宮崎での楽しみの一つは何といっても温泉。他にすることがないのだ。インターネットにアクセスできる環境にないし、油彩を描く環境も整ってはいない。レコードは一杯あっても聴くオーディオがない。久々に日本のテレビを観たり、自転車で走り回ったりは出来る楽しみはあるのだが…。
画像はポルトガルの家並を表現した油彩で文章とは関係ありません。
実はポルトガルにも温泉はある。シャーベスなどは70度もの熱いお湯が出る。白衣を着た係の人がコップにお湯を注いで手渡してくれる。胃に良いのだそうだ。そんな温泉もある。でも日本の温泉とは少し違い、温泉療養施設といった趣のところが多い。温泉場にはホテルもあるが普通のホテルと何ら変わらない。只、お湯が多少ぬるぬるしていたりするので温泉の有難みを感じる。
でもやはり日本の温泉が良い。帰国中宮崎ではほぼ毎土曜日には温泉と決めていた。路線バスで行く。平日はバスの便が悪く、土日に限る。土日にしか行くことが出来ない。たいてい土曜日と決めていたが、土曜日に用事がある時は日曜日に順延する。とにかく週一回だ。
バスは宮交シティを12:35分に出て『宮崎自然休養村このはなの湯』に到着はだいたい13時頃。バスだから正確にはゆかない。13時に着いて、帰りのバスは16:35分。3時間半もあるのは少々長すぎると当初は思っていた。
着いてすぐに食堂に行き昼食。豚ロースの生姜焼き定食が旨い。920円だがなかなか値打ちがある。温泉代は330円。宮崎市民で高齢者の価格だ。普通は420円程。そして1回に1つスタンプを押してくれる。スタンプが10個貯まれば1回が無料になる。回数券もある。10回分の価格で11回が使える。
食堂を出たところに血圧計がある。豚の生姜焼き定食を注文して出来上がるまでの間に血圧を測る。いつも少々高めだ。でも温泉から上がり再び計ってみると、確実に正常値になっている。体重計にも乗る、温泉に入る前と出てからだと1キロの体重が減っている。
豚ロースの生姜焼き定食も毎回だと飽きる。いや他にもいろいろと定食や麺類などもあるので飽きることはないのだが、その雰囲気に飽きる。1人では寂しい。それでバスに乗る前に宮交シティ周辺のファストフード店で食べたりもする。自宅で食べてから行くこともある。ちょっと早い目の昼食になる。自宅から自転車で宮交シティまで行く。5~6分だ。雨の日は傘をさして歩く。20分かかる。それから12時35分のバスに乗る。
バスは宮崎駅が始発で宮交シティは中間点、なのでそれもいつも5分程度遅れて来る。でもこのバスが良い。宮崎市民で高齢者は1乗車100円なのだ。何処まで乗っても1乗車100円。普通に払えば1500円もする距離でも100円。温泉まで30分ほどの距離だが1乗車だから100円。往復200円。高齢者には敬老パスがありあらかじめチャージしておく。チャージが1000円以下になれば1000円ずつ追加チャージする。チャージはバスセンター、バス車内、コンビニでも出来ます。と車内放送でしょっちゅうテープが流れる。
温泉には毎日の様に来ている常連客が多い。毎回見る顔が何人も居る。でもその人たちはバスでは行かない。自家用車で行く様だ。毎土曜日にバスで行くのは僕と3人の女性だけ。帰りにも同じバスだがそれしかないから一緒になりいつも挨拶を交わす。もう10年通っておられると言う。
当初、3時間半は長すぎると思っていたが慣れてくるとこの長さが良い。温泉には大浴場と源泉風呂、歩行浴、そしてサウナがある。露天風呂はない。大浴場は沸かし湯だと言う。源泉はほぼ体温程度。歩行浴も源泉だ。大浴場にはそれ程長くは浸かれないが源泉浴は何十分でもいける。気持ちが良い。でも4~5人で満員。皆ゆっくり入っている。僕もだいたい15分を目安に浸かる。お隣でいびきをかいている人も居る。気持ちが良くて寝てしまうのだ。
ゆっくり時間があるので源泉浴も良いが、サウナが良い。1度には5分から長くて10分程度だが4度も5度も入る。サウナには5分計の砂時計があり、それの2回分を目安に入る。入る前には身体を拭き上げる。入口に消毒済みのスポンジマットが用意されているのでそれを持って入り座布団としてお尻に敷く。10分近くなると汗が噴き出す。出る時には立てかけてあるモップで座った後の汗を拭きとる。そしてスポンジマットを使用済みの容器に入れる。白衣を着た従業員の小母さんがそのマットの消毒に何回となくやってくる。大浴場の温度を計り。シャンプーやボディソープの追加。足拭きタオルの交換など。仕事は多い。サウナから上がって脱衣場に設置してある冷水器の水を飲む。格別に旨い。
サウナと言えば僕は昔若い頃、スウェーデンに住んでいた時のことを思い出す。ストックホルムにいた後半にはストックホルム郊外のリンケビィという町の学生寮に住んでいた。学生寮と言っても家族向きで夫婦であったり、子供連れであったり用の学生寮であった。6階建て程であったと思うが地上階にはコインランドリーがあって、各戸で洗濯機は必要ではなく、非常に合理的であると思った。洗濯機用のコインは事務所で買うのだが、洗濯機、乾燥機、アイロンそれにシーツを畳んでプレスする道具がありこれは便利だと思って感心していた。今、町にあるコインランドリーのはしりだと思うが、学生寮にあって、勿論、その学生寮の住民だけしか使えない場所であった。
その隣に卓球台などが置いてある50畳程の屋内運動場もあった。そしてその隣に更衣室とシャワー室、そしてサウナがあった。サウナは学生寮の住民は自由に使うことが出来るが、使いたい時間には名前を書いておく必要があった。
僕はその屋内運動場を定期的に使っていた。2台の卓球台を隅に片付け、不動禅少林寺拳法の練習に使っていたのだ。師範の野口公彦さんに来て頂き、スウェーデン人のオーケ。フィンランド人のアレクシそして僕の4人で稽古をしていたのだ。更衣室で胴衣に着替え。終わればシャワーを浴びる。でもサウナは1度も使ったことはなかった。屋内運動場を使うにも更衣室を使うにも、シャワーを使うにも名前など1度も書いたことはなかった。大体殆ど誰も使わないのだ。
でも1度、練習が終わってシャワーを浴びようとしたところ、誰かがサウナを使っている気配なのだ。そして入口には名前が書かれてあった。サウナから女性が顔を覗かせ、「どうぞ、良かったらご一緒に」などと言うではないか。それもスウェーデン女性の飛び切りの美人が。「いやいや、我々はシャワーだけで…」と師範以下皆はたじたじであった。
今から思えばもっとサウナを利用しておけばよかった。こんなに気持ちの良いものもない。
スウェーデンを引き揚げ、ニューヨークで1年を過ごした。ニューヨークでは働きづめでお金が貯まった。そのお金で南米を1年かけて旅をした。お金が貯まったからと言っても豪華な旅ではなく、極力に切り詰めた貧乏旅行だ。ニューヨークからリオ・デジャネイロに飛び、リオのカーニバルを堪能した後、ローカルバスや列車を乗り継ぎ、最南端のフエゴ島まで行き、それから北上した。一つの国ごとに1か月以上を費やした。誰もが行く観光地はもちろん、誰も行かない僻地にも貪欲に足を延ばし自然を満喫した。
誰もが行く観光地、クスコからマチュ・ピチュまではローカル列車で行った。クスコを早朝5時発だ。8時発は観光客専用で途中は止まらないでマチュ・ピチュ迄直接行ってしまう。僕たちはその手前のアグア・カリエンテで泊まるつもりなのでその観光列車には乗れない。列車は1日に2本しかない。アグア・カリエンテに1週間泊った。駅がホテルだ。アグア=水、カリエンテ=熱い、熱い水。つまり温泉だ。駅から1分も歩けば小さいプールの様な露天風呂がある。入口のところで子供を連れた小母さんが料金を徴収する。昼間はあまり誰も入らない。バックパッカーたちは夜中に入る。小母さんがいなくなる夜中は無料になるのだ。そして混浴だ。そんなところに1週間滞在した。
1日かけてインディオの道を上りマチュ・ピチュを観光した。途中、満員の観光バス何台もが僕たちを追い抜いて砂埃を舞い上げ走り去った。
宮崎の路線バスは敬老パスで乗る人は居るが、いつもは空いている。経営は大丈夫かなと心配してしまう。それでも日本語アナウンスの他に英語と韓国語、中国語のアナウンスが流れる。今年四月にもダイヤ改正が行われ一部縮小になった路線などもある。温泉行だけはこれ以上なくならないでほしい。
2024年6月からは温泉入浴料を値上げすると、張り紙があった。330円が420円になる。温泉は宮崎市営の施設であるらしい。値上げは僕にとっては痛いが、他所に比べればそれでも安いのだから仕方がないか。
温泉から上がると館内にはいつもBGMとして心地よいジャズが流れている。VIT