シンプルだからこそ難しい。
シンプルだからこそ誤魔化しがきかない。
美味しい米に美味しい水、そして美味しい塩。
それプラスα、ベタではあるが限りない愛情をスパイスに、一生懸命握る。
不器用なりに。
笑顔で食べてくれるように。
美味しいと言ってもらえるように。
喜んでもらえるように。
一人の男の顔を思い浮かべながら、せっせと握る。
「悠理が作ったのか?この握り飯」
「う、うん。カタチは少し悪いけどさ」
「俺の為に?」
「そ、そうだよ!何か文句あんのか」
「あるわけねぇだろ。ちょっと驚いただけだ」
「野梨子や可憐みたいに上手に握れなかったけど、魅録に美味しく食べてもらいたいなと思って、必死に頑張って握った」
「食っていいか?」
「うん」
「・・・」
「ど、どう?」
「・・・」
「な、何か言えよ」
「・・・」
「無言で食うなって~。塩が多かったのか?それとも水加減が悪かったのか?言葉が出ないくらいま、マズイのか?何とか言えよ、魅録ぅ~」
「すげぇ美味い」
「へっ?」
「塩加減、水の量、握り具合、どれもパーフェクトだ」
「ほ、本当か!?」
「俺がお前にウソ吐く訳ねぇだろ」
「そ、そりゃそーだけどさ。でも、ほら、あたいが握ったヤツ、可憐が握ったのと比べて下手だろ?」
「別に可憐と比べる必要ねぇじゃん。悠理は悠理、可憐は可憐だ。それに・・・」
「それに?」
「俺は悠理が作った握り飯しか、食うつもりねぇし」
「へっ?」
「悠理の真心がこもった握り飯は大歓迎だけどよ、可憐の握り飯は何か・・・執念と怨念と邪念がこもってそうで怖ぇよ。呪われそうじゃん。それに、香水のニオイが握り飯についてそうだし、あの真っ赤な爪で握ったのかと思うと食う気が失せる」
「み、魅録・・・」
「俺には悠理の握り飯があれば充分だ」
ふっと零れた微笑を見る限り、おべんちゃらではなく本心からの言葉だと分かる。
そこでようやっと、悠理はホッと胸を撫で下ろし、魅録と肩を並べながら自分の作った握り飯を口に放りこんだ。
「・・・魅録のヤツ、本当に呪ってやるからね!人を何だと思ってんのよ。そもそもねぇ、可憐さんのおむすびと悠理のおむすび、比べないでもらえる!?あの子の材料は塩だけじゃない。対して可憐さんの材料は───」
「わ、分かってるから。落ち着いて、ね?僕は具沢山で見た目も良い、可憐のおむすびが一番だと思うよ。味も一級品だし。清四郎もそう思うよね?」
「下心丸見えの可憐のおむすびより、品のある野梨子のおむすびの方が、僕は好みです」
「まっ!ありがとう、清四郎。沢山召し上がって下さいな」
「・・・アンタ達、この可憐さんを何だと思ってんのよ!」
可憐の怒りのマグマが爆発するも、それに構う事なく、魅録と清四郎は自分好みのおむすびを頬張っている。
そんな男二人の姿を目にし、憤怒の形相をのぞかせた可憐は、怒りの矛先を全て美童へとぶつけた。
〈あとがき〉
衝動的に書いた魅悠話です。
行き着く先は、可憐オチ(笑)
有閑では可憐、花男では司が一番イジリやすい。