F4と距離を置いた大学生活は、正に順風満帆を絵に描いたようなものだった。
あまりにも平穏すぎて、高校時代は一体何だったんだと思わず自分にツッコミを入れたくなるくらい、のんびりとした時間を過ごしている。
但し、夏休みに入る前まではの話だけども。
同じ学部内で気の合う友達を作った私は、夏休みの計画をその友達たちと練っていたんだけど、話を進めるうちに段々と雲行きが怪しくなってきた。
と言うのも、友達の一人が放った言葉に私の中のNGワードが含まれていたから。
「東京にいる親戚の子が夏休みを利用して、こっちに遊びに来る事になったんだよね」
「親戚の子?」
「うん。まだ小学校低学年の双子ちゃんなんだけどさ。母親と一緒に来るんだって」
「母親と双子って・・・難波ん家ってワンルームマンションでしょ?そんな大人数、無理じゃん」
友達のうちの一人、横浜出身の難波あかりが放った言葉に思わず反応してしまった私を、当の難波本人が片手を挙げ制した。
「まあまあ。そう急くでない、牧野よ」
「だってさ、難波が住んでるワンルームって、私が住んでる所と同じくらいボロいじゃん」
「まぁね。だから、親戚にはホテルに泊まれって言ってある」
「ホテル?」
「うん。メープルホテル。何かさ、知り合いがメープルホテルを経営してるんだって。だからその縁で、メープルを利用するって言ってた」
・・・。
・・・えっ!?
メープルホテルを経営?
ちょっと待て。待て待て待て。
それってもしかして、もしかしなくても道明寺グループの事!?
それとも、バッタもんのメープルホテル?
ほら、世の中には本家本元に似せた名を付けて、しれっと経営する人もいるじゃない。
だから、その類いかもと思ってさ。うん。
とは言えスッキリしないから、ここは自己解決せずにちゃんと聞いて白黒つけよう。
自分の精神状態を維持する為にも。
「難波の家ってさ、金持ちなの?」
「んなワケないじゃん。ウチは私を含め五人兄弟でさ、大工の父ちゃんとパートの母ちゃんが頑張って働いてくれてるけど、家計は火の車だよ。だから私は、奨学金で大学通ってんだよね」
「で、でも、メープルホテルの経営者と知り合いなんでしょ?難波の親戚って」
「らしいね。ま、ウチは貧乏だから関係ないけど」
「確認の為に聞くけど、メープルホテルってあのメープル?」
「あのメープルって、どのメープルよ」
「いや、だからさ、道明寺グループが経営してるメープルホテルなのかって事」
「それ以外、どこがあるのよ」
・・・ですよね。
って事はさ、そのメープルホテルの経営者と知り合いっていう難波の親戚とやらは、当然お金持ちな訳で。
小学校低学年の双子ちゃんというキーワードを繋ぎあわせていくと、行き着く先の答えはやっぱり───
「・・・難波の親戚って、もしかして都内在住の美作家?」
「うん。よく分かったね、牧野」
オーマイガッ!何てこったい。
まさかここに、美作さんと縁続きの人間がいただなんて。
一体全体、どうなっちゃってんの。
日本は狭いように思えて実は広いと思ってたけど、やっぱり狭いワケ!?
美作さんへの恋心をセーブし、徐々に沈静させようと目論んで関西方面の大学に進学したのに、これじゃあ意味ないじゃん。
どうしてくれるのよと、思わず八つ当たり的な言葉を胸の内で呟いた私は、涙目になりながら難波をじっと見やった。
そんな私の姿に何かあると踏んだのか、今まで静観していた友人二人が不敵な笑みを浮かべながら、会話に参戦してきた。
「なになに?牧野。何で涙目になってんの?」
「べべべ別に涙目になんて、なってないもん」
心配する素振りは見せるものの、明らかに何かを期待するかの様な目で私を見つめてくるのは、京都出身の山科彩子。
所作が美しく上品なのできっと育ちは良いんだろうけど、時折毒舌をふるったり、持ってる雰囲気とは真逆の品のない言葉を放ったりするせいで、全てが相殺されてしまう残念な子なのよね。
そしてもう一人、
「美作って名字にやたら反応してるけど、絶対何かあるやろ?白状しぃや、牧野」
狙った獲物は逃がさないと言わんばかりの眼差しをこちらによこすは、関西弁丸出しの豪快な女、乃疏屋頌子(のぞやしょうこ)だ。
面倒見が良くて頼れるオカン的な存在の彼女は、日曜日の夜に放映されるアニメの登場人物、ハナザワさんを彷彿とさせる。
「白状しぃやって言われても、は、話す事なんてないし。そ、そもそも美作って名字に、反応なんてしてない」
「メッチャ挙動不審やん。説得力ゼロやで」
「ぐっ!」
「話せば楽になる事もあるし、一人で抱えこんで悩んでも、ロクな目に遭わん。な?思いきって話してみぃや?牧野」
「うっ・・・」
「うちらはみんな、牧野の味方や。安心しぃや」
確かにノゾヤの言う通り、一人でウジウジ悩んでも負のループにはまり、ロクな目に遭わないかもしれない。
悩みに悩みすぎて、自分で自分を追い込んじゃうかもしれないし。
それだったら一層の事、自分の想いや悩みや考えをみんなに聞いてもらい、意見してもらうのもいいんじゃないか!?
そう思った私は一息吐いた後、三人に正直に話した。
F4という存在や関わり合い、そして、美作さんに対する想いや考えなど全て。
そして、包み隠さず心境を吐露した私が口を閉ざすと同時に、静かに話を聞いていた三人のうちの一人、ノゾヤが口を開いた。
「美作さんとやらに、自分の恋心を知られたないから距離を置く。できればそのまま、恋心を消滅させたい。忘れたい。そうやって自分を押さえつければつける程、余計に想いが募っていくんちゃう?無理すればするだけ、意識するんちゃうの?何かさぁ、逆効果じゃね!?」
見て見ぬふり、気付かぬふりをしていた部分をずばり指摘され動揺する私を他所に、次は美作さんの親戚である難波が言葉を続けた。
「忘れようと努力する時点で、既に意識しちゃってるじゃん。あきら君の事」
「うっ!」
「逆にさ、心に逆らわず会ってみたら?自然の流れに添った方がいいと思うけど。まずは思いきって、あきら君の母親と妹達に会ってみるのはどうよ!?」
「ななな何でそーなるのよ!」
それじゃあ、忘れるどころか止められなくなるじゃん。
美作さんへの想いを。
会いたいという気持ちを。
そう抗議する私に、首をひねりながら今まで話を聞いていた山科が口を開いた。
「何で無理に忘れようとする訳?別にいいじゃない。好きなら好きで。自分の気持ちを否定しなくても」
「だって・・・」
「元彼と別れて1年も経たないうちに、次の恋に走った自分を軽蔑するかもって!?そんな事で、牧野を見る目が変わる様な男なの?美作さんとやらは。だったら大した男やないね。ケツの穴の小さい男なんて願い下げやわ」
「美作さんは器の大きな人なの!何も知らないくせに、美作さんを侮辱しないで」
「だったら信じなさいよ、美作さんとやらを。私に言わせたら、牧野の方がよっぽど侮辱してると思うけど!?彼の事」
山科のこの言葉が、ガツンと心に響いた。
正にその通り。
何の反論も出来ず、ぐうの音も出ない。
美作さんは器の大きな人だと言いながら、それとは矛盾する言動をとっている事に愕然とする私を、三人は温かい目で見守ってくれた。
〈あとがき〉
「たゆたふ」ブログをご存知の方はお分かりでしょうが、オリキャラに山科彩子を登場させました。
名前や素性は同じですが、性格は違ってます。
オリキャラの名前をつける時、最初に「難波」が頭に浮かび、次に「山科」を登場させようと思いました。
で、その時に偶然気付いたんですよね。
やましな→なんば
名字の最後と最初が繋がってる事に。
だから、三人目のオリキャラも繋げてしまおうと思ったんです。
つくしの名字は最初にしないと、どうやっても繋がらないので、初めに固定。
まきの→の?や→やましな→なんば
無理がきました(笑)
最初が「の」、最後が「や」なんて名字、あるか!?
しかし中将は諦めない。
五十音順で片っ端から埋めました。
で、自分的に語呂がよかった「のぞや」に決定。
漢字も何となく「乃疏屋」にしました。
オリキャラ祭りになりましたが、宜しくお願いします。