好きな男性に、女性からチョコレートを渡すという日本独特のイベント。
そう。その名もバレンタインデー。
誰にでも平等に与えられる権利だ。
最近では「友チョコ」だの「自分へのご褒美チョコ」だの、色々な名目で色々な種類のチョコレートが販売されてるけど、やっぱりバレンタインデーと言えば「本命チョコ」でしょう。
「で、手作りされたんですか?」
「うん。ほら、甘いものは得意じゃないって前に言ってたじゃない?だから、お弁当を作ったんだ」
「手作りのお弁当・・・」
「あ、心配しなくても、それなりに値の張る食材を買って作ったから大丈夫。ま、アンタ達みたいなセレブからしたら、大した値段じゃないかもしんないけどさ」
それでも私からしたら、清水寺の舞台から飛び降りるくらいの値段だったっつーの。
普段行かないような高級スーパーなんかに行っちゃってさ。
あーでもない、こーでもないと、一人でブツクサ言いながら財布とにらめっこしてさ。
っとに、いつもあんな高い食材買ってんの!?
あんなの毎回買ってたら、2日で破産するっちゅーの。
などと、文句垂れる私に対し、桜子は憐れむような瞳をこちらに向けながら口を開いた。
「先輩。残念ながらそのお弁当、無駄になってしまいますね」
「へっ?」
「だって、常日頃から言ってたじゃないですか。F4の皆さんが」
「何を?」
「人様の手作りの品物は、どんなものでも受け取らないって。先輩、忘れたんですか?」
「あ゙ーっ!しまったぁ~!」
不覚!
そうだったそうだった。
完全に失念してたよ。
F4は絶対に、手作りの品物は受け取らないって事を。
交際相手からの品物なら受け取るけど、赤の他人からの手作りの物は何があろうと受け取らないって。
「・・・無理だよね。受け取ってもらえないよね」
「先輩の想い人は、潔癖症のきらいがありますしね。難しいんじゃありません?」
「うが~!」
じゃあ何かい!?
好きな人の為に作った弁当を、自分で食べろってか。
暗くて狭いアパートで。
一人ぼっちで。
「そんな虚しくて侘しいバレンタインデー、いやぁ~!」
「何でしたら、私が先輩の手作り弁当を食べて差し上げますわよ?」
「もっと虚しくなるからいやぁ~!」
何が悲しゅうて、好きな人の為に一生懸命作った弁当を、後輩の桜子に食べてもらわにゃならんのか。
だったら自分一人で食べるわ。
ボロくて寒いアパートで。
などと、一人やさぐれてた私に、桜子が止めの一発を喰らわしてきた。
「そもそも、イベントがある日にあの人達は大学に来ませんよ?」
「んがっ!」
「特に、チャラい若宗匠とマダムキラーのお二人は」
「あ゙あ゙っ!」
「家で大人しくしてるんじゃありません?それか、4人で集まって何処か海外に避難されてるとか」
「・・・何にせよ、絶望的な展開じゃん」
家にいようと海外にいようと、この弁当が私のお腹に収まる事は決定的じゃないのよ。
どうすんのよ、コレ。
色々な意味で、行き場がないじゃんか。
なんて、ふて腐れても仕方ない。
受け取ってもらえない事に、変わりはないんだから。
ウジウジ悩んでても、事態は好転しないんだからさ。
だからもう、開き直って前を向くしかないじゃんね。
「・・・バイト行ってくる」
「はぁ!?こんな日にバイト入れてたんですか!?」
「弁当の食材費分は、稼がないとね」
「逞(たくま)しいですわね」
「それが私の取り柄たがら」
はぁ。
落ち込んでる場合じゃないけど、落ち込みたくもなるわ。
折角、勇気を出して気持ちを伝えようとしたのにさ。
「ま、受け取ってもらえない上に『ゴメン』ってフラれるよりはマシかぁ」
「随分と後ろ向きな発言ですね」
「最悪の事態を回避した発言って言ってほしいわね」
「物は言いようですね、先輩」
「ふんっ!じゃ、バイト行ってくるね」
「お気をつけて」
こうなりゃヤケだ。
バイト先の和菓子屋さんで、団子や饅頭を売りに売りまくってやる。
〈あとがき〉
季節感を無視して、今頃バレンタインデーの話を書きました。
後篇はどんな展開になるのやら。
ま、予想がつく流れになるかとは思いますが(笑)