Takekida's log

千里の道も一歩から

ピカソとゲルニカ

2008-03-01 18:12:48 | Books
ゲルニカ ピカソが描いた不安と予感 (光文社新書)
宮下 誠
光文社

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ピカソの絵'(おそらく泣く女)を見た時は衝撃でした。(幼いころの話だけども)絵というのは写実的で現物の風景をまねして書くものという風に教えられていた年代であったからだと思います。(ピカソも生涯、キュビズムであったわけではなく一般的画法の作品も多く残していますが)

ゲルニカはナチスドイツ軍に無差別攻撃を受けたスペインの小都市の名前であり、ピカソの書いた絵も戦争の惨禍を伝えるメッセージが託されています。

ゲルニカはピカソの中で代表的な作品のひとつでありながら異質な点があるといいます。
1.書かれた動機
  ピカソはもともと人に依頼されて絵を描くということは無かったがこの絵はパリの万博博覧会のために書かれた。タイトルを自分でつけたというのも珍しい
 
2. 様式
 歴史画であること、キュビズム(有名な3次元を2次元チックに表現する形式)、新古典主義(キュビズムから普通の3次元技法に戻った時期)、シュルレアリスム(現実の世界に人間の無意識を導入して具象世界を形成した時代)、モダニズム(過激な抽象表現、幾何学的な抽象技術の創造を行った時期)等のいずれの様式にもあてはまらない独自性がある。(作品そのものはシュルレアリスムの時代に画かれている)

そんな「異質な」ゲルニカに注目してその製作過程、美術史的考察、作品の意味を問うイコロジー的な考察を行った本です。
自分は美術とは縁の無い人間だったのですがそんな自分にとってもすんなりと入っていける本でした。

別段の話ですが絵の始まりというのは身近な欲望の対象を残すことから始まったとのことです。(戦場に行く戦士の影を妻がなぞったり、洞窟の中に獲物の絵を書いたり)だからこそ基本的には本物そっくりに価値があります。
中世になると宗教画が主流になり、観念:いつの日か手に入れたいと望むようなもの)を描くようになるので遠近法が鳴りを潜めます。
ルネサンスになり人間が中心にすえられるようになると(ヒューマニズム)再び遠近法が主流となり古代の価値観に戻るようになります。
その流れが変わったのが19世紀の後半で文明は人間を必ずしも幸せにしない、人間は世界の中心になりえないという閉塞感、目に見えないものに価値があるという概念が絵画も異なる方向に向かわせたとのことです。

そういう背景から言っても1937年に画かれたゲルニカには見るものに対して多義性、無次元性、無時間性があり戦争画として書かれたということを考えてもやはり異質かなと感じます。 
 
めったに美術館に行くこともありませんが背景を持って絵を見るとこれほど楽しい事は無いのかもしれません。
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