国産農産物の消費拡大などを目的に、国内で製造される全ての加工食品に産地表示を義務付ける案が、消費者庁などが設けた検討会でまとまった。最も重い原材料の産地1つを記すのが基本だが、産地が特定できない場合は「国産または輸入」などの例外表示を認めたことで、「消費者が誤認する」と消費者団体は反対している。JA全農食品品質表示管理・コンプライアンス部長の立石幸一氏と、全国消費者団体連絡会事務局長の河野康子氏に見解を聞いた。(平沢裕子)
■消費者が「国産」を選べる JA全農食品品質表示管理・コンプライアンス部長 立石幸一氏
--今回の案をどう評価する
「原産地表示はこれまで、加工度が低い魚の干物や緑茶飲料など22食品群とうなぎのかば焼きなど4品目にしか義務付けられていなかった。これをレトルト食品や菓子など全加工食品に拡大したことは評価できる。表示義務は原則として、製品に占める重量の割合が最も大きい原材料1つだけとされたが、実際には2位や3位のものも表示できるはず。1994年に表示を義務化した韓国でも、当初は重量2位までとし品目も絞っていたが、昨年からは重量3位までになり、品目もほぼすべてに拡大している。まず動き出すことが肝心だ」
--案では、実際の商品に国産が使われていなくても、過去の使用実績などから「輸入または国産」と表示できるとした例外も認められた
「消費者に誤認を与える表示だが、実行可能性のためにはやむを得ない。天候不順などで原料の仕入れ先や重量の順位が頻繁に変わるケースもあり、例外的な表示が必要な商品もあるからだ。ただ、例外表示があるからといって、義務化に意味がないわけではない。例えば、国内で製造される果汁飲料の多くに輸入原料が使われているが、今は表示義務がないので、多くの消費者は国産原料を使っていると誤解している。しかし、『国産または輸入』という表示があれば、消費者は『輸入って何?』と考え、どこの国の原料か問い合わせができる。このことの影響は大きい。今は国産に見せかけた商品が多いが、そのことに消費者が気付けない状況だ。生産者やメーカーにとって義務化のメリットはそれほどないかもしれないが、海外産の原料を使っていることを消費者に知らしめることが大事だ」
--表示があるからといって、消費者が国産の農産物を選ぶとは限らない
「環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)によって、海外から安い農産物や食品がどんどん入ってくることが見込まれる。安い輸入品が増えれば、国内農産物の価格も下落し、競争力のない生産者は農業を続けられなくなる。表示の厳格化によって、国産を応援したいと考える消費者が国産原料のものを手に取りやすくなる。こうした行動による農業への波及効果は大きく、価格下落の一定の歯止めになる。生鮮品に続いて加工食品にも義務化を適用しないと、日本の農業は壊滅的になる。それを避けるためには、国産を選んでくれる人に支えてもらう仕組みがいる。生産者を守るために、義務化は必要だ」
--商品選択に役立つと思うか
「国産を応援したい消費者にとっては役立つはずだ。消費者は情報の透明性を求めている。とにかく一歩進めることが大事だ」
〈たていし・こういち〉 昭和32年、大阪府生まれ。59歳。京都府立大農学部卒。56年にJA全農入会、主に野菜果物の直接販売事業に従事する。平成21年から27年まで内閣府消費者委員会食品表示部会委員。22年から現職。
■あいまいで役に立たない 全国消費者団体連絡会事務局長 河野康子氏
--今回の案を評価するか
「表示義務の加工食品が今より拡大することには賛成だ。ただし、私たちは『できる限りの拡大』は求めていたが、『全て』の義務化は難しいと考えている。そもそも検討会が設置された1月には、対象となる加工食品は全てではなかった。ところが、TPPの議論が具体化した3月、自民党で全てとする方向性が決められた。表示によって消費者が国産農産物を使った食品を選ぶことは、農家の支援にもつながると判断したからだ。ただ、案では仕入れ先が複数国あったり、頻繁に変更されたりするケースでは、『国産または輸入』などあいまいな表示も認められた。事業者の負担を配慮したためだが、実際に表示を活用する消費者には意味のない内容となってしまった」
--「表示がないよりまし」との声もある
「表示で大事なことは、正確さと分かりやすさ。『国産または輸入』の表示が何の役に立つのか。消費者庁は『表示理解のために消費者教育が必要』というが、消費者が勉強しないと意味が理解できない表示はおかしい」
--国産を選びたい消費者には役立つのでは
「原材料欄に『国産』と表示することで、消費者が国産の加工食品を選び、日本の生産者を支援することができるなら異論はない。しかし、そんなに単純な話ではない。現状の表示ですら、字が小さくて知りたい情報がどこに書いてあるか分からないという消費者は多い。さらに小さくなるであろう『国産』の文字を消費者が探して商品を選ぶだろうか。今回の案で消費者が国産農産物を使った商品を選べるとは思えない」
--義務化によって国産への切り替えが進めば、消費者が国産を手に取りやすくなる
「そういう方向へ進むことは望ましいと思う。ただ、日本の食料自給率は4割で、輸入が6割だ。これは、国産があるのに買ってもらえないのではなく、国産でまかなえないので、日本人の嗜好に合った農産物を海外で探してきた結果だ。そば粉やうどん用の小麦粉など、国産に切り替えたくてもできない原材料は多い」
--TPP対策の面もある
「がんばっている国内の生産者を応援するのに、表示の義務化は必ずしも必要ない。国産にはものすごいブランド価値がある。そのブランド力を生かし、消費者に直接届けるようなルールを作ってはどうか。例えば、桜の花びらを国産マークとし、国産が100%なら花びら全部がピンク、20%なら1枚だけピンクにするというように。『国産または輸入』などの分かりにくい表示が横行すれば、消費者は表示を信用しなくなるだけだ」
〈こうの・やすこ〉昭和32年、山梨県生まれ。59歳。山梨大教育学部卒。中学教諭を経て、茨城県内の生活協同組合のリーダーとして活躍。農林水産省や国土交通省など複数の審議会委員を務める。平成24年から現職。
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