・・・略・・・
「プロジェクトは1986年の着手当初から機密事項になっていました」と
サンプターは言う。「水道会社の横やりです。当然論文発表は不可能でした。
サンプターらのチームが下水処理施設からの放流水に含まれる何らかの物質が
魚の性を変化させていることに最初に気づいてから すでに数年が経過していた。
環境庁との三年間の契約も終わりに近づき 彼らは報告書の作成に取り掛かった。
『微量有機化合物が魚類に与える影響』と題した報告書は政府の役人に提出され
機密扱いの印を押されて保管庫へ納められた。
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「川から取水された水は 浄水プロセスを通過します」とサンプターは説明する。
「このプロセスは 水道会社がどの物質を除去しようとしているかによってさまざまでしょう。
とはいえ 川の水に含まれる何らかの物質が処理プロセスを通り抜け
人々が飲む水道水中に存在することはあり得ることです・・・
水道水からはきわめて多種多様な合成化学物質が検出されており
それらを除去するのは非常に困難です。
PCBやDDT アスピリンやパラセタモールといった使用頻度の高い薬
そしてさまざまな種類のイオンなどがあげられます。
現在では 人間が大量に使用している多数の化学物質が水道水から検出されるのです。
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原因物質の追及を続けているうちに 彼らは非常によく似た結論に達し
やはり論文を発表していない研究チームが他にもあることを知った。
パリの国立自然史博物館のローラン・ビラン博士はセーヌ川のウナギの異変を観察していた。
彼もまたウナギのビテロゲニン値を調べていたのだ。
驚いたことに 下水処理施設の下流では 未成熟のメスのウナギが
まるで成熟したメスのようなビテロゲニン反応を示した。
パリを流れるセーヌ川にも
エストロゲンのような作用をする何らかの物質が含まれているに違いない
という ぞっとするような結論が出た。
しばらくして ジョン・サンプターはドイツの修士課程の学生から連絡を受けた。
彼女はハンブルグ近郊を流れるエルベ川で 魚の生殖腺を研究していて
雌雄同体の魚を数多く発見した。
これもまた エルベ川のエストロゲン汚染をしめしていた。
これらのことから サンプターはこの問題は
世界中で発生しているのかもしれないと考えるようになった。
その後文献の調査からサンプターらのチームは
アメリカでも同じような問題を調べている科学者がいることを知った。
ただし研究対象は魚ではなく ワニとカメだった。
フロリダ大学のジレット教授らのチームだ。
「彼らの研究に強い興味を持ちました。私たちがやっていることと
明らかな共通点があったのです」とサンプターは回想する。
アメリカの研究チームは
自分たちが発見した異変の原因こそ
最も信憑性が高いと確信していた。
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