1989年~91年頃のJTB時刻表に、「高知県マリン」という会社が運航する高知港と以布利港(土佐清水市北部)を結ぶ高速船航路が掲載されていました。
高知県南西部の土佐清水市には鉄道が通じておらず、高速道路や高規格道路も全く整備されていない頃なので、高知市と土佐清水市の間は直通の特急バスで4時間、JR特急列車と路線バスの乗り継ぎでも最短3時間程度でした。そこを僅か2時間5分で結び、一度は乗ってみたいと思っていましたが、果たせぬまま運休となり、やがて時刻表からも消えてしまいました。
長年ネットで調べても情報が出てこず(フェリー航路とか高速船航路は愛好家がそこそこいるので1970年代の瀬戸内のマイナー航路でも情報がそこそこ出てくるのですが・・・)、唯一覚えているのが「1990年代半ばに新聞に掲載された桂文珍師匠の思い出話の中に、仕事で高知からこの航路に乗船したが揺れに揺れて参ったという内容があった」だけでした。
久々に思い立ってネット検索したところ、土佐清水市の市史編さん室が2021年4月に発行した「市史編さん便り」が引っ掛かりました。
https://www.city.tosashimizu.kochi.jp/fs/4/1/9/3/2/7/_/hist_news_r3_01.pdf
4ページ目の「市史執筆のブレイクタイム(27) 足摺宇和海国立公園指定と観光ブーム」の後半でこの航路が取り上げられています。(運航会社は「高知マリン株式会社」と誤記されています)
1988年7月20日に就航したものの不振が続き、1990年度末時点の会社の累積赤字は5億8533万円にも達し、結局就航から僅か3年後の1991年7月15日に事業休止許可申請書を提出し、10億円かけて新造された双胴型高速船「コーラル」もあえなく売却されたとのことです。不振に終わった理由としては、
・当初採算ベースを1便 65 人と見込んでいたこと。
・航路であるため運航が天候に左右されやすく、年間欠航率が15%であったこと。
を挙げています。末期は大阪高知特急フェリー<当時高知と大阪の間を大型フェリーで毎日夜行1往復していた>の完全系列下に入り、同航路との連携で経営の立て直しを図ったものの状況は改善しなかったそうです。あるいは、当初は社名のよく似た「高知県交通」<当時高知県のほぼ全域で路線バスを運行していた>の系列だったのかもしれません。
いわゆるバブル期にもかかわらず惨憺たる実績で、日経テレコン内の「高知海運株式会社の会社情報と与信管理」という情報の中に、
https://www.nikkei.com/compass/company/79oX2FyKeXQudhmYEW4Nyi
1991年8月22日付の日経産業新聞に「高知―土佐清水結ぶ高速船、高知県マリン、運航休止――乗船率10%にとどかず」という見出しの記事が掲載された記録が出てきます。この高知海運という会社は現存するようですが、かつての高知県マリン株式会社との関係は不明です。
手元にあるJTB時刻表の1991年7月号(つまり運航休止間際の頃)によれば、運賃は片道4420円に値上げされており、時刻は以下の通りでした。
<第1便> 高知港発8:00→以布利港着10:05 (高知港では大阪からの大阪高知特急フェリーに接続、以布利港では土佐清水・足摺岬・竜串方面へのバスに接続)
以布利港発10:20→高知港着12:25 (以布利港では足摺岬・土佐清水からのバスから接続)
<第2便> 高知港発15:55→以布利港着18:00 (以布利港では中村方面へのバスに接続)
以布利港発18:15→高知港着20:20 (以布利港では足摺岬・土佐清水からのバスから接続、高知港では大阪への大阪高知特急フェリーに接続)
以布利港側に高速船用のターミナルがあったかどうかは不明ですが、もしかすると現在「大阪海遊館海洋生物研究所以布利センター」がある場所が該当するかもしれません。
海遊館の開園は1990年5月ですが、以布利センターの開設はその7年4か月後の1997年9月24日(=高速船の休止から約6年後)です。
<5/16追記>
高知県の放送局「RKC高知放送」の公式サイトのアーカイブのコーナーで、僅か3年の短命に終わった高知~以布利航路で就航していた高速船「コーラル」の写真が公開されていました(2022/2/6放送分)。
https://www.rkc-kochi.co.jp/tv/eyeplussuper/archive/eyeplussuper_164437664811538
1枚目は高知港に停泊中の様子、2枚目は以布利港に停泊中の様子です。2枚目の「コーラル」のバックに見える家並み・防潮堤・スロープになった道路(いずれも現存)の位置関係からすると、現在大阪海遊館以布利センターになっている桟橋の北側から、防潮堤と平行に停泊している高速船を撮影したものと思われます。