白石勇一の囲碁日記

囲碁棋士白石勇一です。
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Master対棋士 第52局

2017年07月29日 20時47分38秒 | Master対棋士シリーズ(完結)
皆様こんばんは。
井山裕太六冠が名人挑戦を決めましたね。
高尾紳路名人に七冠独占を崩されて以降、1年間他のタイトルを守り切り、とうとう名人位を取り戻しに来ました。
リーグ序盤から隙の無い勝ちっぷりを見せ付けていたので、高尾名人も覚悟していたでしょう。
熱いシリーズになりそうですね!

また、本日は国手山脈杯・団体対抗戦の第1戦が行われました。
日本チームは韓国チームと対戦しましたが、残念ながら3戦全敗でした。
韓国トップの3人に対して日本は若手3人で挑んだとはいえ、ちょっと内容が悪過ぎた気がします。
鋼鉄のメンタルを持つ世界のトップ棋士に対し、日本の若手はまだまだ経験不足かもしれません。
実力的にはもっと食い下がれるはずだと思います。

さて、本日はMasterと范廷鈺九段(中国)との対局をご紹介します。
范九段は第27回に続き、2回目の登場ですね。



1図(実戦)
范九段の黒番です。
白1と2線に詰めたのには驚きました。
白9のハネ出しを狙ったものです。

また、白9、11にも驚きです。
詳しいことは解説本などに載っているでしょうが、右下の黒をいじめて得を図ろうとしています。

白1は新手ではありませんし、白9、11も人間に打てないレベルの手ではありません。
ただ、狭い所をつついて行く打ち方であり、従来のAIには苦手なイメージがありました。
ですが、Masterはこうした部分戦でも非常に正確です。





2図(実戦)
右下の戦いの結果、黒△を取り込む余地が残っては白が成功しました。
そして、ここからのMasterは優れた大局観、構想力を発揮します。

白1、3を利かしましたが、これは違和感のある打ち方です。
結果的にケイマの突き出しの悪形になっていますし、黒Aと分断する手も残っているからです。
しかし、白5から左下黒への攻めに入り・・・。





3図(実戦)
その後白1の急所に回ることになっては、白△の利かしが見事に働きました。
白△が無ければ黒Aと好形に受けることができますが、この状態では白Bと押さえられ、白Cからの切断が残ってしまいます。





4図(実戦)
そこで黒1と、働きの無い空き三角の形でつながりましたが、白2となって中央が急に白っぽくなりました。
しかも白Aの切りが残っており、白△はまだ輝きを失っていません。
こうなっては白の優勢は明らかです。

Masterは部分戦にも大局観にも弱点が見えず、完璧とすら思えます。
しかし、ここからさらに強さを求めた結果、自己対戦で複雑怪奇な打ち方をするようになるとは・・・。
不思議ですね。