日々の便り

男女を問わず中高年者で、暇つぶしに、居住地の四季の移り変わりや、趣味等を語りあえたら・・と。

山と河にて (3)

2023年08月16日 03時46分59秒 | Weblog

 健太郎と理恵子が帰宅すると、節子は庭先で慣れない手付きでスコップを手に残雪を取り除いていたが、二人を見ると居間に入りお茶を入れて一休みした。
 理恵子が「お墓も、美容院のお部屋も手入れされており綺麗だったわ」と母親に話していると、彼は「よしっ、ついでに池の周りを片付けてこようか」と言って裏庭に出て行った。
 二人になると、理恵子が
 「お父さんの後ろ姿を見ていて、一寸、老けてきた様に思え寂しく感じたわ。体調は大丈夫なの?」
と聞くと、節子は
 「そうかね。毎日一緒にいると、わたしには気ずかないが、そうかしら?」
 「わたしも、その様に見えるのかしら」
と言って、笑みを零し手で髪をなでていた。
 暫くして、庭に面した廊下のところで、健太郎が「お~い、マスを救っておいたので、塩焼きにしてくれ」と叫んだので、理恵子がバケツを持ってゆくと「鯉は、水が冷たいので深みで動かないわ」と、魚好きの健太郎らしく池を覗き見るようにして魚の様子を話していた。

 そんなとき、江梨子と奈津子の二人が突然訪れて来た。
 彼女等は、高校卒業後理恵子と一緒に上京し、それぞれの道に進んだ同級生で、上京後も機会をみては顔を合わせて、近況を話あって互いに励ましあいホームシックを癒していたいた仲である。
 理恵子は思いがけない来客に嬉しさのあまり大声を上げて喜び歓迎したところ、奥の部屋にいた節子も声を聞きつけて顔を覗かせ笑顔で座敷に招きいれた。
 広い座敷に案内され、上品な漆塗りで花鳥模様のテーブルを囲んで三人が座ると、節子は「東京では、理恵子が大変お世話になりまして・・」と丁寧に挨拶をしたあと、茶果を用意するため座をはずした。
 江梨子は、黒のスーツとスカート姿で、すっかり都会のOLが似合った格好で、髪も綺麗にカールされて美容院に寄って来たことが理恵子には直ぐに判った。
 それに比べて、まだ、医学部看護科3年生の奈津子は、少し濃い紺色のスーツと茶色のスカート姿であった。
 奈津子は、三人の中では高校時代から彼女等のリード役であったが、理恵子の目には何か悩みを抱えている様で元気なく見えた。
 理恵子が、江梨子に対し
 「上京するときは、貴女が一番おとなしく見えたが、今では逆に貴女がわたし達の先頭を歩んでいる様だわ」
と言うと、江梨子は「そうかしら、私にも、それなりに悩みはあるのよ」と、如何にも営業マンらしく、普段の生活振りをよどみなく面白可笑しく語り始めた。

 江梨子は、東京に本社がある精密機械会社に、社長の姉で筆頭株主である母親の紹介で、母親や妹にも好かれている同級生で、高校時代から恋愛していた小島君と一緒に同じ会社に入社した。
 彼女は、上京前から、母親からことあるたびに
 「早く結婚して孫の顔を見せておくれ。この歳になると、孫の子守が楽しみで生きている様なもんだ」
 「近所でも皆が寄るとさわると孫の自慢話で、そんな話の中にいると、自分の生き方が間違っていたのかと思うと悲しくなってしまうわ」
 「達夫(社長で母親の弟)の話しなんて、田舎に隠居同然のわたしには、会社のことなんて関係なく改めて聞きたくもないわ」
 「友子(江梨子の妹)なんて、お前より進んでいて、後がつかえているから、お前達に早く結婚しろって文句ばかり言っていてるわ」
と強く言われて上京し、叔父の会社に就職したが、小島君が会社の規定で寮生活を経て、おそらく母親の指図と思うが、社長の計らいで、奥さんを亡くして独居生活をしている専務さんの家で、今年になり、やっと念願叶い小島君と共同生活をする様になった。 と、江梨子の近況話が盛り上がったところで、すかさず好きでたまらない小島君のことについて
 「幸い、彼は機械の設計が好きで、仕事の上では心配ないが、肝心の夜の生活は、まだ、君の将来に責任が持てないと理屈を並べて応ぜず、そのくせ私の身体には凄い興味を示すが行動が伴わず、そのため、まだ、生娘なのよ」「信じられないでしょうね」
 「同級生と言うのは、お互いを知りすぎていることと、同じ歳とゆうことで、どうしても生活面で女性のほうが優位で、遊びは別として、家族が望む通りにならないわ」
 そのため、母親から「お前が意気地なしだからだ」と、顔を合わせる度に文句を言われているが。と、散々愚痴ったあと、続けて、日頃のうっぷんを這い出すように

 それでも、社長さんの奥さんは2号さんあがりだが、品川で小料理店を経営しており、とても優しく思いやりのある人なので、わたしが、小島君と口争いしたとき気晴らしに遊びに行くと、奥さんは
 いまの社会は、価値観も昔と随分と変わってしまい、女性も身体で尽くすよりも心で尽くす時代になり、大坂や札幌などへ出張したとき、これはと思う人と巡りあい誘われたとき、自分の責任で不倫するのも勉強よ。でも、本気にならないことよ。でも、こんな大人の遊びは純情な貴女には難しいけれどもね。と言ってフフッと笑い、冗談とはいえ怪しげなことを言って笑わせ、帰り際にお小遣いをポント気前よく呉れたりして、面白い方なのよ。
 わたしが、遠慮すると「いいのよ、今度、主人が威張って部下を連れてきたとき、その分上乗せしておくから」と言い、苦労人らしく「主人に何を言われようとも気にせず、人生、最後の止まり木であるし、一生懸命に尽くしているわ」と言って慰めてくれ、私も、興味半分に聞き留めておくだけで、とても本気になれなわ。
と、エピソードをまじえて面白可笑しく話して、理恵子達を笑わせていた。

 節子がお菓子を運んできて紅茶を入れて差し出したあと、話の間合いに奈津子の隣に座り、彼女のケーキの食べ方を見ていて小さい声で「貴女、若しかして、おめでたではないの?」と静かにたずねると、奈津子は「はい、先月から生理がなく、わたしも、そうなのかしら」と自信なさそうに答え「まだ、学生なので、同棲していても、避妊には日頃注意していたんですけれど・・」と、すでに自分達の関係については知っている節子に対し躊躇うことなく素直に、高校時代から交際していた先輩の医学部生との生活を、正直に話し「若し、本当に妊娠していたら、休学して生むつもりです」と、彼女らしく強気で答えていた。

 上京後、理恵子と江梨子が、彼女の部屋を訪ねたとき、まるで新婚生活の様に調度品が整っており、毎週末には彼氏が訪れていたことを、彼女の話から知らされていたので、二人は彼女の話を聞いても格別驚かず、江梨子は「羨ましいわ」と、自分の身に置き換えて言うと、節子が笑いながらも奈津子に諭す様に
 「そうね、今が大事なときなので、安定期に入るまで、日常生活で無理をしないことね」
と、看護師らしく優しく助言をし、続いて理恵子の顔をチラット見て鋭い眼差しで
 「貴女は、どうなのかしら?」
と、婚前交渉は認めませんよと言わんばかりに厳しい目で見つめた。 

 理恵子は、江梨子とは反対に、美容学校に通学するため上京して、節子と同郷の城孝子方に下宿していたとき、織田君のところに訪ねて初体験をして夜遅く帰宅した際、それとなく珠子さんに気ずかれ告白したことがあり、信頼していた彼女から孝子小母さんを通じて母親にコッソリ知らされているのかしら。と、瞬時に思い、内心、母親に対し隠し事をしていることに罪悪感を覚え、俯いて紅茶のカップをいじり廻し黙っていた。
 
 

 
 

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