
(1)
ソクラテス コンニチハ!
A どうぞ、お座りください。えっ、ことによると、ソクラテスさんですか? 変装じゃないですよね。一段とヒゲが長くなりましたねぇ。
ソクラテス ソオネ。
A ええ、どうしたんですか、こんなところに現れたりして……。
ソクラテス チョット、ヨッテミタノヨ。最近ノ日本ノ様子ヲキキタクテ。
A そうですか……。ここは年金相談所ですけれどいいんですか? ……。
何がなんだか分からないけど、まあ、いいでしょう。なんでもありの世の中ですから。
ソクラテス トコロデ、貴君ワ、ドウシテ哲学ヲ志シタンダッタカナ。
A えっ、また、そんな突飛なことをお聞きになるんですか!
ソクラテス 単刀直入ダケノコトヨ。私は哲学徒ダカラ。
A でも、どうしてそんなことをご存知なんですか?
ソクラテス ナンデモ承知シテイルノヨ。天上ニ住ンデミルト、下界ノコトハナンデモ見エルンダカラ。
A そういうものですか。うるさくないんですかねぇ、森羅万象が見えてしまうのは。
ソクラテス 大丈夫。或ル見方ガアルンダヨ。
A そうなんですか、物事を透かして見るとか、
ソクラテス イヤ、違ウネ。
A 透かすんじゃないんですか。
ソクラテス ソウ。天上ニ来レバ分カルヨ。経験シナケレバ分カラナイモノッテアルンダヨ。
A そうですか。じゃ、楽しみですねぇ。
ソクラテス モウシバラク待ツンダネ。デ、キッカケハ?
A えっ、何でしたっけ。それより、どこかで聞いたことのあるフレーズですねぇ。
ソクラテス 何デモ知ッテイルンダカラ。
A そうなんですか。きっかけ……は何だったか、哲学を始めたのは、そお、夜間高校を卒業して就職先が無くて、雑踏の中の新宿駅のベンチで、「人生とは、何ぞや?」という大疑問に取り付かれたことかなあ。
ソクラテス ナルホド。
A 若いときって、皆、そんなものでしょう。
ソクラテス ソオ。デモ、ソレヲ真正面カラ問ウ人ト、生活ニ紛レ込マス人トアルデショウ。
A そうかもしれませんねぇ。
ソクラテス デ、貴君ハマッスグ哲学ノ勉強ニハイッタンダッタネェ。
A 真っ直ぐでもないんですけど、……。
ソクラテス 卒論ハ「ヤスパースノ暗号ニツイテ」ダッタネ。
A それもご存知なんですか。じゃあ、試すようなことになりますが、その中の一節が指導教授の『気分の哲学』という本に引用されたこと、……
ソクラテス アア、知ッテイマスヨ。アノコトハ万人共通ノ経験ナンダガ、ソレヲ記憶ニ残ス人ハ少ナイカモネェ。
A そうですか。まれなことですか。
ソクラテス デ、ソノ後、苦労シテ『情緒の力業』ヲ著述・出版シマシタネ。
A そこまでご承知なんですか。もう、お手上げです。私には、あなたはすっかりリアルになってきました。
ソクラテス マダマダ。デ、ソノ書評デ唯一、貴君ヲ理解シタ文章ヲ書イテクレタ人ガオラレタンダッタヨネ。
A ええ、それで私の目的は達成されてしまいました。
ソクラテス ソンナコトハナイデショウ。
A もう、いいんですよ。
ソクラテス ソオ、天上界ニ行クト、淡白ニナルンデ、コレ以上深入リハシナイケレド……出版ハ慶賀ナコトデシタヨ。ソノ著作ノ苦労モ含メテ。
A ありがとうございます。でも、なんだか変ですねぇ。お墨付きをもらったような……、幻のような……。
ソクラテス デ、貴君ハナゼ年金ノ仕事ガライフ・ワークニナッタノカナ。
A えっ、それはご存知ないんですか!
ソクラテス モチロン、知ッテマスヨ。デモ、自ラハ語ラナイノヨ。人ヲシテ語ラシメル ッテワケ。産婆術!
A そうでした。産婆術でした。年金の仕事は会社に勤めてからです。.たまたまの配置換えで厚生年金基金の仕事をするようになり、以後、会社からの再々の肩たたきを肩透かしして、二略十五年間年金の仕事をさせていただきました。
ソクラテス ソオ、ジャア、理事ニハ
A 肩透かし屋には無縁の話です。
ソクラテス ソウダッタネェ。
(以下略)
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