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ろうげつ

花より男子&有閑倶楽部の二次小説ブログ。CP :あきつく、魅悠メイン。そういった類いが苦手な方はご退室願います。

父さん頑張れ 13

2020-10-11 08:07:13 | 父さん頑張れ(総つく)
「浮かない顔してどうしたの?心配事?」

「心配事・・・に、なるんすかねぇ」

「ハッキリしないねぇ。折角のハンサム顔が台無しだよ」

「ハンサム顔って・・・久々に聞きましたよ」

愛妻弁当に箸をつけていた総二郎は、職場の貫禄ある熟女先輩の言葉に思わず苦笑いすると、その手をふと止め軽く息を吐いた。


つくしの退院祝いと称し、あきら達が牧野邸に押し掛けてきたのは2ヶ月前の事。
多忙を極める三人が一堂に会する事などなきに等しく、それを充分承知しているからこそ、総二郎はつい三人を引き留め夜通し盛り上がってしまった。

あきらと類はそうなる事を見越していたのか、翌日の午前中まで休みをとっていたようだが、司はそこまで気が回らなかったらしく、夜明け前に何処からか現れた秘書に叩き起こされると、そのまま連行されてしまった。
そして何故か、この日を境に妻であるつくしの様子がおかしくなっていった。

一点を見つめ厳しい顔をのぞかせたり、眉間にシワを寄せ思い詰めた表情を浮かべたりなど、物思いにふける時間が増えていったのだ。
それとはなしに何かあったのかと訊ねてみたものの「何でもない」の一点張り。
話が平行線で終わる。
正直、総二郎もお手上げ状態だ。


「問い詰めれば問い詰めるほど、意固地になりそうだしなぁ。いや、なりそうって言うか、絶対意固地になる。どうしたもんか」

「術後の経過が思わしくないだとか、実は違う病気も併発していたのが発覚しただとか、病気にまつわる事を言えずに悩んでるのかもよ?」

「それはないっすよ。経過は順調だし、心臓以外は問題ないし」

「う~ん・・・じゃあ、何で悩んでるんだろうねぇ」

「ですよねぇ」

100%大丈夫とは言いきれないが、今のところはつくしの体に異常はないし、術後の経過も安定している。
定期検診には総二郎も必ず付き添っているので、彼女の体が病魔に蝕まれていない事も承知している。
こちらが驚くくらい、心臓以外は丈夫なのだ。

となると、病気以外で頭を悩ませている事が分かってくる。
ただそれが、何に対しての悩みなのかが分からないのだ。

「アイツらが遊びに来た直後から、様子がおかしくなったんだよなぁ」

「アイツらって、牧野君のお友達の事かい?」

「ええ。俺の幼馴染み達ですよ」

「・・・それだ」

「はっ?」

「だから、気が鬱(ふさ)いでる原因だよ」

明後日の方向を見ながら不気味な笑みを浮かべた熟女先輩は、怪訝そうな顔をする総二郎を置き去りに、お弁当をつつきながらまくし立てた。

「ほら、アレだ。焼け木杭(ぼっくい)に火が付いたってヤツよ」

「はぁ!?」

「遊びに来た友人の中に奥さんの元彼氏か、奥さんが好きだった人、いたんじゃない?」

「・・・ああ、いましたね」

「それそれ!旦那の事は好きだけど、でも元彼氏や好きだった人の事も忘れられない。久しぶりに再会して、胸のトキメキを覚えたんだね。抑えられなかったんだよ。幸せな家庭を壊したくないけど、女としての自分の幸せも手に入れたい。正に、板挟みだよ。胸が苦しくて切なくて、憂いちゃってんのよ。熱いパッションがたぎっちゃってんのよ。昼ドラの世界だねぇ~」

自分がたてた仮説に熱弁をふるい、どこぞのラブソングの歌詞みたいな事を口にしてウットリ酔っている熟女先輩を後目に、総二郎は愛妻弁当をひたすら掻きこみながら、今夜にでも膝をつきあわせ話し合ってみるかと呟いた。

そして、その日の夜。
修平を寝かしつけ、一息つく頃合いを見計らった総二郎は、つくしを寝室に誘(いざな)い、胸の奥につかえているモンを吐き出してみろと、穏やかな口調で促した。


「そろそろ打ち明けてくれてもいいんじゃね?一人で悩んでても答えは出ねぇだろ。そんなに俺は頼りない夫か!?」

「ち、違っ!そうじゃないの!」

「じゃあ何だ?俺らは夫婦だろ、一つの家族だろ。デケェ壁が立ち塞がっても、一緒に乗り越えていこうって約束したじゃねーか。まさか忘れたのか!?」

「忘れてないよ!」

「じゃ、話してくれよ。俺はさ、お前の翳(かげ)った顔なんざ見たくねぇんだ。お前には笑顔でいて欲しい。憂いがあるなら取り除いてやりたい。だから頼む、何を悩んでいるのか教えてくれないか?じゃなきゃ、前に進めない」

まさか、熟女先輩の言うような『焼け木杭に火が付いた』という訳ではないだろうが、それでも全くないとは言いきれない。
司は兎も角、類に対する不安は少なからずある。
と、包み隠さず己の胸の内を話す総二郎に、つくしは首と手を左右に振りながら「ないない」と、力強く否定した。

そして否定した後、軽く深呼吸をしたつくしは、意を決して悩んでいる事を口にした。

「盗み聞きするつもりじゃなかったの」

「あん?」

「夜中に喉が渇いて、水を飲もうと台所に行こうとしたんだ。その時に偶然、みんなの会話を聞いちゃって・・・」

「俺達の会話?」

「うん。その・・・こ、子作りの話とか・・・その・・・」

「あ~・・・聞かれてたか」

苦笑いを浮かべながら、照れを隠す為に口許を手で覆う総二郎を他所に、つくしの顔色はどこか優れない。
何とも言えない感情が身体中を駆け巡って、この気持ちをどう表現すればいいのか分からないのだ。
しかし、これ以上ノラリクラリと総二郎の追及をかわしていても、何の解決にも至らない。
そう観念したつくしは、上手く伝えられるか分からないと前置きしてから、ポツリポツリと自分の気持ちを伝え始めた。



しおむすび【魅悠】

2020-10-07 20:27:24 | 短篇【有閑倶楽部】
シンプルだからこそ難しい。
シンプルだからこそ誤魔化しがきかない。
美味しい米に美味しい水、そして美味しい塩。
それプラスα、ベタではあるが限りない愛情をスパイスに、一生懸命握る。
不器用なりに。

笑顔で食べてくれるように。
美味しいと言ってもらえるように。
喜んでもらえるように。
一人の男の顔を思い浮かべながら、せっせと握る。


「悠理が作ったのか?この握り飯」

「う、うん。カタチは少し悪いけどさ」

「俺の為に?」

「そ、そうだよ!何か文句あんのか」

「あるわけねぇだろ。ちょっと驚いただけだ」

「野梨子や可憐みたいに上手に握れなかったけど、魅録に美味しく食べてもらいたいなと思って、必死に頑張って握った」

「食っていいか?」

「うん」

「・・・」

「ど、どう?」

「・・・」

「な、何か言えよ」

「・・・」

「無言で食うなって~。塩が多かったのか?それとも水加減が悪かったのか?言葉が出ないくらいま、マズイのか?何とか言えよ、魅録ぅ~」

「すげぇ美味い」

「へっ?」

「塩加減、水の量、握り具合、どれもパーフェクトだ」

「ほ、本当か!?」

「俺がお前にウソ吐く訳ねぇだろ」

「そ、そりゃそーだけどさ。でも、ほら、あたいが握ったヤツ、可憐が握ったのと比べて下手だろ?」

「別に可憐と比べる必要ねぇじゃん。悠理は悠理、可憐は可憐だ。それに・・・」

「それに?」

「俺は悠理が作った握り飯しか、食うつもりねぇし」

「へっ?」

「悠理の真心がこもった握り飯は大歓迎だけどよ、可憐の握り飯は何か・・・執念と怨念と邪念がこもってそうで怖ぇよ。呪われそうじゃん。それに、香水のニオイが握り飯についてそうだし、あの真っ赤な爪で握ったのかと思うと食う気が失せる」

「み、魅録・・・」

「俺には悠理の握り飯があれば充分だ」

ふっと零れた微笑を見る限り、おべんちゃらではなく本心からの言葉だと分かる。
そこでようやっと、悠理はホッと胸を撫で下ろし、魅録と肩を並べながら自分の作った握り飯を口に放りこんだ。




「・・・魅録のヤツ、本当に呪ってやるからね!人を何だと思ってんのよ。そもそもねぇ、可憐さんのおむすびと悠理のおむすび、比べないでもらえる!?あの子の材料は塩だけじゃない。対して可憐さんの材料は───」

「わ、分かってるから。落ち着いて、ね?僕は具沢山で見た目も良い、可憐のおむすびが一番だと思うよ。味も一級品だし。清四郎もそう思うよね?」

「下心丸見えの可憐のおむすびより、品のある野梨子のおむすびの方が、僕は好みです」

「まっ!ありがとう、清四郎。沢山召し上がって下さいな」

「・・・アンタ達、この可憐さんを何だと思ってんのよ!」

可憐の怒りのマグマが爆発するも、それに構う事なく、魅録と清四郎は自分好みのおむすびを頬張っている。
そんな男二人の姿を目にし、憤怒の形相をのぞかせた可憐は、怒りの矛先を全て美童へとぶつけた。



〈あとがき〉

衝動的に書いた魅悠話です。
行き着く先は、可憐オチ(笑)
有閑では可憐、花男では司が一番イジリやすい。


サチあらん未来へ(あきつく)

2020-10-05 06:39:01 | 短篇(花より男子)
※若干、後味の悪い話となっております。
ですので、読む読まないは自己責任でお願いします。
尚、読まれた後の苦情は受け付けませんので、あしからず。



私は牧野サチと申します。
お気付きかとは思いますが、私の母は牧野つくしです。
あ、ご心配なさらなくても、私は貴方様の娘ではございません。
それは自信をもって断言致します。

私の母は何事にも一生懸命で、悪い事をするとちゃんと叱ってくれて、真正面から受け止めてくれて、温かい心を持ち、ホッとする笑顔を浮かべる人でした。


「でしたって・・・過去形じゃないか。過去形って事はつまり───」

「心臓は動いています。ただ、生きる屍となった状態だという意味です」

「なっ!?」

「母は父の作った借金を返す為に、無理をしました。朝早くから夜遅くまで働いて、その合間に私の世話や家事をこなし、手抜きは一切しませんでした」

「借金・・・だと!?」

「はい。今は完済してます」

「借金額はいくらだったか分かるかい?」

「確か、3千万円くらいだったかと」

「3千万!?それを牧野一人で返したって!?」

「はい。私も役に立ちたくて、アルバイトで稼いだお金を渡したんですけど、受け取ってもらえませんでした。なので結果的に、母が一人で借金を返しました」

「牧野・・・君のお母さんだけで返した?じゃあ、君のお父さんは何をしてたんだ」

「酒と女に溺れた父は、完全にヒモ状態でした」

「・・・なんだと?」

「初めからそんな人間じゃなかったんです。でも、ある日を境に父は変わってしまった」

「・・・」

「リストラされ再就職も上手くいかなかった父は、貴方様に口利きしてくれと母に迫りました」


母の心の根っこには、未だ貴方様が住んでいる。
母が自ら手離したくせに、断ち切れずにいる貴方様との恋。
貴方様のお立場、貴方様の幸せを考え身を引いたくせに、ずっと頑固に引きずっている恋。
その事は、父も薄々は気付いていたようでした。
母が本当に愛しているのは自分ではないと。


「再就職も上手くいかない父は、苛々が募っていったんでしょう。自力で母の過去を調べました」

「それで、俺の存在を知ったんだな」

「はい」


母が昔、付き合っていた男性が誰であるのか、その男性がどんな立場の人間なのかを知ってしまった。
しかし、肝心の貴方様に関する情報は素人では手に入れられない。
だから父は、なけなしのお金を叩いて探偵に調べさせたようです。
そして、貴方様のご事情を多少なりとも知り得る事が出来た。


「夫婦仲は冷えきっていて長年別居し、子供もいない俺の家庭事情を知ってるんだな」

「はい。だから父は母に、貴方様と浮気しろと馬鹿な事を命令して・・・」

「美人局か。浮気の証拠を握ったら慰謝料を請求し、ついでにウチの会社に就職させてもらおうって魂胆だったかな?君のお父さんは」

「申し訳ございません」

「君が謝る必要はない」

「はい」


自分の要求を突っぱねた母が、父には憎たらしく思えたんでしょう。
このやり取りの後から、父の生活が乱れました。
酒浸りになり、風俗店に通いつめ、キャバクラ嬢に入れあげる。
そうすればきっと、母は貴方様の元へ向かい助けを求めるはず。


「そんな父の狡さを母は分かっていたようです。貴方様の元へは行かず、パート先を増やして生活費を稼いでいました。けどそれが、ますます父を意固地にさせてしまって、遊びが派手になっていきました」

「借金が出来、牧野は更にパート先を増やしたってトコか」

「はい。身を粉にして働き、生活費を稼ぎながら借金も少しずつ返済していたようです。でもそんなの、焼け石に水でした」

「稼いだ金より使う金の方が多い。違うか?」

「ええ、その通りです」


だから母は、思いもしない方法でお金を稼ぎました。
海外の貧しい国ではよくある話だそうです。
想像つきますか?
そうです、臓器売買です。
無論、日本では違法行為にあたります。
ですが、裏ルートがあるんでしょうね。
母は伝手を頼り、道明寺財閥の御曹司の元婚約者だという付加価値をつけ、自分の臓器を高く売りました。


「腎臓と左目を売り、父の借金を完済しました。ですが、その時の違法手術で視神経を傷付けたのか、母の視力が低下しました。今では、ぼんやり見える程度の視力しかありません」

「っ!!」

「そんな母を見限った父は、勝手に離婚届を提出し、愛人と一緒に姿をくらませました」

「・・・る」

「えっ?」

「許さねぇ。必ず見つけ出して制裁を加えてやる。牧野を傷付け苦しませるヤツは、絶対に許さん。地獄のような苦しみを与え続けてやる」

「あ、あの・・・!?」

「・・・君のお母さん、入院したままなのか?」

「え?」

「入院してるのか?」

「あ、いえ。今は私の住むアパートで一緒に暮らしてます」


若い頃から働き詰めで、その無理が祟ったんでしょう。
母の体はあちこちガタがきていて、寝たきりの状態が続いています。
入院させようとしても、頑なに拒否します。
お金のかかる事はするな。
可愛い娘にそんな事はさせたくないし、してもらいたくない・・・と、その一点張りで。
だから貴方様に母を説得してもらいたく、こうして恥を忍んで会いに来ました。


「母から聞きました。貴方様との間に子供が出来たら男の子にはヒカル、女の子にはサチと名付けたいんだという、他愛ない話をした事があると」

「ああ。だから最初、君の名前を耳にした時は驚いたよ」

「だと思いました。だから最初に、決して貴方様の娘ではないと前置きした上で、母の現状をお伝えしたんです」


貴方様のご都合やご家庭の事情も考えず、自分勝手なお願いをしている事は、重々承知しています。
それでも私は、母を助けたい。救いたい。
本当に愛してやまない人に会わせてあげて、生きる気力を与えたい。
そうすれば、元気になろうと病院にも通うだろうし、入院もしてくれるだろうから。

ですからどうかお願いします。
一度だけでいいんです。
母に会って貰えないでしょうか。
母の心を動かせるのは、貴方様だけなんです。
重ねてどうか、お願い致します。

母が愛する美作社長。



〈あとがき〉

限りなく、蔵入り部屋行きに近い作品ですね。
何とも後味が悪く、胸糞悪い話です。
どんな精神状態で書いたんだよ。
色々と大丈夫か!?
と、自分で自分にツッコミを入れたくなるくらい、病んだ話ですね。

この後あきらは、マッハの勢いで嫁と離婚し、つくしの元へと駆けつけます。
そして、いつの間にやら内縁関係に。
あきらもつくしも、穏やかな日々を過ごします。
当然ながら、つくしの元旦那にキツい仕置きをしますが、その事はつくしに悟られないよう配慮します。


父さん頑張れ 12

2020-10-02 08:02:00 | 父さん頑張れ(総つく)
基礎がしっかりしている古民家を改築し、そこを新たなる根城に構えた牧野邸で、つくしの退院祝いが行われた。

「「「牧野、退院おめでとう」」」

「ありがとう、みんな」

「よく頑張ったな」

「うん。色々とありがとう」

「おかーさん、おかえりなさい」

「ただいま、修平」

類に無茶ぶりされたあきらと司も無事、夕方に合流し、主役であるつくしや修平、そして総二郎と共に祝い膳を囲む事が出来た。
祝い膳と言っても退院したばかりのつくしが拵(こしら)えたものではなく、気遣いと気苦労の人、あきらが前もって仕出し料理屋に連絡し、牧野家まで祝い膳を配達するよう手配したものである。

「仕出し料理を手配してくれてありがとう。F4の中で一番、大人で気配り上手な美作さんだけあるね」

「よせやい。誉めたって何も出ねぇぞ?」

「何だぁ~。誉めて損した」

「「あはははは」」

顔を見合わせ、楽しそうに笑声を上げるあきらとつくしの姿を目にした総二郎は、思わず涙ぐみそうになるのをグッと堪えた。

今でこそ元気に笑ってはいるが、術後に服用した薬が体に合わず、つくしは副作用でかなり苦しんだ。
嘔吐を繰り返し、食欲は減退し、気力も衰えてくる。
傍で付き添う総二郎も、思わず弱音を吐きたくなるほどだった。
そんなつくしの姿を間近で見てきただけに、今こうして元気に笑っている姿を目にするだけで感慨深いものがあるのだ。

そんな総二郎の心情を知ってか知らずか、マイペース王子である類が、あきらとつくしの間に割って入ってきた。

「調子はどう?まだ体力戻ってないんだから、あんまり無理するなよ。こういう時こそ、総二郎をこき使わなきゃ」

「心配してくれてありがとう。かなり体力も戻ってきたから大丈夫」

「そうは言っても牧野は弱音を吐かないし、頑張りすぎるきらいがあるから心配だよ」

「本当に大丈夫だから。心配し過ぎだよ、花沢類」

「牧野に関してのみは・・・ね。それよりもいい!?無理だけは絶対しないで。役に立つかは不明だけど、何かあったら総二郎に全てを押しつけるんだよ?それでも不安なら、俺を頼ってくれていいからね」

「・・・おい」

色々と突っ込みどころは満載だが、何処から何をどう突っ込んでいいのか分からない。
いや、正確に言うと、突っ込む気力が喪失している。
類に何を言ったとて所詮、糠に釘、暖簾に腕押し状態なのだ。
だから総二郎は、類に対する文句を口にせず我慢して呑み込み、愛する妻と息子、そして友人達の会話する姿を、微笑を浮かべながら見守っていた。

そして、そんな和気藹々とした楽しい時間はあっという間に過ぎていき、修平の就寝時間がやってきた。


「修平をお風呂に入れてから、寝かしつけてくるわね」

「もうそんな時間か。じゃあ、お前も修平と一緒に風呂入って寝ちゃえよ。退院したばっかで疲れてるだろ。無理すんな」

「でも、それじゃあ集まってくれたみんなに申し訳ないし・・・」

「コイツらは勝手に来たんだから気を遣う必要ねぇよ。心配しなくても俺がちゃんと面倒みとくから。お前は気にせず修平と寝てくれ」

「う、うん、分かった。四人で集まるのも久々だものね。積る話もあるだろうし、遠慮なく先に休ませてもらうね」

「ああ。コッチの事は気にせずゆっくり休んでくれ」

「ありがとう。じゃ、お言葉に甘えてそうする。美作さん、花沢類、道明寺、お先に失礼するね」

「「「おやすみ」」」

「ミーマ、類クン、ジー、おやすみなさい」

「「おやすみ、修平」」

「おいコラ、ちょっと待て!修平、何で俺がジーなんだ!それじゃまるで、俺様がジジィみたいじゃねーか」

納得いかんとばかりに目くじらを立て抗議する司だが、本気で怒っている訳ではない。
もし本気で怒っているのならば、口より先に手足が出るはずだ。
それが分かっているからこそ、総二郎やあきら、類はニヤニヤしながら傍観しているのだ。
ただ一人、司に対し容赦なく手足を出すつくしだけは、まともに受け取ったようだが。

「ちょっと道明寺!子供相手に何ムキになってんのよ。大人げない。別にジーだろうがジジィだろうが、どっちでもいいでしょーが!」

「どっちでもいい訳ねぇだろーが!類はクン付け、あきらはミーマ呼び、だったら俺はツカでいいだろーが。ああ!?」

「仕方ないじゃない。私がアンタを道明寺って呼んでるんだから」

「ああ!?」

「私の言い方を修平が真似してるんだから、仕方ないって言ってんの」

「ンだと!?」

「美作さんって言いにくいでしょ?修平的には。だから修平は修平なりに考えて、美作さんをミーマ、花沢類は名前が言いやすいから類クン、で、道明寺は『どーみょーじ』って言いにくいから、最後の『じ』を取ってジーって呼ぶようにしたんじゃない」

「ぐっ!いや、しかしだな───」

「まさかアンタ、修平からツカって呼ばれたいが為に、私に名前で呼べって言うつもりじゃないでしょうね!?冗談でしょ!そんなの、彼女にでも呼んでもらいなさいよ。私はアンタの嫁でも彼女でもないんだから。私にとって、道明寺は道明寺でしかないの!」

それ以上でも以下でもない。
その事をよ~っく覚えておきな。
おととい来やがれ、スカポンタン。
と、江戸っ子ヨロシク啖呵をきったつくしは、戸惑いの色をみせる修平を抱っこしながら、居間を出て風呂場へと向かった。

そんなつくしの背を言葉もなく見つめていた四人だったが、風呂場の扉の閉まる音が聞こえてきたと同時に、司以外の連中が腹を抱えて笑い始めた。

「くくくっ!さすが牧野、泣く子も黙る道明寺財閥の次期総帥を見事に黙らせたな。学生時代を思い出すぜ」

「ぐうの音も出なかったね、司。世界広しと言えど、司相手にそんな事が出来るのは牧野と司の姉チャンくらいでしょ」

「天下無敵の嫁を持つ俺は果報者だ。これからは、司が何かやらかしたらアイツに言おう。そうすれば、司も大人しくなるだろ。ま、あの言葉遣いは子供の教育上、宜しくはないけどな。そこだけは注意しとくか」

「「確かに」」

「って事で司、今後は自分の言動に責任を持てよ!?理不尽な事をしてみろ。俺の嫁である牧野つくしの鉄拳を、何発か喰らう羽目になるぜ?」

「ウッセー!この俺様をバカにしやがって!てめぇらいい加減に────」

『道明寺ウルサイ!風呂場にまでアンタの声が聞こえてくるわよ!静かにしなさい!』

『お、お母さんの方がウルサイんじゃ・・・』

風呂場から聞こえるつくしと修平の声を耳にした三人は、憮然とした表情をのぞかせる司を横目に、またも腹を抱えながら豪快な笑声を上げた。
そんな四人の更(ふ)け行く夜は、まだまだ続くのであった。


中秋の名月

2020-10-01 20:54:41 | 雑記
皆様、こんばんは。
本日は中秋の名月ですね。
お住まいの地域からお月様は見えましたか?
私は、秋の実りに感謝しながら月を愛でました。
芋を片手に(笑)
そんな中、ふと頭に浮かぶんですよ。

『有閑倶楽部の悠理だったらきっと、花より団子ならぬ〈月より団子〉だろうな。そんな悠理を愛でながら、魅録は月見酒を楽しむんだろうな

とか、

『花男のつくしだったら多分、バイト帰りにススキの生えてる場所から月を見て、そんなつくしを数歩後ろからあきらが見守ってるんだろうな』

とかね、つい妄想しちゃう訳です。
で、短篇書いちゃおうかな~という意欲も沸いたんですが、「父さん頑張れ」の12話を書いてるうちに・・・ええ、まあ、スミマセン。

てな訳で、うまくいけば明日にでも「父さん頑張れ」の12話をアップする予定です。
相変わらず開店休業状態ですが、そんな中でも遊びに来て下さる皆様に感謝です。
本当にありがとうございます。
これからも宜しくお願いします。