白石勇一の囲碁日記

囲碁棋士白石勇一です。
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天頂の囲碁7 Zen

2017年10月22日 22時47分55秒 | AI囲碁全般
皆様こんばんは。
最近は雨ばかりで移動が大変ですね。
ですが、幸いにも火曜日の東京は晴れ予報となっています。
皆様、ぜひ有楽町囲碁センターの指導碁にお越しください!(笑)

ところで、最近は井山七冠誕生、AlphaGoZeroの登場と特大のニュースが次々と生まれていますね。
しかし、いま一つ盛り上がりに欠けるのは、やはり選挙とかぶってしまった影響でしょうか・・・。
もっとも、タイミングが悪かったとは言え、囲碁界に目を向ける人が増えることは間違いありません。
囲碁ファンを増やす貴重な機会を大事にしたいですね。

もちろん政治も大事ですから、私も期日前に投票に行っておきました。
今年は政治の世界でも特大のニュースがありましたが、果たして結果はどう出るでしょうか?


さて、本日は来月発売予定のパソコンソフト、天頂の囲碁7 Zenをご紹介したいと思います。
ちなみに、特設ページには私もコメントを出しています。

今回は検討機能に注目してみましょう。
Zenとの対局棋譜だけでなく、どんな棋譜や局面図でも検討機能を使うことができます。
今回は私が先日打った碁を一手一手入力しながら、Zenがどう評価するか眺めてみました。



1図(実戦)
局面は白〇と打ったところですが、次の黒の候補手が右下にリストアップされています。
環境によってはかなり見づらいと思うので、文字に起こしますと・・・。

候補手 探索回数  評価値
R5  20764 47
Q5  3255  47
P4  1896  47
K4  944   46
L4  398   47

このようになります。
例えば、R5の手に関しては20764回シミュレーションを行って、評価値47になったということが読み取れます。
画像では見づらいので、私が青印を書き加えて位置を示していますが、実際にはここが光って表示されています。
探索回数と評価値からして、これがZen推奨の手ということになりますね。
なお、時間をかければ探索回数は増えて行きますが、その結果推奨の手が変わることはよくあります。

Zenは盤面の配置を画像のように認識して、瞬時に候補手を示します。
私たち人間の棋士は、盤面を見た瞬間に良さそうな場所が勘でいくつか浮かびますが、それと似ていますね。

注目すべきは、Zenが青印の手を本命としている点です。
他の候補手は赤印で示していますが、それらは棋士にとって自然に見える手で、何十年も前から打たれています。
しかし、近年になって若い棋士が青印の手を打ち出しました。
これはほとんどの棋士にとって違和感のある手ですが、後の進行を想定すると独自の価値も認められるので賛否両論でした。
しかし、Zenはこの手を真っ先に示し、多くの探索回数を重ねています。
棋士にとっては違和感があっても、Zenにとってはこれが自然な手に見えているのです。
手自体の善悪の差はほとんど無いと思われるので、これは着手に感情が影響するかどうかの違いと言えるかもしれません。





2図(実戦)
実戦は黒は挟みを選択、白は右下に侵入しました。
次は黒番ですが、棋士にとって自然な手は青印です。
他の手はひどい手ではないにしろ違和感があります。
ここはZenにとっても同じようでした。
R5のツケが評価値では善戦しているものの、探索回数からしてほぼ選ぶ気はないことが分かります。





3図(実戦)
より極端な場面です。
白〇と当てたところですが、黒はどう見ても青印につなぐ一手です。
他の手は14~19と急激に評価値が下がっており、探索回数も極端に少ないですが、これはZenが論外と言っているに等しいです(笑)。

ただ、いくら正解が分かりきっているような状況でも、Zenは他の候補手も出さなければいけません。
特に左上方面の丸印(G13)に注目してください。
戦いと全く関係ない方面であり、しかも変な位置です。
意味が分かりませんね。
数合わせに入れておいたような手であり、Zenの困惑を感じます(笑)。





4図(実戦)
ちょっと見づらい図になってしまいましたが・・・。
白〇と抜いた場面、次の黒の候補手が示されています。
青印に打って白2子を当たりにする手は、石の形として自然です。
この感覚は全ての棋士に共通しているでしょう。

Zenもそれは同じようで、青印の手を本命としています。
他にも評価値のそこそこ高い手があるにも関わらず、探索回数は圧倒的です。
「形からしてここに打つしかないだろう」と言っているかのようです。

しかし、実際に相手が打った手は、候補手に無い緑印の手でした。
死活の関係などもあり、そちらの方がより良いとみたのです。
私もそう打たれると思っていました。

棋士は基本的には形を重視していますが、部分戦だと読みの方を重視する傾向があります。
幽玄の間を見ていても、DeepZenGoが読みを打ち切ってしまう図でも、棋士はその先を読んでいて、そこでポイントを挙げることがしばしばあります。

Zenは棋士以上に石の形にこだわりを持って打っているかのようです。
棋士よりも人間的な面があるようで、面白いですね。





5図(実戦)
右上黒〇と押さえられた場面です。
右上白に手を入れないと死んでしまいますが、私はここで20分ほど悩みました。
構わず左辺を大きく広げる手も魅力的です。
また、今すぐ打つ気はありませんでしたが、右下のコスミも黒からの狙いを封じて大きな手です。
これらが全て候補に挙がっているあたりからも、Zenのレベルの高さが分かります。
Q19という2目損になる生き方が候補に挙がっているのは少し気になりますが、まあ実際には打ちそうもありませんね。

問題は、Zenが青印のノゾキを候補手に挙げていることです。
このノゾキ、確かに石の形であり、有効な手になる可能性は高いでしょう。
しかし、私はぎりぎりまで打ちたくなかったのです。
打ってしまうことでマイナスになる面もあるので、タイミングを計っていました。
実際、この碁はノゾキのタイミングを巡っての駆け引きが勝負所になるのです。

しかし、そんなことも知らず、Zenはことあるごとにこのノゾキを早く打てと催促して来ます。
なんと無神経な!と怒りたくなります(笑)。

Zenは利かしの手を早く打つ傾向があります。
これも形を重視するがゆえでしょうか?

ちなみに、私が打った手は評価値の低い右上白を生きる手でした。
ですが、Zenの評価が低くても選択を後悔することはありません。
今でも私の手の方が勝ちやすいと思っています。

AIに支配されるようでは、棋士の存在意義を問われます。
良き相談相手として活用するのが正しい道でしょう。
皆様もZenを上手く活用してください。