自分の想いや考えを三人に話した事により、ほんの少しだけ気持ちが浮上し、軽くなった。
美作さんをこれ以上好きにならない様、距離を置いて恋心を鎮静し消散させる。
そう決意すればする程、頑なになっていく私の想い。
そんな私の石頭を、あの三人は遠慮なくぶっ叩いて壊そうとしてくれた。
とは言っても、容易にぶっ壊れはしなかったけども。
「牧野が頑固なのは分かってるから」
「そうそう。ま、聞く耳も持たない状態じゃなかっただけでも御の字だよ」
「意固地なだけって気がするけどなぁ。そんなに片意地張ってると、しんどくなるで!?もっと気軽にいこうや」
苦笑いしながらそんな事を口にし、次々に私の背中を叩いて励ましてくれる三人に、心の底から「ありがとう」の言葉を贈った。
ずっと一人で抱えこんでいた、行き場のない恋心。
その恋心を、理解しようとしてくれるだけでも有り難い。
もう、一人で苦しみ悩む必要なんてない。
だって、私には仲間がいるんだから。
迷い惑う事があってもきっと、この三人は親身になって話を聞いてくれるだろうから。
だから私は、ほんの少しだけ心を軟化させてみようと思う。
「美作さんの事が好き。これは紛れもない事実。だからそれは、素直に認めて受け入れようと思う」
「せやな。それがええ」
「うん。無理に忘れようとすればする程、余計に意識しちゃうから。心が囚(とら)われたままになっちゃうからさ。だから、自然体で過ごすよ」
「おおっ!あきら君への想いを認めるって事か。じゃあさ、まずは手始めに、夏休みにこっち来る双子ちゃん達と会ってみる?」
「それは止めとく。会えばどうしても、美作さんの事をあれこれ聞いちゃうだろうし、余計に会いたくなるから。想いが募る様な真似はしない」
「そらそうどっしゃろ。恋心を風化させるどころか、恋の炎をたえぎらせてしまうわ。ま、燃え尽きて灰になった方が、牧野にとっては都合がええんやろけど」
京都弁で身も蓋もない物言いをする山科に、思わず「うっ」と言葉を詰まらせてしまったけれども、確かに彼女の言う通り、灰になってしまった方が私的には都合が良い。
そうすれば、すっきり忘れられるだろうから。
もう、身分差の恋なんてしたくない。
道明寺との恋愛で色々と思い知らされたから。
あんな辛い思いはもう沢山。
今度こそ、身の丈にあった恋愛をしよう。
身分相応な相手を見つけ、穏やかな交際をしよう。
そう意気込んでいたのに。
頑張ろうとしていたのに。
それなのに何で、私は再び御曹司を好きになってしまったんだろう。
ううん。
御曹司だから好きになったんじゃない。
美作さんだから好きになったんだ。
ま、何にせよ、この恋が成就する可能性はゼロに近い・・・と言うか、ゼロなんだけどさ。
いや、ゼロどころかマイナスなんだけどさ。
「きっと、物理的な距離間が解決してくれる。4年間の大学生活で、自然と恋心が失われていくと思う。会わない限り。だから大丈夫」
「何がどう大丈夫なのか分からんけど、遠距離でそうそう会う機会もないやろから、そのうち忘れていくんちゃう?」
「そうそう。自然消滅ってヤツだね」
「そう簡単に物事運ぶやろか。何かありそうな気がするんやけど」
最後の山科の発言に、私達は「心配しすぎ」と言って笑いとばしたけど、割と早い段階で笑えない出来事が惹気(じゃっき)した。
〈あとがき〉
登場人物のおさらいをします。
乃疏屋頌子(のぞやしょうこ)
日曜夜6時半に放映中のアニメに出てくる、ハナザワさんに似た性格の女性。
関西弁を操る。
山科彩子(やましなあやこ)
上品だけど毒舌をふるう事がある、京都出身の女性。
前に運営してた「たゆたふ」ブログに登場する彩子とは性格が少し違う。
難波あかり(なんばあかり)
つくしと同様、金銭的には恵まれていない横浜出身の女性。
美作家と親戚で環境は雲泥の差だが、付き合いがあり関係は良好。
現段階では、こんな感じです。