先週末に二つの映画を見ました。「博士の愛した数式」と「日本の青空」、どちらにも共通するのは社会から評価されなかった「天才」の話ということです。「博士の愛した数式」は事故で80分しか記憶が続かなくなった数学者の、「日本の青空」は現在の日本国憲法をつくった在野の憲法学者の物語です。二つの映画の大きな違いは、前者がフィクションであり、後者が実話であるということ・・。
「博士の愛した数式」は難しい数学の話を、とても親しみやすい身近な話題にしたという点で秀逸な作品だと思います。4の階乗は24・・とか、28は完全数・・なんていう話題は、普通はひきつけられません。階乗ってなに?完全数って何?とおっしゃる方は、ぜひ映画を見てください。
配役は博士に寺尾聡、記憶が続かない博士と毎日「初対面」をして身の回りの世話をするシングルマザーの家政婦役に深津絵里、彼女の子供で、数学教師に成長して、この映画の重要な舞台回し役をするルート(頭が平らなためについたあだ名)に、寅さんの子役だった齋藤隆成、博士の姉で「意惑深い」難しい役に浅丘ルリ子。それぞれが、とても好演をしています。
この映画は同名の小川洋子さんの小説を映画化したもので、公開は2006年1月。小説はその後2ヶ月で100万部の売上げを突破したという、おまけのエピソードつきです。特定の時期や場所が関係しないので、数字のように「永遠に」楽しむことのできる映画ではないかと思います。
もう一本の「日本の青空」は新しい映画で、できたばかり。現在は自主上映中で、この映画の応援サイトに行くと、全国の上映会情報が見られます。私は自宅のある川崎市宮前区の自主上映運動の方々が主催された試写会で見ることができました。
物語は鈴木安蔵という憲法学者が、戦時中、学生時代に治安維持法違反(ビラ貼りをしただけですが)で逮捕され、獄中で大日本帝国憲法や海外の憲法の勉強に打ち込み、刑期を終えてからも食うや食わずの生活(アカ学生に就職口は無いので)をしながら憲法の勉強をして、在野のまま、じつは国際的には日本の憲法研究の第一人者になっていた・・というもの。
ここまでだと何も面白くないですね。この映画の肝心なところは、GHQの押しつけだと総理までが言っている日本国憲法の草案作成過程で、たくさんの日本国民の憲法案がGHQや日本政府に届けられ、GHQ案は実際に鈴木安蔵たち「憲法研究会」が作成した憲法草案を下書きにしたのだということです。
どうも、このことは秘密でもなく、戦後すぐに自由党が企画した憲法調査会でもそのことが書かれているようですし、どうもホントは衆知でないといけない事実らしいのです。恥ずかしながら、私がこのことを知ったのは昨年の秋くらいにメーリングリストで流れてきた情報からでした。それでもまだ、勝手にそのようなことをやっていた人たちがたくさんいたんだ・・という程度のお粗末な認識でした。
現在の平和憲法の原案が、まさにこうして日本人の手によってつくられたのだということは、この映画で初めて実感したというしだいです。通常はこの手の映画は、戦前(戦中)の特高警察のひどさとか、もの言えぬ時代は嫌ですねえ的に、その時代を経験した人たちの閉鎖的な共感の中に埋没しがちなのですが、この映画では、つぶれそうな出版会社の雑誌編集部に送られた派遣社員の女性が、正社員の地位獲得をめざして特集記事へのアイデアを出し、採用されて鈴木安蔵の業績と評価をたどるという筋立てになっています。
派遣という今風の設定と、資料探しの過程そのものをドラマ化したこと、それと過去の出来事を交互に絡ませることで、2時間を飽きさせないで見せる映画に仕上がったのだろうと思います。
主人公の鈴木安蔵には、NHK大河「山本勘助」に出演中の高橋和也、その妻に藤谷美紀、重要な舞台まわし役の派遣の女性に田丸麻紀という配役陣です。個人的には白洲次郎役の宍戸開の好演も印象的でした。
GHQは鈴木安蔵たちの憲法研究会の草案を直ちに英訳するのですが、当時の日本政府は。読みもしませんでした。日本政府の憲法作成担当責任者の松本蒸次は、鈴木安蔵と聞いても「誰だそれ」という反応でしたが、GHQの法務担当者たちはアメリカの図書館には鈴木安蔵の本はどこにでもありますよと答えます。世界の中で、我が道を行きたがる日本の特性かもしれません。
もしかしたら、今でも「押しつけ憲法」といってはばからない、安倍総理も「鈴木安蔵、だれそれ?」と言うのかもしれません。
なお、川崎市宮前区での上映会は6月12日(火)に3回上映で行われます。
会場は宮前区民館大ホール、上映時間は?10:30、?14:00、?18:45 となっています。
前売り券は1000円。私も扱っておりますので、お近くの方はご連絡ください。
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