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The Sword 第六話 (1)

2010-06-01 23:16:13 | The Sword(長編小説)
「はじめ!!」
次の日、ついに一道と港との再戦が行われる事になっていた。この試合に一道が負けるような事になれば学校内で竹刀を握れなくなる。重大な事を決するために、港は大々的に宣伝してギャラリーを集めていた。見ている人間が多ければ、約束を守らないわけにはいかなくなるという事を見越しての事だった。そして、その戦いの火蓋が今、切って落とされたのであった。
「小手ぇぇぇぇぇぇ!!」
試合開始直後、港が一道に迫る。しかし、一道は逆に反撃をするような状態であった。港もそれを想定したようですぐに切り返そうとしていた。
『バカが!俺が同じ手を2度使うと思ったか!俺はそのもう一つ上を行く!』
「どぉぉぉぉぉぉぉ!」
そのまま港は面を取ろうとした所で一道の竹刀は胴が完全に入っていた。
「何だと!?」
「一本!勝負あり!」
「なっ!?」
認めたくなかった港であったが既に、勝負を決した一道は蹲踞の態勢を取っていた。体がそのように覚えているのだろう。今回は1本勝負という事ではなく、正規の形式として二本先取したほうが勝ちである。次の、開始まで待つ事になるのだが、港は完全に動揺してしまった。
『何だ?前回のヤツとはまるで違う。スピードも技量も・・・1週間の間に格段に実力を上げている!!どういう事なんだ?まるで別人じゃないか!?』
港はさっきまで、目の前で猫じゃらしにじゃれている猫のように思っていた一道が今では獅子のように大きく、恐ろしいもののように思えた。
『!?いや、待て。落ち着け!落ち着くんだ!冷静さを欠いたら負ける。今のはただのマグレだ。たまたま胴と言って胴に入っただけだ。そうに決まっている。そうに!』
そのような事は滅多にあるわけではない。しかし、港は自分自身の冷静さを取り戻すために、あえてそのように自分に言い聞かせていたが落ち着きを取り戻せなかった。
「何だよ。港の奴。アイツには竹刀を持たせる訳にはいかない!とかってデカイ事を言っていたのに、弱いじゃん。いきなり1本取られてやんの」

「口の練習だけしてきて、肝心の腕の練習はしてこなかったんじゃないのか?」
そんな声がギャラリーの中からもれてくる。港が全てを聞こえているわけではないが、ざわついていると分かったから、港の動揺を更に高めた。ギャラリーが何か喋っているのが何もかも自分に対して悪く言っているように思えてしまう。
「お前ら、バカだな~。今回は1本勝負ではなく折角、3本勝負にしているのには訳があるんだよ。1本目は敢えて負けて、それから一気に逆転劇に転じる。それが、港さんの狙いだよ。でなければ、こんなに沢山の人を呼ぶわけねぇよ」
「なるほどな!港の奴、考えたな」
「そんな演出っぽい事を出来るのかぁ?それで負けたら本当のアホだぜ」
「それだけの実力と自信を持っているって事だろ?それに、武田って奴は施設にいる奴らしいぜ。すげぇコンプレックスの持ち主だろうから、だから最近、騒ぎを起こして世間の、注目を浴びたいっていうだけの事だろ?」
「それで、港に目をつけられたって訳か?自業自得だな」
港の友人が気を利かせて言ってくれたおかげでギャラリーは港のほうに傾いていった。そのおかげで、少しだけ、冷静さを取り戻していった。
『そうさ。俺にはアイツを潰さなければならない理由がある。お灸を据えてやらないといけないんだ。でないと、奴は増長する一途だからな。俺がやってやるのさ!』
港は妙な使命感に燃えてきて、再び、一道に対峙する。今、見ているときは、猛獣であるが倒すべき対象である。恐れはなかった。
「はじめ!」
今度は、開始してから少しにらみ合いをしてから一道が向かってきた。鍔迫り合いを数秒、行う。
『よく見ると鋭い視線だな・・・だが、お前は俺に負ける!!』
今までは、すぐに勝負を決していたので気付かなかった事であった。面の格子から覗く一道の視線はなかなか強烈なものであった。鍔迫り合いを離して攻撃を行った。
「めぇぇぇん!」
今度は、港が仕掛けた時であった。
「めぇぇん!」
一道も仕掛けた。殆ど同時に攻撃を終えた。
「やめ!」
そう言って、判定の旗が上がる。赤が上がる。それは一道の勝利であった。鍔迫り合いの直後、引く瞬間に港が仕掛けたのだが、紙一重の所で一道に竹刀は当たっていなかった。その次の瞬間に、一道の竹刀が、面を決めていたのだ。お互い蹲踞の態勢を取る。港は体に染み付いていたので自然とそのように体勢を取っていたが意識は完全に飛んでいた。
『何故だ?何故負けた?俺が・・・負けた?負けたぁ?』
港は愕然として、試合が終了してそこから動けなくなっていた。
「あれ?港、負けちゃったよ。おいおい。演出だったんじゃなかったのか?」
「余裕ぶっこいていたから負けたんじゃねぇの?ハハハ!」
ギャラリーは一気に、港に白い目を向けていた。さっきまで港をフォローしていた者達はあまりの予想外の出来事に完全に動揺していた。
「おい!港、どうした?」
「!?あ・・・ああ・・・」
忠志に肩を叩かれてようやく、我に返り、面を外した。すると、周りに港と普段からつるんでいた友人達が数名集まった。
「どうしたんだよ!港!」
「どうするんだよ!港!」
港の親しい者達は港を取り囲んでいたが、港は竹刀を振り回して追っ払った。
「うるさい!うるさい!黙れ!黙れ!黙れぇ!認めたくないが俺は負けたんだ!」
面を外して、歩き出した一道、港は一道の行く手をさえぎって正座にした。
「お!土下座して再戦を願うつもりか?今のは練習だったから今度は本番って事か?」
そんなギャラリーの冗談に構う事なく、港は言った。
「約束は約束だ!俺も男だからな!この俺に対して何でも好きにいいやがれ!お前は竹刀を持つなと言われれば今後絶対に触る事さえしないし、裸で校庭一周だというのならやってみせる!早く言いやがれ!」
静かに、一道は港を見下ろす一道。
「ないよ。そんな事」
「な、何!俺をコケにしているのか?100万持って来いというのなら何としても持ってきてやる!ここでウンコをしろというのなら出すと言っているんだ!俺は男だ!竹刀を持っていた以上、自分自身の事を侍だと思っているんだ!そのけじめをつけさせろ!」
「だから、ないと言ったんだ。君が勝手に俺が勝ったら学校内で竹刀を持つなと言ってきただけなんだからね。俺の方はやって欲しい事など何も無かった」
『俺は始めから眼中に無かったのかよ・・・』
テレビでやるような罰ゲームではない。これは、一道が港に与えた決定的な屈辱であった。これは罰ゲームを実行する事よりも重く厳しい事であった。
「くそ!くそ!くそ!くそぉぉぉぉ!!」
床をたたく港に対しそのまま一道は立ち去った。
「すげぇ・・・一道って奴、カッコ良すぎないか?」
「えぇ~?お前こんなのが好きなのかよ?臭過ぎて見てられねぇよ」
「そうだそうだ。俺は港が全裸で校庭を走る所を是非とも見たかったのによ・・・何なんだよ。あれ。ドラマか映画の見すぎだぜ」
しかめっ面をして鼻をつまんで手をひらひらと動かす。確かに一道の行動はやりすぎという風にも見えた。
「一方の負けた港って奴は立派だよな。自ら罰ゲームを受けていく姿勢。あ~いうのが武士道って奴なんだろうな?」
そのような意見も出てくる。決して、港に対して悪い事ばかりではない。
「全てが茶番だよ。茶番。ああ~見ていて損したぜ。こんな事をやっているんなら剣道部全員で演劇部に入れってんだ」
ギャラリーは各々の考えを口にしながら散り散りになっていった。
『この短期間で、港をこうもアッサリと倒すとは・・・以前、戦ったのが手加減していた事を考慮したってこれはおかしい話だ。武田 一道。お前は一体、何をやっているんだ?』
忠志は、一道の後姿を見て、考えをめぐらすのであった。

和子に関しては頭が痛かったが慶が和子と話したと言う事実は気になって仕方なかった。
「何を話したって言うんだ?」
「予想の範囲内だよ。あの剣みたいな物は一体何なのかっていう事と、俺やあの犬や刑事の事も聞いてきた。後、お前の事も聞いてきたぞ」
「当然だな・・・それで何と答えたんだ?」
聞かれても不思議ではない事ではあったがこうして言われると、恐ろしくも感じる。そして、慶の答え方も気になった。
「剣については、普通の人には見えない能力で犬や刑事の事は俺も良く知らないと言った。お前については、同じ施設で育った友人で、カッとなると我を忘れるところがあって何をしでかすか分からないとだけ言っておいた」
「そうか・・・彼女は事件の事は何か言っていたか?俺の事を聞いているときの彼女の印象はどうだったんだ?後は、彼女は俺に対して伝えたい事はあったか?」
一道は目の色を変えて聞いてきたので慶は呆れ顔になっていた。
「そんなに気になるのならお前自身が聞きに行けよ」
「それが出来るなら!」
それから続けて言おうとしたが一道はハッとしてから落ち着いた。
「そうだな・・・お前ばかりに任せている訳にもいかないからな」
一道は考えをめぐらせているようで軽く頷いていた。
「事件についてはまるで触れてこなかった。お前の事を聞いている帯野は真剣そのものって感じだったな。それで、お前に対しては何もない。どうして武田について聞くのかって尋ねたら、刑事の時に茂みから急に現れたから頭がおかしい人なんじゃないかって思ったって言っていた」
こそこそ尾行していれば誰だってそのような感想をするだろう。
「そうか・・・」
「後、お節介だろうが話を自然にする為に、こう聞いておいた。『武田の事が気になるのなら声をかけてやろうか』って言ってやったが『遠慮しておく』って即答された」
一道は目を瞑る。そのまま沈黙するのも良くないと思ったから一道は口を開いた。
「それにしても俺は我を忘れて何をしでかすか分からないか?」
「貧乏人」
「ウッ・・・」
同じ施設にいる慶に言われても何とも思わないが、これが別人ならば間違いなくキレている事だろう。
「ともかく、ありがとうな」
「気にすんなって・・・でもよ。もしかしたら今度はお前の所に行くかもしれないぞ」
「俺の所に?」
「ああ。何となくな。あの子、なかなか積極なんだもんよ。俺に廊下を歩いていた俺に話があるなんて呼び出してきたんだからよ。ひょっとしたら告白して来るんじゃねぇかって思ったよ。な、訳ねぇけどな。だから次には直接お前のところって考えられないか?」
「わ、分からん。俺は彼女の事を殆ど知らない」
「大丈夫か?いちどー」
一道は一点を見つめ、汗を少しかいていた。
「ああ・・・だが、それが一番怖い」
一道の本音であった。いつも弱い所を見せない一道の弱音。それを言うのは慶ぐらいだろう。だからこそ、慶は少し優しい顔をした。
「だろうな・・・こればかりは俺には何も出来ないぜ。お前自身が解決してくれ」
「ああ・・・だが、どういう対応をしたらいいものなんだろうかな・・・」
「いつも通りで行けよ。冗談や嘘で塗り固めてもお前は不器用だから間違いなくバレる」
「だろうな・・・」
目の前には、金田という強敵がいるというのに、それとは全く関係ない所で大問題が発生している。頭の痛い所であった。

と、ここで話は前後するが、ゴールデンウィーク前の話をさせていただく。金田の行方である。5人に連れられ、とある部屋の一室に招かれた。こざっぱりとした小部屋で装飾はなかった。中央にテーブルを挟んでソファがあり、周りには棚があった。事務的な応接室と言った印象だった。気分が悪かったので客用のソファにドッカリと全身を沈めていた。体が重くて動かなかった。5人は一旦出て待っていろというからそこで待った。首を動かして窓の外をぼーっと見ていた。
『人が来る』
遠くから足音がゆっくりと聞こえる。複数の人間であると分かった。ソウルドによる怪我をしており、体は不自由であるが、剣を出して臨戦態勢に入った。体を動かすと同時に痛みが走るが構っていられない。
『来るなら来い。以前から何人もやってきてから、その報いが今、俺に下ったって所なんだろうな・・・だが、ただでは死ねねぇ・・・』
自嘲しながらもそれでも、今までやってきた事に後悔はなかった。気合を入れる。
『さて?どうなる・・・』
扉が開き、1人の中年のスーツ男とその後ろに先ほどの5人が歩いて来た。全員、神妙な面持ちである。
「こんにちは。体のお加減は宜しいでしょうか?」
「・・・」
一人の男が話し始めたが金田は何も答えずそのままの態勢で鋭い視線を5人に送る。
「どうか、座ってください。立ったままが落ち着くというのであればそのままで結構です」
先頭のスーツ姿の男は椅子に腰をかけた。
「あながた気が利きませんね~。大事なお客様なんですからコーヒーぐらい用意してくださいよ」
「あ、すいません」
後ろの中の若い長身の男が部屋から出て行った。
「すいません。お見苦しいところを・・・」
「・・・」
金田は警戒を解かずそのままソウルドを構えていた。
「誠にすいませんでした!」
「すいませんでした!!」
スーツ姿の男が頭を下げ、その次に残った4人も頭を下げた。3人の少年達ともう1人の金田にソウルドを突きつけた年齢不詳の男もだ。それが暫く続いた。
「頭を上げてください。見え透いた情でこちらを油断させようとしないで下さい」
そういわれてゆっくりと頭を上げるスーツの男。4人も頭を上げる。若い3人は気に入らない顔をしていた。年齢不詳男は不気味な微笑を湛えるだけであった。
「そうですね。おっしゃるとおりです。こちらがあなたにした無礼を考えればこんな事で許される訳はありませんよね」
「失礼します」
途中で先ほどの若い男がコーヒーを淹れてきた。カップの脇にコーヒーミルクとガムシロップをつけていた。スーツの男は口にするが金田はそんなコーヒーなど目にすることなくソウルドを出したまま5人をゆっくりと見ていた。
「あなたはそのままで結構です。話だけ聞いてください。紹介が遅れましたね。私も気がつかずすいませんでした。私は魂学(たましいがく)というものを世界に確立しようとしている心理学者の色城 瞬(しきしろ しゅん)です。以後、よろしくお願いします」
色城は名刺を提示するが構えたまま金田は受け取ろうとしないので前のテーブルの上に置いた。
「我々はあなたの今、お出しになっているそのソウルド。素晴らしいものですね。そこまで出せるようになるまでご苦労さなった事でしょう」
「ソウルド?」
金田は鸚鵡返しに聞くと、冷静に色城は答えた。
「魂であるsoulと剣であるswordの合わせた造語ですが、我々はその研究をしているのです。この技術は世界に革命を起こす事が出来るものだと私は確信しています」
「ソードを利用する?」
体の痛みで顔をゆがませるが剣を引っ込める事はしない。
「はい。失礼かもしれませんがあなたはこのソウルドを斬ることだけにしか使っていなかったようにお見受けします」
「それ以外にどんな使い道なんてあるというのですか!」
怒気を含んでいた。このソウルドを道具か何かと思っているように見えたからだ。
今まで、ソウルドを扱って来た金田には許せない発言であった。見えないソウルドを使って犯罪を行う卑劣な輩を倒す為に使ってきたソウルド。その斬った時に感じられるその人の魂はあまりに強烈で壮絶である。それを軽々しく扱おうという考え方に怒りを覚えたのだ。
「!」
ソウルドを色城に向けたので、4人の少年達が一斉にソウルドを出して身構えた。金田は4人と言うソウルドの使い手が集まるなどと始めてみる光景であった。そんな者達を集めているという事でとんでもない集団という事を理解した。
しかし、今はそんな事を気にしている場合ではなかった。この状況で色城という男を斬る事が出来たとしても傷だらけの金田では、4人の攻撃を一斉に受けてしまう事だろう。年齢不詳は話を聞いているだけで不気味さが際立っていた。
「4人とも、剣をしまってください。こちらの立場が分からないのですか?」
「ですが・・・」
「聞こえなかったのか?」
スーツ姿の男が4人を一瞥すると4人は素直に色城のいう事に応じてソウルドをしまった。しかし、金田はソウルドを出したままである。斬ろうと思えばいつでも斬る事が出来るというのに、色城は全く動じていない。肝が据わっているというよりは斬られる事はないと確信しているようである。それが気がかりであった。
「アンタにはこいつの気持ち悪さが分からないのか!これで人を斬った時の頭に炸裂する魂の爆弾!それを利用するだと!馬鹿にしているのか!」
「反発したくなるお気持ちは分かります。そのままの体勢で構いませんから聞いてください」
「・・・」
「あなたは既に何人かのソウルドの使い手を殺害していたそうですね」
「!?」
何故その事を知っているのか、金田は一瞬、驚いた。年齢不詳の男とソウルドを合わせた事はない。話してもいないのだから知っているわけはありえなかった。
「こちらもソウルドについて、色々と調べていますから・・・」
スーツ男はしたり顔である。油断なら無いと一層、金田を冷静にさせた。
「本来、日本の裁判では4人殺せばほぼ確実に死刑が下ります。何故なら自分には1つしかない命を4つ以上も殺す。それは計算に合いません。そして、また別の考え方も出来ます。こんな言葉がある事をご存知ですか?一罰百戒。1人を罰する事で100人の戒めとする。罪の究極の形が死刑であり、自分が死ぬのが嫌だからこそ、人殺しをしない。それが執行されているのにもかかわらず死刑になる人間は減りません。寧ろ増えています。考え方によっては自ら死刑になりたいというようにも思えます。何故でしょうね?」
「一体、何が言いたい?」
回りくどい色城の言い回しが気に入らなかった。
「死刑になる人間。いえ、罪を犯すような人間には魂の固有のパターンがあるのではないかと私は考えたのです。もし、人の魂を解析し、人に犯罪を起こすような魂のパターンを発見する事が出来たら、発見次第それを矯正する事によって人が罪を犯す事はなくなります。素晴らしい事だと思いませんか?人を傷つけない世界。これを全世界に広めれば人間は間違った道を進む事なく全うな人生を歩む事が出来ます。これはとても優しい人間だと思いませんか?」
優しいなんて言葉はこのスーツ姿の男からは不似合いであったが、何となく気になるフレーズであった。
『魂を解析するだと?そんな事が本当に可能なのか?』
「あなたは既に何人以上も人を手にかけている。これが普通の殺人と見なされればあなたは間違いなく凶悪な殺人犯として死刑が下るでしょう。ですが、勿体無い話だと思いませんか?先ほども言ったように人殺しをした人間には魂だけに限らず人殺しを行った人間しか持たない固有の精神的パターンがあるかもしれないというようにそれをみすみす首吊りという形で自ら手放してしまうなどと・・・折角の未知なる素材を危険かもしれないと言ってゴミにするに等しい行為だと思います。そんな事を続けていても犯罪はなくならないのは当然として何の進歩にもなりません。もし、その心の異常を早期に発見し適切に処置を施す事が出来れば犯罪がなくなる。いえ、ちょっとニュアンスが違いますね。人が間違った選択をする事が無くなるのですからね。それによって怒る人も悲しむ人もいなくなる。本人だってそれは望ましい事でしょう。みんな幸せに生きる。その夢の実現の為、私はあなたを知りたいのです」
色城はスッと前に乗り出して下から金田を覗き込んだ。
「俺を知りたい?」
「公に認められていないソウルドを悪用する人達は警察やその他の組織などからも決してとがめられる事はない。あなたは刑事です。しかも人一倍正義感が強いんでしょう?そんな野放しとなっているソウルドを悪用している人を許せず、自ら赴き、制裁を加えているほどですからね。ですが、一方で罪悪感もあるのではないのですか?そんな人達を・・・極悪人に斬って来たにしても、あなたがやっている事はそのソウルドを使った結局は殺人です。極悪人と五十歩百歩と思えます。その己の行為の矛盾を抱えながら生きる。過酷な人生だと思えます」
「!?」
「先ほど、あなたは爆弾とおっしゃいましたね。道具には罪はありません。道具は人を豊かにするために生まれるものです。爆弾は掘削作業やビルの解体作業などに使えます。ですが問題なのは人間の邪な感情です。力や権力を得たいが為に爆弾を兵器として扱った。だから数え切れないほどの人が悲しみや憎しみに身を晒す結果になった・・・それが本当の人間だとしたら辛すぎると思いませんか?悲しみを生むのが人間だなんて・・・」
「・・・」
「私は人間が賢い生き物だと信じています。今までは多くの歴史から何も学ばず無数の悲劇を繰り返し続けてきたそんな愚かな生き物ですが!ここで遂に・・・遂に終止符を打つのです!人類が始まって約3万年!醜い姿を晒して来た人間が!!あなたがここで、我々に協力すれば!!美しい蝶に生まれ変われるかもしれないのです!!」
ぐんぐんと迫る色城に自ずと身を引いてしまう金田であった。
「その邪な心を消し去り、全世界の人間が争う事さえしない絶対平和世界を作り出す事が出来るかも知れない。今までの人生が成しえなかった世界。これをあなたは夢のままにしてしまっていいのですか?このまま人類を好きにさせておいては破滅へと向かってしまいます。あなたも体験したくはありませんか?絶対平和世界を・・・」
絶対平和世界。物凄く心地いい響きだと金田は思った。
「この5人の他にも協力者は大勢います。その世界を実現するために、あなたに対して行きすぎた行動を取ってしまったわけです。あまりも大きな事ですから張り切りすぎてしまったのでしょう。本当にすいませんでした」
「あ、ああ・・・」
「協力しろとは言いません。もし断ったとしてもあなたに対して今後、危害を加える事は一切ありません。それはあなたの選んだ道ですからね。ただ、私が今、話した事を口外しなければいいだけです。また来ます。いい返事を期待していますよ。皆さん、これ以上長話をすると金田さんに多大な負担をかけてしまいます。暫く考えて答えを出してください。1週間、いえ、1ヶ月にしましょう。その期間でゆっくり考えてください」
色城という男は言いたい事だけ言って去っていった。5人はその後をくっつくようにして歩いていった。
『絶対平和世界・・・その為に、俺を捧げる?今までの贖罪をしなければならない時なのかもしれんな・・・』
ボンヤリと考えながら、夢を考える金田。
『こんな風に、これからをじっくり考える事は今までなかったな。今まではただ、ひたすら、ソード使いという悪しき存在を見つけて倒す事しか考えていなかった。それが正義だと思っていた。いや、それが正義だと思いたいだけだと自分でも薄々分かっていながら人を斬り続けてきた・・・そうする事で日本が平和になると信じて・・・だが、それもまた悪だったのかもしれない・・・』
ただ、我武者羅にソウルド使いを追い続け、戦ってきた日々を思い出していた。ベッドに横なりながらそのような生活を思い出し、今後に活かそうと思っていた。
『俺を捧げられる場所か・・・』
金田にとって刑事という期間は、一人孤独に、全国の不可解な未解決事件を追っているだけであった。だからこそ、変わり者と周囲から呼ばれたし、日本を転々としていたので他人と交流がある事もなかった。そんな孤独な日々が何年も続いた。しかし、今は、この力を認知してくれ、自分を必要としてくれる人がいる。嬉しかったのだ。金田は手で顔を覆い大粒の涙を流した。


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