でいうと「はんなり」した派手さである。
「はんなり」も、
浄瑠璃の近松あたりから使われる古い言葉だが、
はれやかな、それでいてソフトな派手さ、
上品で派手という感じである。
神戸の呉服の派手さは、
これは私個人としていちばん好きな色や柄の多い町だが、
モダンでシックな派手さ、
シックといっても決してくすんでいない、
金茶とかライトブルーとか、
そういう呉服に珍しい色まで染まっていて、
洋服のような感じで古典柄という気物が多い。
もともとモダンなセンスの町なので、
通りいっぺんの派手さや、
くすんだ「こうと」な味では客を引き付けない。
神戸の呉服屋さんは、
京都の染物屋さんにいろいろヒントを与え、
「こういう色で」と注文を出して染めさせるそうである。
そして大阪だが、
これがまた独特のけばけばしい派手さで、
ふしぎにこの町ではそういうものが似合っていたのだ。
室町・桃山時代のギンギラギンが似合う町であったのだ。
その伝統にのっかって、
大屋政子女史のギンギラギンがあるのであって、
私は大屋夫人の肩を持つわけではないけれど、
狭い小さい島国、
誰もかれもシックで「こうと」になられると、
気が滅入ってしまう。
パ~ッと派手な人もいてもらわなければ、
陽気になれない。



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