「修平に、弟か妹を作ってあげないのかって聞かれてたでしょ?その時、キッパリと作らないって答えてたよね」
「ああ」
「どうして?」
「どうしてって・・・」
「欲しくないの?」
「あ~・・・ん~」
「何で即答出来ないの!?何で困ってるの!?私との子供はもういらないの!?」
「ちょっ!お、落ち着けって」
「だって、私に手を出そうとも触れようともしないじゃない。再会してから一度も、私を抱こうとしなかった。同じ布団で寝てるのに、そんな雰囲気も作らないでガーガー寝ちゃうじゃないの。私相手じゃ、そんな気が起こらない!?子供作る気ないから、そういった行為をしないの!?その気にならないくらい、私は魅力ないの!?」
「興奮すると心臓に負担がかかる。頼むから落ち着いてくれ」
「何でそんなに冷静なの!大好きな人が自分に手を出さない辛さ、惨めさが分かる!?大好きな人が隣で寝てるのに、何もされない苦しさが分かる!?」
「それは俺も同じだって」
「嘘言わないで!F4イチ女好きなアンタが、女日照りでいられる訳ないじゃない」
「ヒデェ言われようだな、オイ」
「事実じゃないの。女好きなアンタが・・・て、まさか、違う女でスッキリさせてるんじゃないでしょうね!?あ、愛人がワンサカいるから、私に手を出さないんじゃ・・・だ、だからセックスレスなのね!?私達・・・う・・・うわぁぁ~~ん!」
「どうしてそーなる!話が飛躍し過ぎだ」
気が高ぶったのか、大きな声をあげて子供みたいにピーピー泣くつくしを、総二郎はそっと抱きしめ、優しく背を撫でながら彼女が落ち着くのを待った。
確かにつくしの指摘通り、総二郎は再会してから一度も彼女と肉体関係を結んでいない。
だがそれは、決してつくしが言っている様な理由からではない。
総二郎には総二郎なりの悩み、考えがあるのだ。
まさかつくしも、同じように悩んでいたとは夢にも思わなかったが。
「ククッ」
「何を笑ってるのよ」
「いや、似たモン夫婦だなと思ってよ。だって、同じ悩み抱えてウジウジしてたんだぜ?俺達。相性抜群だな」
そう言いながらつくしの背を撫で続けていた総二郎は、彼女が落ち着きを取り戻したのを声色で確認すると、己の考えを静かな口調で話し始めた。
「俺がお前に手を出さなかったのは、怖かったからだ」
「怖い?」
「ああ。心臓に負担がかかるんじゃないかと思ってな」
心の底から愛してやまない女を相手に、手加減など出来やしない。
きっと暴走し、とてつもない愛欲を覚え、それをぶつけてしまう。
そんな自分の激しい愛を、心臓の弱いつくしが受け止めきれるかどうか。
もし、そのせいで心臓に負担がかかり、寿命を縮める結果に繋がったら、悔やんでも悔やみきれない。
だから、手を出せなかったと総二郎は伝えた。
「女遊びしてた頃の俺なら、手加減して女を抱けた。本気の相手じゃないから冷静でいられるし、自分をコントロール出来る。自分勝手に果てる事も出来るし、相手を早々と果てさせる事も出来る。けど、お前相手だと勝手が違うんだ。我を忘れ、激しく求めちまう。お前が満足出来るまで奉仕したいと思うし、メチャメチャに乱れさせたいし、そんなお前の姿を見て、俺もメチャメチャに乱れたいし、欲望の赴くまま、手加減なくお前を貪りたいと思ってる」
「なっ!」
「けどよ、そんな事したらお前の心臓が持たねぇだろ。寿命縮めちまうだろ。だったら、しなくてもいい。お前を永遠に失うくらいなら、欲望を抑える。セックスレスでもいい。新しい命もいらねぇ。今の幸せを維持し、守る事に徹する」
「っ・・・」
「本音を言えば、お前を抱きたい。惚れた女が隣にいるのに、手を出せないなんて拷問だろ。よくぞまあ、自制出来てるなと自分で感心するぜ。そこら辺のエセ坊主より精神鍛えられてるんじゃね!?俺って」
「ふふっ」
抱く、抱かないという激しい葛藤の中、己の欲望を抑え、家族の幸せを守ると決心した総二郎の心根に触れ、つくしは彼の腕の中で泣き笑いの表情を浮かべた。
自分と同じく悩んでいた。
それも、心臓の弱いこの体を慮って。
そんな彼に我慢させていた事を申し訳なく思うと同時に、それだけ愛されているんだなと知れて嬉しくもあった。
けど、それ以上に心苦しい思いも抱えていた・・・いや、現在進行形で抱えているつくしは、この際、胸の内でくすぶっている思いを、洗いざらいぶちまけようと決心した。
「私一人が悩んでるだけだと思って・・・勝手な事を言ってごめんなさい」
「いや、俺も悪かった。ゴメンな?」
「ううん、お互い様だから・・・私ね、正直に言うと貴方との子供が欲しい。貴方に愛されたい。求めて欲しいって思ってる」
「・・・ああ」
「でもそれって、凄い自分勝手だよね。だって───」
不慮の事故でもない限り、間違いなく貴方より先に私が逝く。
それを分かっていながら子供を望み、後を託そうとしている。
子供の世話は大変だ。
一人親の子育ての難しさを身を持って体験し知っていながら、同じ事を貴方にさせようとしている。
そんな身勝手な自分に腹が立つと同時に、相反する思いもあると、つくしは総二郎に告げた。
「私が死んでも、子育てに追われてたら悲しむ暇はないかなって。後はね、修平に弟か妹を作ってあげたいの。あの子、弟や妹を欲しがってたから」
「修平が・・・そうか」
「貴方に一人でも多くの家族を残したい。誰もが羨む仲良しな家族を」
「今でも充分、羨ましがられてるぞ?あきらや類、司に」
「そうなの?」
「ああ。あきらんトコは家族の絆が強いから別にして、司や類は本当に羨ましがってたぞ?俺達を」
司はまだ姉ちゃんがいるからマシだけど、類なんか気の毒なくらいに家族愛に恵まれてねぇからな。
案外、ああいうヤツがサッサと結婚しちまうのかもよ!?温かい家庭を求めて。
と、口にする総二郎の背中に手を回したつくしは、類が安寧の場所を得られますようにと心から願った。