「或る事件が十三才の時、校庭で起きた。
秋始めのある晴れた日、私は昼食後の満腹感で校庭を歩きはじめた。
他の中学生達は既に校庭で遊んでいた。
すると急に、風の音と彼らの遊び声が、ボリュームを落とし、あたりが静まり、私は白いワイシャツが風に揺れているさまを見続けていた。
それは風の強い日の旗のように、バタバタと音をたてていた。
その衣服の白さとバタバタという音だけに、私の意識は集中した。
その時、ひどい孤独と共に私は叫んだ。――ああ! 彼らも人間だ、と。
その白さ、バタバタという音は、私の意識に、他人としてそこに「ある」という感じを、叩きつけた。」
出所:卒論「暗号について」昭和42年
秋始めのある晴れた日、私は昼食後の満腹感で校庭を歩きはじめた。
他の中学生達は既に校庭で遊んでいた。
すると急に、風の音と彼らの遊び声が、ボリュームを落とし、あたりが静まり、私は白いワイシャツが風に揺れているさまを見続けていた。
それは風の強い日の旗のように、バタバタと音をたてていた。
その衣服の白さとバタバタという音だけに、私の意識は集中した。
その時、ひどい孤独と共に私は叫んだ。――ああ! 彼らも人間だ、と。
その白さ、バタバタという音は、私の意識に、他人としてそこに「ある」という感じを、叩きつけた。」
出所:卒論「暗号について」昭和42年
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