1996年2月 ワシントン USA
スチュワート・アービン博士が研究結果を記者発表しようと準備していた
ちょうどそのころ 全米の有力企業によって組織される化学製造者協会は
特別対策グループを作ろうとしていた。
その目的は プラスチックや殺虫剤や工業製品に使われる合成化学物質が
人間や野生生物の生殖に影響を及ぼしているという
最近になってマスコミなどでしばしば取り上げられている報告に対処するために
足並みのそろった戦略を考える事だった。
内分泌問題対策グループは検討結果をまとめ
「化学工業会への打撃は多大なものになるだろう
いくつかの合成化学物質が名指しされており・・・
これらの問題は化学製造以外の工業分野にも影響をもたらしうる」とした
一部の消費者は すでに特定の化学物質の使用をやめていた。
対策グループは「議会や世論が 科学に基づいた法規制やコストパフォーマンス
を考えた意思決定を次第に受け入れるようになってきているのと同時に
内分泌作用についての関心の広がりが 保守的な法律モデルへの
回帰に拍車をかけ 化学物質の暴露について科学的には解明されていないにもかかわらず
その使用が 大幅に制限されることが考えられる」とした。
議事録は BBCの番組を含め マスコミの関心をこう分析した。
「BBCの『男性への攻撃』などのニュース番組は・・・・
一部の化学物質が生殖能力に悪影響を及ぼしたり
乳がんの増加の原因になるのではないかなどといった
健康に関する感情的な世論をあおる可能性が強い」
「人々の不安を鎮静化する必要がある」というのは一致した見解だった。
数多くの「行動計画」を定めた中で
対策グループは 次のような対応策が必要だとした。
● 医学を含む様々な専門分野から「科学界のオピニオンリーダー」の助力を得て
マスコミ報道や世論の焦点を 推測ではなく確かな根拠に基づく科学に向ける。
● 議会や環境保護局 州政府 連邦政府 マスコミ 一般世論との連携をはかり
内分泌問題に対して正当な対応策を練り 時期尚早あるいは不必要な
取り締まりや新たな法規制を避ける。
● 効果的な教育プログラムを開発する。
● 既存のデーターベースを調べ 内分泌仮説を支える主要な科学理論を検証する。
さらには「世界規模の協力関係を築くこともまた優先事項である。
アメリカ化学工業会はEU諸国の同様の業種団体と定期的な会合や
ビデオ会議を通じて協力し合うべきである」とした。
世界的足並みのそろった対応策が必要とされたのだ。
対策グループの結論は書面にきちんとまとめられ
環境・健康・安全性・管理委員会へ回された。
化学工業会がこうした戦略を立てているのと時を同じくして
米政府も情報収集に乗り出していた。
米国科学アカデミーは化学物質に対する大規模な研究を開始し
環境保護局はこの問題を最優先議題と位置付けた。
副大統領もこの問題に関して熱のこもった意見を表明しており
「不妊・性器異常・乳がんや前立腺がんなどホルモンに誘発されたがん
そして神経障害」などに悩まされる未来を憂慮している。
ヨーロッパでも調査のための特別委員会が設けられたが
英国では例のごとく 当局が重要な研究を機密扱いにしていた。
これはあえて将来に禍根を残すような動きだ。
大西洋を挟んだ両側で つい4年ほど前には
誰も耳にしたことがないような科学的議論が
工業や政治や公衆衛生に絡んだ重大な問題へと膨らんでいた。
一部では人類の生存を脅かす可能性さえ信じられている科学的議論をめぐって
各方面で戦略準備が整えられようとしていた。
本書は 科学が何を いかにして 発見したかを
明らかにする真実の物語である。
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