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有名、無名に関心を持たないで、僕に音楽を教えてくれた人たちがいた。3人いた!そういえば。多分、皆、無名の(当時!?)、ミュジシャンだった。時系列順にすると、カワダ君、イビさん、みっちーという順だった思う。一様に、僕に彼らはこう言った。「そのままで、いいよ」・・・面倒臭かったのかもしれない。だけれども・・・。今回、長いです。
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何も考えていない学生だった頃、突然僕は、自分に課していた一切を放棄した。その次に何があるのか、何をするのか、全く考えないで、ある日突然、全てを放棄することだけを、決めた。とりあえず、大きなホールトマトの缶詰の空き缶に、吸い慣れない煙草の、今から思えば大分長い吸い殻を、ポイポイ捨てていた。そうして、何か空白の時間を持て余しつつ、楽しんでいるような振りをしていた。
ひょろ長い僕と似た背格好のカワダ君は、以前から見知っていたけど友達になれる雰囲気ではなかった。彼の持つ緩いアウトサイダーな雰囲気は都会的で、当時の僕らを取り巻く倦怠感の最前線な感じがして、僕には遠く及ばない感じがしていた。ぼんやりしている僕から見て、ともかくなんだかギザギザしていて、何処に触れていいのか、全く分からない感じだった。
ある日、カワダ君は玩具みたいなアコースティックギターを持って僕の部屋にあらわれた。良く知っているビートルズのナンバーを、3曲ぐらい弾いて、確か・・・台所に自分の分だけ炊いてあったご飯を何も言わずに勝手にラップに包み、帰って行った。特に、会話もなかった。山賊のような手際の良さだった。
その後、何日かして、僕はギターを買いに行った。何も考えていなかったので、特別と言えば特別だけれど変な、今思えば、誰も得をしない気が向いた時に持っているお金を持って行くというローンを組んで、自分の技量には見合わないそこそこ高級なひたすら甘い、可愛い音の出るギターを一生のトモダチとして手に入れた。僕の空白を埋める為だったというのは、明白だった。
何ヶ月か、カワダ君の持っていたボロボロのギタースコアをいちいち真似て、それなりの音を出していた。練習というものは皆無で、カワダ君と一緒に弾く時も良い悪いはなく、ひたすら違う音質(ギターが違うから)が重なるだけユニゾンだった。うろ覚えのどちらかのヴォーカルが時々合間に入ることもあったが、それも良い悪いではなかった。30分~5時間の間で飽きてしまったら、その後は映画の話をしていた、気がする。スリーフィンガーの人差し指の使い方だけを真面目に教えてくれた気がするけど、僕がそれをできるかできないかには興味がないようだった。それっきり、と、言えば、この話に関しては、それっきり。
その次は、東京だった。所謂、東京ではない、外れたところで。僕はイビさんとみっちーに、ほぼ同時期に出会った。イビさんはジャズシンガーで、JAZZ教室と飲み屋を経営していた。何となく気に入られて、よく呼ばれたりしていたけど、音楽の話は一切なかった。イビさんのスタジオで錚々たる楽器に囲まれながらも高いウィスキーをよく知らない人たちと乱暴に飲んでいた。イビさんは僕に高い酒を飲ませたいようだった。
偶にイビさんが、少しだけ弾くことがあった。JAZZを知らない僕は、何処から何処までが曲なのかも分からなかったけど、いつも太い指が柔らかい音を出していた。それは、ギターでもベースでも、ピアノでもパーカッションでも一緒だった。すっかり酔っ払うと僕は、その辺に隠れながら楽器をいじっていた、気がする。酔っ払いながらも、周りの関心が僕に向けられなくなる瞬間を狙い続けていた。
いつだか、珍しく素面の時に「ギターを教えてほしい!」と、結構真面目にお願いしたことがある。太い指が柔らかい音を出していて、エフェクターなんか見当たらなくて、いつの間にか曲は終わっていて、そんな人に教わりたい、と強烈に!思った。その時は、珍しく素面だったし。
「駄目だね!」と、あっさり、断られた。
怖かったから聞かなかったけど、「僕が、下手っぴだからだろう・・・」と、納得した。
同時期にみっちーという奴がいた。言い換えると、みっちーという奴が、・・・おった。みっちーは歳も近く友達とも言えたんだけど、友達ではなかった。彼はただの、ギター馬鹿だった。彼は渋谷の音楽学校でギターを習いながらバンドを組んでいる、所謂、トーキョーの若者だった。家が近かった僕は、大きなアンプがある彼のワンルームアパートを仕事が終わった深夜によく訪れていた。バンドメンバーも含め、時間の概念がない変な奴らが出入りしていたその部屋は、なんて言うか、僕にとって、憂さ晴らしになった。「どぉうせなら!!」と思い、そこに集う変な奴らにアルクホルを供給すべく、近くのレストランで残ったワインをその部屋に集結させる手筈を整えた。その辺の何軒かのレストランのグラスワインの残りを、タダで貰えるようにした。偶になけなしのお金を集めて「いつもお世話になっていますから・・・」と訪ねると、お店はお金を受け取らずお洒落なまかないを食わせてくれた。集めたそれぞれのなけなしのお金はそのまま僕の懐に入った。そういう界隈に、その部屋はあった。
だからいつでもそこにはアルクホルがあって、それもそこそこいいワインだったりして、それを目当てに変な奴らが集まっていた。何故だか皆酒に弱くて、直ぐにおかしな展開になった。名前も覚えていないけど、腕利きが揃っていた。皆、音を出したくてうずうずしていて、バンドもやってるんだけど、うずうずしていた。殆ど訳の分からない話をしながら、適当に飲んでいると、知らない間に誰かがシーケンサーを組んでいていつの間にか鳴っていて、それに合わせて適当なリフを誰かが作って、気付いた奴らが手近にある楽器を持って、だらだらと、なんとなく「いっせーのっせ!」で、やっていた。3分で終わる曲もあったし、2時間経っても終わる気配のない曲もあった。僕は、当然そんな中で端っこで忘れられている感じのアコギを持つことが多かった。
シーケンサーが作ったカッチリとした、なんでもないコードが延々と鳴っていて、何処からか煌めくような派手なソロが鳴っていて、わざとらしい変なはずした不協和音を出す奴が続いて、ブツブツとつぶやく奴がいて、僕は一番近くに居る奴にコードを教えてもらってから土嚢を積み上げては崩すようなリフを重ねた。強いダウンピッキングでしか、僕はそこに音を残せなかったから、乱暴に、乱暴に、すでに酔っ払っている振りをして、そこで弾き続けた。
ある日、僕は意を決して、そいつらに「ギターを教えてちょ!」と、お願いした。なんとかメタルを生業とする彼らはぼんやりと、顔を見合わせてから、「お前は、そのままで、いいよ」と、言った。「俺らはもう聴いている人を裏切ることでしか音楽を楽しめないから、教わらない方がいいよ、教わったら、どんどん詰まらなくなっちゃうよ」と、初めてみる醒めた顔で、腕利きは言っていた。周りの変な格好した連中もマンガみたいにうんうんと頷いていた。直ぐに下世話で下品な話がそこに被さった。
「僕は、いま、ここに居ます」。後篇へ、一行上から、続く・・・!
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