※若干、後味の悪い話となっております。
ですので、読む読まないは自己責任でお願いします。
尚、読まれた後の苦情は受け付けませんので、あしからず。
私は牧野サチと申します。
お気付きかとは思いますが、私の母は牧野つくしです。
あ、ご心配なさらなくても、私は貴方様の娘ではございません。
それは自信をもって断言致します。
私の母は何事にも一生懸命で、悪い事をするとちゃんと叱ってくれて、真正面から受け止めてくれて、温かい心を持ち、ホッとする笑顔を浮かべる人でした。
「でしたって・・・過去形じゃないか。過去形って事はつまり───」
「心臓は動いています。ただ、生きる屍となった状態だという意味です」
「なっ!?」
「母は父の作った借金を返す為に、無理をしました。朝早くから夜遅くまで働いて、その合間に私の世話や家事をこなし、手抜きは一切しませんでした」
「借金・・・だと!?」
「はい。今は完済してます」
「借金額はいくらだったか分かるかい?」
「確か、3千万円くらいだったかと」
「3千万!?それを牧野一人で返したって!?」
「はい。私も役に立ちたくて、アルバイトで稼いだお金を渡したんですけど、受け取ってもらえませんでした。なので結果的に、母が一人で借金を返しました」
「牧野・・・君のお母さんだけで返した?じゃあ、君のお父さんは何をしてたんだ」
「酒と女に溺れた父は、完全にヒモ状態でした」
「・・・なんだと?」
「初めからそんな人間じゃなかったんです。でも、ある日を境に父は変わってしまった」
「・・・」
「リストラされ再就職も上手くいかなかった父は、貴方様に口利きしてくれと母に迫りました」
母の心の根っこには、未だ貴方様が住んでいる。
母が自ら手離したくせに、断ち切れずにいる貴方様との恋。
貴方様のお立場、貴方様の幸せを考え身を引いたくせに、ずっと頑固に引きずっている恋。
その事は、父も薄々は気付いていたようでした。
母が本当に愛しているのは自分ではないと。
「再就職も上手くいかない父は、苛々が募っていったんでしょう。自力で母の過去を調べました」
「それで、俺の存在を知ったんだな」
「はい」
母が昔、付き合っていた男性が誰であるのか、その男性がどんな立場の人間なのかを知ってしまった。
しかし、肝心の貴方様に関する情報は素人では手に入れられない。
だから父は、なけなしのお金を叩いて探偵に調べさせたようです。
そして、貴方様のご事情を多少なりとも知り得る事が出来た。
「夫婦仲は冷えきっていて長年別居し、子供もいない俺の家庭事情を知ってるんだな」
「はい。だから父は母に、貴方様と浮気しろと馬鹿な事を命令して・・・」
「美人局か。浮気の証拠を握ったら慰謝料を請求し、ついでにウチの会社に就職させてもらおうって魂胆だったかな?君のお父さんは」
「申し訳ございません」
「君が謝る必要はない」
「はい」
自分の要求を突っぱねた母が、父には憎たらしく思えたんでしょう。
このやり取りの後から、父の生活が乱れました。
酒浸りになり、風俗店に通いつめ、キャバクラ嬢に入れあげる。
そうすればきっと、母は貴方様の元へ向かい助けを求めるはず。
「そんな父の狡さを母は分かっていたようです。貴方様の元へは行かず、パート先を増やして生活費を稼いでいました。けどそれが、ますます父を意固地にさせてしまって、遊びが派手になっていきました」
「借金が出来、牧野は更にパート先を増やしたってトコか」
「はい。身を粉にして働き、生活費を稼ぎながら借金も少しずつ返済していたようです。でもそんなの、焼け石に水でした」
「稼いだ金より使う金の方が多い。違うか?」
「ええ、その通りです」
だから母は、思いもしない方法でお金を稼ぎました。
海外の貧しい国ではよくある話だそうです。
想像つきますか?
そうです、臓器売買です。
無論、日本では違法行為にあたります。
ですが、裏ルートがあるんでしょうね。
母は伝手を頼り、道明寺財閥の御曹司の元婚約者だという付加価値をつけ、自分の臓器を高く売りました。
「腎臓と左目を売り、父の借金を完済しました。ですが、その時の違法手術で視神経を傷付けたのか、母の視力が低下しました。今では、ぼんやり見える程度の視力しかありません」
「っ!!」
「そんな母を見限った父は、勝手に離婚届を提出し、愛人と一緒に姿をくらませました」
「・・・る」
「えっ?」
「許さねぇ。必ず見つけ出して制裁を加えてやる。牧野を傷付け苦しませるヤツは、絶対に許さん。地獄のような苦しみを与え続けてやる」
「あ、あの・・・!?」
「・・・君のお母さん、入院したままなのか?」
「え?」
「入院してるのか?」
「あ、いえ。今は私の住むアパートで一緒に暮らしてます」
若い頃から働き詰めで、その無理が祟ったんでしょう。
母の体はあちこちガタがきていて、寝たきりの状態が続いています。
入院させようとしても、頑なに拒否します。
お金のかかる事はするな。
可愛い娘にそんな事はさせたくないし、してもらいたくない・・・と、その一点張りで。
だから貴方様に母を説得してもらいたく、こうして恥を忍んで会いに来ました。
「母から聞きました。貴方様との間に子供が出来たら男の子にはヒカル、女の子にはサチと名付けたいんだという、他愛ない話をした事があると」
「ああ。だから最初、君の名前を耳にした時は驚いたよ」
「だと思いました。だから最初に、決して貴方様の娘ではないと前置きした上で、母の現状をお伝えしたんです」
貴方様のご都合やご家庭の事情も考えず、自分勝手なお願いをしている事は、重々承知しています。
それでも私は、母を助けたい。救いたい。
本当に愛してやまない人に会わせてあげて、生きる気力を与えたい。
そうすれば、元気になろうと病院にも通うだろうし、入院もしてくれるだろうから。
ですからどうかお願いします。
一度だけでいいんです。
母に会って貰えないでしょうか。
母の心を動かせるのは、貴方様だけなんです。
重ねてどうか、お願い致します。
母が愛する美作社長。
〈あとがき〉
限りなく、蔵入り部屋行きに近い作品ですね。
何とも後味が悪く、胸糞悪い話です。
どんな精神状態で書いたんだよ。
色々と大丈夫か!?
と、自分で自分にツッコミを入れたくなるくらい、病んだ話ですね。
この後あきらは、マッハの勢いで嫁と離婚し、つくしの元へと駆けつけます。
そして、いつの間にやら内縁関係に。
あきらもつくしも、穏やかな日々を過ごします。
当然ながら、つくしの元旦那にキツい仕置きをしますが、その事はつくしに悟られないよう配慮します。