ろうげつ

花より男子&有閑倶楽部の二次小説ブログ。CP :あきつく、魅悠メイン。そういった類いが苦手な方はご退室願います。

ドンジリ 類篇(総+つく)

2020-04-24 10:08:06 | 短篇(花より男子)
「選ぶならどっち!?」

「はっ?」

「究極の選択だよ!遠慮なく選べ」

「またぁ~!?」

「いいから選べ」

「はいはい」

「彼女が友達と遊びに行っても口出しせず、文句一つ言わない寛大な心を持つ西門総二郎か、彼女の言動を逐一チェックし、何もかもを把握したがる、束縛の強いストーカー気質の花沢類。お前ならどっちを選ぶ?」

「はぁ!?」

「どっちだ?」

「あの面倒くさがりな花沢類が、彼女の言動を逐一チェックするとは思えないんだけど」

「そんな細けぇ事はどーでもいいんだよ。いいから選べ。理解のある心の広い俺か、ストーカーチックな花沢類か」

「そんなの選ぶまでもなく、花沢類だよ」

「何でだよ!」

「束縛が強いって事はさ、それだけ彼女に執着してるって事でしょ?滅多に人に心を開かず、他人に無関心なあの花沢類が、そこまで入れ込むだなんて凄いよね。相当、彼女に惚れてるって事じゃない?」

「・・・」

「花沢類って、愛情に餓えてる気がするんだ。だから、自分が想いを寄せた相手にも、同じくらいの愛情を返してもらいたいんじゃないのかな?その辺を理解して付き合えば、問題ないと思うんだけど」

「・・・」

「何よ。その不満そうな顔は」

「不満『そう』じゃなく、しっかりハッキリ不満なんだよ!」

「何でよ?」

「全てを把握したがるんだぞ!?友達と遊んでても、5分に1回は電話してきて行動をチェックしてくるんだぞ!?息が詰まるじゃねーか」

「まぁね」

「だったら何で、大人な対応をみせる俺じゃなく、ストーカーまがいな事をする類を選ぶんだよ!」

「自分に自信がないから、束縛したがるんじゃないのかなぁ。だったらさ、これでもかってくらいにこちらが愛情表現すれば、多少は落ち着くんじゃない?自分だけ置いてきぼりされて、淋しいんだよ。ちゃんと『好きだよ』って言動で伝えれば、分かってくれるはず」

「・・・」

「てなワケで、私は花沢類を選びます」

「・・・」

「そもそもさ、花沢類以外に選びようがないじゃん」

「はあ!?」

「アンタ達F4の中で誰と付き合うかって聞かれたら、迷わず花沢類を選ぶよ」

「何でだよ!?」

「だって、ビックリするくらい私を理解してくれてるもん。こちらの気持ちを汲んでくれるしさ。それに、会話がなくても居心地悪くならないし。花沢類のあの独特な空気感が、何だか落ち着くのよねぇ」

「・・・」

「別に、究極の選択でもないよね?」

「ぐっ!」

「あのさ、口出ししないだの、文句一つ言わないだの、要は彼女に関心ないだけじゃないの!?もしくは、自分の行動に口を挟まれたくないから、敢えて何も言わないとか。つまり、浮気ありきの寛大さだよね、西門さんの場合」

「・・・」

「前にも言ったけど、こんなくだらない質問する暇があるなら、茶道のお勉強をしっかりしたら?若宗匠の呼称、弟さんに明け渡す羽目になるよ?」

「ぐはっ!」

「じゃ、バイトあるから行くね」

「・・・おう」



〈あとがき〉

まあ、こんなもんです(笑)
総ちゃんは一体、何がしたいのだろうか。




六花の軌跡【魅悠】 3

2020-04-23 21:21:00 | 六花の軌跡【魅悠】
この数日、ろくに眠れなかったのだろう。
泣きながら私にしがみつき、心の澱(おり)を吐き出した悠理は、泣き疲れてそのまま寝てしまった。
目の下にクマを作り、頬が少しこけ、どことなく陰があり、頼りなさげな風情を漂わす悠理は、女性の私から見てもドキリとする程の色気を醸(かも)し出している。

「食べる事しか興味のなかった悠理が、恋煩いに陥るほど魅録を深く想う日がくるだなんて、あの頃からは想像も出来ませんわ」

男と恋愛なんて気持ち悪い。
あたしは一生、独身でいるんだと豪語していた悠理が、いつの間にか魅録に恋をし、やがてそれが愛に変わって一人の女性として幸せを掴んだ。
想い想われ傍に寄り添い、何の変哲もないまま、順風満帆な日々を過ごしているものだとばかり思っていたのに、まさかこんな事態に陥っていただなんて。

「昔、お付き合いをされていた方とよりを戻し、ホテルに行ったところを目撃したと悠理は言ってましたけど、本当なのかしら」

別に、悠理を疑っている訳ではない。
ただ、腑におちないだけなのだ。

「誰の目から見ても、魅録は悠理を一途に想ってらっしゃるし、溺愛してますものね」

だからこそ、違和感しか覚えない。
あの魅録に限って、浮気など考えられないと。
何か他に、理由があるのではないか・・・と。

「これはもう、両方のお話を聞くしかありませんわね」

片方だけの話では真実は見えない。
魅録の言い分を聞き、悠理の話とすり合わせて判断しなければ。

「安易な事を口にして、悠理を傷つける訳にはいきませんし」

楽観的にも悲観的にもとれる言葉など、口に出来ようはずもない。
事と次第によっては、傷口に塩をぬる羽目になるだろうから。

「そうなるとやはり、魅録に直接会ってお話を聞かなくてはなりませんわね」

それも、なるべく早く。
悠理の心の傷が、広く深くならないうちに。
とは言え、いつお会いして話せばよいのやら。
今日の今日という訳にはいきませんし。
何せ、魅録は多忙を極める人だから。
などと、一人あれこれ思案しながら、居間に足を踏み入れたその時、

「よう。世話になって悪いな、野梨子」

スーツ姿であぐらをかき、微笑を浮かべながら私を出迎える魅録の姿が、目に飛び込んできた。


「み、魅録!?どうしてここに!?」

「どうしてって言われてもなぁ」

「魅録!ふざけないで下さいな」

「悪い悪い。別に、ふざけてるワケじゃねーんだけどな。まあ、単刀直入に言うと、悠理を迎えに来た」

眼光鋭く私を見据え、ズバッと言いきる魅録の様相に、思わず身震いしてしまった。
他を寄せ付けぬほどの風格、有無を言わせぬほどの圧、そんな威風堂々とした魅録の姿に圧倒された私は、体がすくみそうになるのを必死で堪えながら、言葉を返した。

「ゆ、悠理を迎えにって、どういう事ですの?」

「どうもこうも、そのままの意味だ。だって、いるんだろ?」

「いるって?」

「とぼけても無駄だ。俺には通用しねぇぞ?」

そう言いながらククッと笑う魅録は、顔は笑っていても、目は全く笑っていなかった。
どんな言い訳も許さない。
正直に言え。
じゃないと、何するか分からねぇぞ?
と、背筋が凍るかの様な空恐ろしい瞳で私を射る魅録に、これ以上とぼけるのは無理だと悟り、白旗をあげた。

「確かに悠理はここにいますわ。でも、どうしてそれがお分かりになりましたの?」

「何故だと思う?」

「・・・まさか、GPS?」

「いや、違う。悠理のヤツ、携帯を家に置いて外出しちまったからな。GPSで行方を探すのは無理だ」

「では、どうやって突き止めましたの?」

まさか、尾行しながら監視していたのではなくて!?
そんな疑惑を抱く私に気付いたのか、魅録は苦笑いを浮かべながら「単なる消去法だ」と種明かしをしてくれた。

「まず、悠理の頼る先で100%ないと確信したのは、可憐と美童だ」

「何故ですの?」

「何故って、可憐は新婚旅行中だし、美童は嫁さんと子供連れてスウェーデンに帰省中じゃねえか。もしかして、忘れちまったのか?」

・・・はい。
完全に失念しておりました。
そう言えば、お二人とも日本を離れていましたわね。
などと、胸の内で呟く私を知ってか知らずか、魅録の話は続く。

「となると、考えられるのは、野梨子か清四郎のどちらかとなる」

「でしたら、清四郎の方が可能性は高いのではなくて?」

何せ、清四郎は剣菱グループの一員として働いているし、剣菱のおじ様からの信頼も篤い。
それに、昔から悠理は何かと清四郎に頼る癖があるので、私よりは清四郎のところに向かう確率が高いのではないかいう意見に対し、魅録はそれを完全に否定した。

「剣菱に近しい清四郎の元に行けば即、義父母の耳にも入る。俺が女とホテルに行ったって話がな」

「!!」

「あの清四郎の追求に、悠理が逃れられるワケねぇだろ。見たままの事を話すに違いない。となると、有無を言わさず俺と離婚する様に迫るだろう。清四郎と剣菱の義父母はな。それが分かってるから、悠理は清四郎のところには行かない。俺との離婚なんて望んでないからな、悠理は」

「・・・」

「と同時に、剣菱や和貴泉関連のホテルにも泊まらない。何故かって?そりゃ簡単だ。宿泊記録が残るからな。例え偽名を使っても、防犯カメラにバッチリ姿が映っちまう。そんなヘマ、悠理がするはずねぇ」

「・・・本当でしたのね」

「何がだ?」

「女性と・・・その、ホテルに行かれたって・・・」

「本当だ。悠理に見られたのも知ってる」

「なっ!?」

悪びれもせず、女性とホテルに行った事を認める魅録に、私はこれ以上ないくらいの怒りを覚えた。





ドンジリ あきら篇(総+つく)

2020-04-22 22:22:00 | 短篇(花より男子)
「選ぶならどっち!?」

「はっ?」

「究極の選択だよ。遠慮なく選べ」

「唐突に何を言い出すのよ」

「いいから選べ」

「はいはい」

「他の女には目もくれず、超絶な愛妻家で家族愛の強い西門総二郎か、浮気ばかりして愛人を何人も作り、家庭を一切省(かえり)みない美作あきら。お前ならどっちを選ぶ?」

「はぁ!?」

「どっちだ?」

「それ、逆じゃない?美作さんの方が家族愛に溢れてそうだけど。」

「そんな細けぇ事はどーでもいいんだよ。いいから選べ。妻ひとすじの俺か、愛人まみれの美作あきらか」

「そんなの選ぶまでもなく、美作さんだよ」

「何でだよ!」

「基本的に、情が厚くて深くて優しい人だからさ、美作さんって。きっと、誰に対しても全力投球なんだよ。例え愛人まみれだとしても、妻や子にもそれなりの情は抱いてると思う。あの美作さんが、家庭を省みないって事は考えられないわ」

「・・・」

「何よ!?その不満そうな顔は」

「不満『そう』じゃなくて、しっかりハッキリ不満なんだよ」

「何でよ?」

「愛人だらけなんだぞ!?家庭を一切省みないんだぞ!?そんな男の妻なんて不幸そのものじゃねーか」

「まぁね」

「だったら何で、妻も家族もこよなく愛する俺じゃなく、愛人がワンサカいて家族に冷たいあきらを選ぶんだよ!」

「政略結婚したとしても、美作さんはそれなりに奥さんを愛そうと努力すると思うんだよね。そんな美作さんが家庭を省みず愛人を作るって事は、きっと妻にも原因があるんだと思う。美作さんが外にはけ口を求める何かがさ。片方だけが100%悪いなんて、あり得ないと思う。あくまで私の意見だけど」

「・・・」

「てなワケで、私は美作さんを選びます」

「・・・」

「そもそもさ、美作さん以外に選びようがないじゃん」

「はぁ!?」

「アンタ達F4の中で、誰と結婚したいかって聞かれたら、迷わず美作さんを選ぶよ」

「何でだよ!?」

「気遣いの人だし、優しい人だし、さりげなくフォローしてくれるし、面倒見がいいし、家族愛の深い家庭に育ってるし、器用な人だし、こちらに合わせようとしてくれるし」

「・・・」

「西門さん並みに女遊びが激しいのは難点だけど、それはきっと、心の底から愛せる人と出会ってないからだと思うの。そういう人が現れたら、美作さんはその人ひとすじになると思うわ」

「・・・」

「別に、究極の選択でも何でもないよね」

「ぐっ!」

「だいたいさぁ、『女と何人付き合えるか挑戦!』なんてフザケた事をぬかす西門さんが、妻ひとすじなんて無理でしょ」

「・・・」

「じゃ、もう行くね。バイトあるし」

「・・・」

「こんな下らない事を考える暇があるなら、もっと身を入れて茶道のお勉強した方がいいよ?西門さん」

「ぐはっ!」

「いけない!遅刻しちゃう。じゃあね、西門さん」

「・・・おう」




〈あとがき〉

想像がつくオチでした。
総ちゃんが登場する話は、まあこんな感じです。
今回はあきら篇でしたけど、次は誰篇になる事やら。





六花の軌跡【魅悠】 2

2020-04-17 02:22:00 | 六花の軌跡【魅悠】
「あちらもあちらで、同じ事を感じたのかもしれませんわね」

「同じ事?」

「ええ。魅録にとって、悠理は唯一無二の存在なんだって事に。誰よりも大事にしている人だって事に。だから、あちらも悠理のお顔を覚えていたのではなくて?」

「・・・違うよ。ただ単に、記憶力がいいだけだよ」

そんな都合の良い話があるワケない。
だってそうだろ?
もし唯一無二の存在だって言うのなら、何で魅録はあたしを彼女にしてくれなかったんだ!?
おかしいだろ。
だから、野梨子の言ってる事は違う。
見当違いだよと告げたあたしは、手元にある湯呑みを口につけると、すっかり冷めたお茶を一気に呑み干してから話の先を続けた。

「実はさ、手紙を託された時に言われた言葉があるんだ」

「言葉?」

「ああ。『このままの状態では、駄目になりそうで』って。だから!だからあたしは・・・渡さなかった」

手紙を渡しさえしなければ、二人が元に戻る事はないと思ったから。
復縁はしないと踏んだから。
だからあたしは、元彼女からの手紙の存在を魅録に教えなかった。
いや、教えなかったんじゃない。
教えられなかったんだ。
この手紙を渡したら、魅録があたしから離れてしまうんじゃないかと思って。
元彼女の後を追って、アメリカに行っちゃうんじゃないかって。
そんな恐怖に襲われたから、どうしても渡せなかった。

「しかも、日本を経つ日とフライト時間を聞いたのに、それすらも魅録に伝えなかった」

「・・・」

「な?ひどい女だろ、あたし。全部、自分都合だもんな。魅録の気持ちなんて全然考えてない。魅録はあの子とやり直したかったかもしれないのに。もう一度、会いたかったかもしれないのに。そのチャンスをあたしは・・・自分のワガママで潰したんだ」

その上、魅録の隣をキープし続けてさ。
ヘドが出るくらいイヤな女なんだ。
あたしってヤツは。

「悠理。ご自分の事を、そんな風に仰らないで下さいな。貴女は嫌な女性ではありませんわ」

「いや。サイテーで卑怯でイヤな人間なんだよ、あたしは。だって、自分がした事を棚に上げて告白しちゃったんだから」

抑えても抑えても、抑えきれずに出口を求め暴れだす恋心。
それが遂に、溢れ出してしまった。
好きだという気持ちを閉じ込められないくらい、想いが巨大になってしまったから。
だから、我慢出来ずに告白しちまったんだ。


「あたしじゃ魅録の特別にはなれないのか。彼女として傍においてくれないのか。あたしは彼女として魅録の隣に立ちたいんだって言っちゃった」

「・・・それで、魅録は何と仰ったの?」

「魅録は『昔から悠理は俺の中で特別な存在だ。だから、ずっと傍にいろ』って」

「まあ!まるで、プロポーズみたいな言葉ですわね」

「そうかぁ!?そうは思わないけどなぁ。あ、実際のプロポーズの言葉は違ったぞ?」

「はしたない事は重重承知の上で、伺ってもよろしくて?」

「うん。魅録はあたしに『松竹梅悠理になるか?』って言ってくれたんだ」

あの時は嬉しかったな。
だって、魅録の奥さんになれる権利をもらえたんだから。
他の誰でもない、このあたしが。
これでもう、不安に苛(さいな)む必要はない。
あの手紙を渡さなかったのは時効だ。
もう忘れよう。大丈夫。
そう心に言いきかせ、魅録と結婚した。
けれど・・・

「やっぱり神様はちゃんと見てるな。とんでもない罰をあたしに与えてきた」

「罰?罰って何ですの?」

「・・・魅録と元彼女の再会。そして、裏切り」

スーツ姿の二人が、ホテルの受付カウンターでルームキーを受け取り、そのままエレベーターに乗って姿を消してしまった。
そんな光景を目の当たりにしたあたしの気持ち、分かるか?
どんなに惨めで悔しかったか、想像できるか?
まるで、奈落の底に突き落とされたかの様な気分を味わったよ。

まさかあの子が、日本にいるだなんて。
おまけに、魅録といつの間にか再会してただなんて、誰が予想できる!?
出来やしないよ。
そもそも、どうやって連絡取り合ったんだ?
あたしに内緒で、こっそり調べたのか?
そんな事をしてまで、あの子に会いたかったのか?魅録は。
分からない。
あたしには魅録の心が分からない。

「きっと、あたしが手紙を握り潰した事もバレてるよな。魅録には」

「悠理・・・」

「魅録ってさ、曲がった事や卑怯な真似は許さないヤツじゃん。だからさ、あたしがした事は絶対に許さないと思う。愛想尽かして、あたしを捨てるんじゃないかな」

「魅録に限って、そんな事しませんわ!」

「分かんないじゃん!だって既に、あの子とホテルに行ってあたしを裏切った。きっとその時に、あたしがした事がバレてる」

「悠理・・・」

「早い段階で離婚を切り出してくると思う」

もう、あたしの顔なんて見たくないだろうから。
嫌われて当然の事をしたんだから、仕方ない。
こんな事になるなら、あの時ちゃんと手紙を渡しておけばよかった。
魅録に選んでもらえばよかった。
あの子とやり直すのか、それともあたしの手を取るのか。
そうすれば、日々の生活でビクビクする必要なんてなかったのに。

「あたし、魅録の傍にいたい。離れたくない。だって、すっげー好きなんだもん。どうしようもないほど大好きなんだもん。魅録が」

嫌われても憎まれてもいい。
魅録の傍にいられるのなら。
だって魅録に疎まれるより、あたしが魅録を諦める事の方が辛いんだもん。
だから、あたしは魅録の傍にいる。傍にいたい。
でも、その一方で迷いがあるのも事実。

「魅録の幸せを考えるなら、離婚して自由にしてあげた方がいいんだろうな。本当に魅録を愛してると言うのなら、それが正解なんだろうな」

分かってるさ。分かってる。
頭の中では分かってるんだ。
魅録を解放しなきゃって、ちゃんと理解してる。
でもさ、心がついていかないんだよ。

魅録がいない生活なんて、想像できないんだ。
なぁ、あたしはどうしたらいいんだ?
そう涙ながらに訴えるあたしを、野梨子はそっと抱き締め、そして頭を優しく撫でてくれた。







六花の軌跡【魅悠】 1

2020-04-16 23:57:00 | 六花の軌跡【魅悠】
あたしが犯した1つの罪は、高校時代にまで遡(さかのぼ)る。

あれは、いつの頃だったか。
チーマーにナンパされ困っていた女を、たまたま近くを通りかかった魅録が目にしたらしい。
そして、当然ではあるがナンパしていたチーマーを締め上げ追っ払った魅録は、何かあるといけないからという理由で、その女を家まで送り届けたそうな。
まあ、ここまで言えば後は分かるだろ。
お察しの通り、これがキッカケとなって、二人は付き合うようになったんだと、あたしは野梨子に簡単に話した。

「ドラマの様なお話ですのね」

「だろ?笑っちまうよな」

これじゃあ、安っぽい三流ドラマみたいだよ。
そう言葉を続けたあたしに、野梨子は少し困ったかのような笑みを浮かべた。

「突然の出会いなんて、案外その様なものなのかもしれませんわね」

「ん・・・そうかもな」

「それにしましても、驚きましたわ」

「何が?」

「高校時代、魅録にお付き合いされている方がいらっしゃっただなんて」

「・・・ああ。みんなに冷やかされるのが嫌で、内緒にしてたんだよ。魅録は」

「でも、悠理は知ってらしたのね?」

「知りたくはなかったけどな」

本当に知りたくはなかった。
魅録に彼女が出来ただなんて。
あたしじゃない他の女が、魅録の特別になっただなんて。
だってそうだろ?
惚れた男が、自分以外の女の手を取ったんだ。
これほど惨めな事はない。
しかも、直接紹介されるだなんて、マヌケな話じゃないか。
そう話すあたしを、野梨子はじっと見つめたまま無言で先を促した。

「街で偶然会っちゃってさ。そん時に紹介されたんだよ、彼女を。明るく元気で笑顔が可愛くて、そして・・・似てたんだ」

「似てた?」

「うん。マイタイ王国の王女、チチに・・・さ」

何をどう頑張っても逆立ちしても、敵う相手じゃないし勝ち目はないだろ?
チチ似の女じゃ。

チチが王女という身分故に、結ばれる事はなかった恋。
その恋を引きずっていた魅録の前に、チチ似の女が現れたんだ。
あたしが付け入る隙なんて、ありゃしない。
そんなの、無理に決まってる。
本当、参っちゃうよな。
だから、諦めようとしたんだ。
報われない恋をするのは止めようって。

「でも、出来なかったんだ」

「何故?」

「魅録に彼女が出来る以上に、魅録を諦める事の方が辛かったから」

「悠理・・・」

「ははっ。バカみたいだろ?でもさ、あたしの心はあたしのもんだ。魅録を好きな気持ちは誰にも止められない。邪魔したり迷惑かけたりしなければ、想うくらいは自由だろ!?」

だからあたしは開き直り、現実を受け入れた。
好きなもんは好き。
仕方がないって。
魅録の彼女にはなれないけれど、いつも傍にいられるダチの立場を貫こうって。
誰よりも魅録に近く、誰よりも魅録の味方で、誰よりも魅録を理解出来るダチに徹しよう。
ワガママ言って振り回すのは止めよう。
そう自分に言い聞かせ、日々を過ごしていた。
それなのに───

「二ヶ月経った頃かな。魅録が彼女と別れたんだ」

「まあ!」

「それを知った時、魅録が好きだって気持ちが暴れて、それを抑えるのに大変だった」

もしかして、あたしにもチャンスが巡ってきたんじゃないか!?
好きだと告白すれば、彼女にしてくれるかも!?
いやいや、別れて落ち込んでる魅録に、付け込む様な卑怯な真似なんてサイテーだろ。
軽蔑されたらどうすんだ。
ダチという立場さえ危うくなるじゃんか。

そんな両極端な気持ちが胸の中でグルグル回って、どうしていいのか分かんなくて、答えが見つからなくて途方に暮れて。
自分で自分を持て余していたんだ。

「そんな時だったかな?魅録の元彼女にバッタリ出くわしたのは。そん時あたしは・・・あたしは・・・」

「悠理?」

「あたし・・・は・・・1つの罪を犯した」

そう。
あたしは人として、サイテーな事をした。
魅録宛の手紙を託されたんだけど、それを本人に渡す事なく握り潰したんだ。

「元彼女、家族でアメリカに移住するって言っててさ。その準備で忙しくて、魅録に会う時間がない。だから、この手紙を渡して欲しいってあたしに頼んできたんだよ」

「悠理に?」

「うん。手紙を本人に直接渡したくても、住所が分からない。携帯も解約しちゃってるから、連絡もとれないって。だから、いつ会っても渡せる様に、常に手紙を持ち歩いてるんだって言ってたなぁ」

「・・・そう」

「しかしさぁ、一度会っただけなんだぜ?しかも、自己紹介した程度なのに。よく覚えてたよなぁ、あたしの事。ビックリしたよ」

本当に驚いた。
普通は覚えてないだろ!?
ほんの数分しか、顔を合わせてない人間の事なんて。
しかも最初に会った時、あたし俯いてたし。
と、思った事を口にしたら、野梨子は少し首を傾げながら言葉を放った。

「でも、悠理だって覚えてたんでしょう?偶然お会いした時に、その方が魅録の元彼女だって」

「うん」

「それは何故ですの?」

「何故って・・・そりゃ、忘れるワケないよ。盗み見した程度だったけど、忘れるワケない」

だって、あたしが一番欲しいポジションを手に入れた人だから。
あたしの好きな魅録の心を奪った人だから。
だから、目に焼き付いてしまった。
ほんの少しの時間だけしか、顔を合わせていなかったのに。
強烈にあたしの脳裏に焼き付いた。
そう話すあたしに対し、野梨子は微笑を浮かべながら軽く頷いた。