日々の便り

男女を問わず中高年者で、暇つぶしに、居住地の四季の移り変わりや、趣味等を語りあえたら・・と。

(続) 山と河にて 12

2024年01月07日 02時37分29秒 | Weblog

 美代子は、ラーメン店で寅太と三郎に礼を言って帰宅する道すがら、大助の腕に手首を絡めて甘えていたが、自宅の玄関前に来ると立ちどまり大助に念を押す様に、普段の強気な彼女に戻り
 「明日は、わたしの家に引越しするのょ。わたしも、お手伝いするゎ」
と、彼の腕に絡めた手に力を込めて、当たり前のことの様に、こともなげに言うので、彼はとっぴなことを急に言はれ
 「エッ!そんなこと誰が決めたんだい」「僕は、そんなことは頭の中に全然ないよ」
と返事をすると、彼女は言葉に力を込めて
 「わたしが、決めたことょ。いいでしょう」
 「これから、お爺ちゃんとママに、わたしの堅い決心を説明するの」 
 「大ちゃんも、わたし達の幸せのために、お爺さんに対する説得を応援してね」
と、平然とした顔で答え、彼に反論の隙を与えなかった。 
 彼は、彼女に逆らって感情を刺激して、玄関で言い争っていることを街の人に見られた場合みっともないと思い、考えが纏まらないまま 
 「アァ~ァ、トウトウ、今晩、美代ちゃんの婿さんになる約束をするのか」
 「珠子姉さんや母さんにも相談してないのに・・」
 「学業を諦めて一緒になるなんて・・。若過ぎる僕達のことを聞いて凄くビックリするだろうなぁ」
 「僕。正直、将来に自信がもてないや」
と、大きな溜め息をつき、彼女の独断的な言葉にあきれて本気とも冗談ともつかない一人ごとを呟き、星がチラチラと瞬く更け行く秋の夜空を見上げながら、感傷的な気分で小声で呟いたら、彼女は再び正面に立ち塞がって止まり、彼の両手首を力強く押さえ、顔を見つめてブルーの瞳を光らせ、彼を勇気ずける様に
 「チガウノ! チガウノヨ。わたしが、大ちゃんのお嫁さんになるのっ!」
 「引越しは、君の勉強第一に環境を整えるための一時的なものょ」
 「病院の跡継ぎなんてことは、わたしには関係ないことだゎ。余計な心配をしないでね」
 「あくまでも、自分達の幸せを築くためで、どんなに辛いことがあっても耐えて、何処までも君について行く決心を前から決めていたの」
と、自分の描く世界を既定のものと決めつけ、澄ました顔で
 「わたし、将来、例え、大ちゃんが新米のお医者さんで安いお給料でも、わたしも、なんでもして働いて、二人が幸せになれる様に頑張るゎ」
 「泣き言なんて絶対に言はないゎ」
と、彼女の描くロマンを真剣な眼差しで話した。
 彼は、自分達の置かれた立場を超えた彼女の飛躍的な話に、会話をするほどに頭が混迷してしまった。 

 彼等が帰宅すると、お爺ちゃん達はキャサリンと居間で話し込んでいたが、大助の顔を見るや、お爺さんは
 「大分冷えただろう、一風呂入って身体を温めてくればいいさ」
と話したので、美代子はすかさず「わたしも、一緒に入るゎ」と便乗して、彼の背中を押して風呂場に向かったので、キャサリンはビックリして
 「まぁ~、呆れた子だゎ」「恥ずかしくないのかしら」
と小声で愚痴を漏らすと、お爺さんは
 「好きな様にさせておきなさい」 「無理に引き止めて五月蝿く騒がれても困るので」
 「それに、春先も一緒に入っていたし、今時の子供の考えはワシには判らんわ・・」
と、大事な話をする前だけに気をつかっていた。

 大助が、先に湯船に身体を沈めていると、美代子は
 「湯加減はどうを。わたしも入るわょ」
と言うが早いか、さっさと湯船に入り、彼の左側に身体を摺り寄せて、胸に当てていたタオルから手を離し、彼女の癖で、彼の腕に手を絡ませ、甘える様に頬を肩に寄せ、足を思いっきり伸ばしたので、彼も春休みに何度も一緒に入ったが、やはり久し振りに触れる彼女の柔らかく滑らかな肌に本能がうずき、照れ隠しに
 「オイオイ また足が長くなったようだなぁ」
と言うと、彼女は
 「そんなことないゎ」「それより、大ちゃんの体こそ筋肉質で逞しくなって、わたし、頼り甲斐があり、嬉しいゎ」
と言いながら、彼の胸毛を悪戯ぽくチョコット引張ったので、彼は
 「コラッ イテェ~ヨッ」
と言って彼女の手を払った。
 大助は、美代子が股間に手を伸ばすのを警戒して、タオルを当てて用心すると、彼女は、もたれかかるようにして耳もとで、フフッと笑ったあと、囁く様に
 「私達が中学生のころ、大ちゃんが、体操で両手足を怪我して入院している病院にお見舞いに行ったおり、オオジサマを摘んで、し尿瓶にオシッコをさせてあげたことを覚えている?」
と聞くと、彼は
 「覚えているさ」
 「君が看護師を病室から追い出して、いきなり乱暴にオオジサマを摘むから痛かったし、まさか、そこまでするとは思わなかったので、恥ずかしさを通り越して驚いてしまったよ」
 「でも、我慢していて漏れそうだったので助かったが、手際のよさに、やっぱり、医者の娘だなぁと感心したよ」
と返事すると、今度は
 「じゃぁ、春休みが終わり、お別れする前の夜、わたしの人生で一番大切なものを、大ちゃんに捧げたときのことわ?」
と、恥ずかしさを隠す様に悪戯ぽく聞くので、彼は
 「う~ん、微妙な質問だなぁ。 初めての経験で夢中だったので、よく覚えていないやぁ」
と、わざと、あいまいな返事をすると、彼女は指先で彼の鼻先をピンと突っき
 「うそつきぃ~、わたしが、妊娠するんでないかと、翌朝、さかんに心配していたくせに」
と言って、その夜の出来事を想い出したのか、懐かしそうにクスクスと笑った。

 湯船から上がり、彼女が彼の背中を洗い出したが
 「アラッ 背中にも産毛が少し黒く生えているゎ」
 「さっき、お爺さんと一緒に入ったのに垢が出るゎ。二人で何をしていたのょ」
と言ったあと、彼女は糸瓜に変えて軽石で軽くこすり始めたが
 「アラ~ッ 垢がでるわ、でるわ、面白いほど」
 「大体、新潟にいるときは満足にお風呂にはいっていたの」
とブツブツ言いながら擦ったあと、シャンプーで流し終えると、小声で
 「前も洗ってあげましょうか」
と言ったので、彼は自分で洗うといって、ヘチマを取り上げ
 「美代ちゃんの、背中も洗ってやろうか」
と言うと、彼女は
 「ダメ ダメ、お尻を触りたいんでしょう」
と悪戯っぽく言って、慌てて湯船に入ってしまった。 彼は
 「チェッ! 親切に言ってあげたのに」
と言いながら、湯船の中でタオルの上から乳房を軽く触ると、彼女は拒否反応を示さず、目を閉じて静かにしていた。

 お風呂から上がり居間に戻ると、お爺さんは待ち草臥れていた様に
 「随分、長い湯だなぁ」
と呆れたように言うと、美代子が
 「お爺さん、さっき、大ちゃんとお風呂に入って彼の背中を洗ってあげたの?」
 「わたしが、洗ってあげたら垢が幾らでも出るので、思いきって軽石でこ擦ってあげたゎ」
と言うと、お爺さんは「そんな乱暴なことをして」と渋い顔をしたが、彼女は
 「アノネ 彼の腿や脛は勿論胸毛が濃く背中にも薄く毛があり、彼の先祖は熊襲かしら」
 「だけど、皮膚が厚く、鍛えられていて、とっても頼もしかったゎ」
と、聞かれもしないことを喋ると、キャサリンが
 「美代子ッ!貴女何を言うのよ。母さん目から火が出るくらい恥ずかしいわ」
 「貴女は、大学生にもなって、体ばかり大人になって脳は全然成長していないのネ」
 「人の体のことについて、余計なことを言うもんではないのよ」
 「これでは、大助君が居所を連絡しないのは無理もないゎ」
 「大助君が、貴女から逃げても、母さんは知りませんからネ」
と注意すると、彼女は舌をペロリと出して首を竦め、彼の顔をきまり悪そうに覗いた。
 お爺さんは、孫娘の率直な話に苦笑しながら、大助の平然としている顔つきに安心して、彼と冷えたビールを飲みながら、寅太達の様子を聞いていた。
 

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