どうしてギリシアは困窮しているのか?
その理由をきちんと説明できる日本人は果たしてどれくらい、いらっしゃるのでしょうか。投資家の方や外国との貿易事業に従事している方は別として、多くの方が理解できていないのではないかと思います。
「公務員が多かったからでしょ」・・・と回答しているそこの「あなた」!!残念ですが、その回答ですと0点です~(泣)。
人口千人あたりの公務・国防・強制社会保障事業分野の就業者数割合は「日本18.2%」「ギリシア30.5%」「フランス35%」「ドイツ35.1%」。
ギリシアの公務員従事者が周辺各国に比べ、とりわけ突出して多いわけではないからです。原因はもっと別のところに。
ギリシア困窮の最たる原因。それは、ギリシアが①「貿易赤字国」だということ。②EU加盟国だということ。この2点にあると思われます。
貿易赤字国というのは、「輸出<輸入」という関係です。
自国内の生産品だけでは国民需要を満たすことができないため、外国からの輸入品に大きく頼っている国といえます。
商品を外国から買うのですから、「国内にある通貨」はその代金支払いのため、どんどん外国に流れていきます。一般的には貿易赤字額が膨らめば、その国の通貨の信用度が低下しますので、「通貨安」となります。
日本で考えれば「円安」状態です。通貨価値が減るので、輸入物価は上昇しますよね。その結果、外国製品も国内製品とさほど変わらない価格になれば、国内メーカーの商品を購入する人も増えてくるため、自然と輸入量は減り、貿易赤字も解消されていきます。これが自然な経済の流れなのです。
まともな国であれば、やがて国内の生産力を強化することで総需要の不足分を自国内で調達するようになります。更に自国通貨が安くなることで「輸出価格競争力」が増しますので、輸出量が増加し、その対価として自国で調達不能な資源などの輸入を再開することも出来るようになります。現在、日本の輸出関連企業の経営が絶好調なのは、「円安」のおかげなのはご存じのとおり。
ところがユーロ圏は複数国家の集合体のため、たとえギリシアが貿易赤字でもドイツのような貿易黒字国があると、ユーロ全体で貿易赤字になりません。
そうすると為替が一向に「ユーロ安にならない」のです。この点がギリシア第1の悲劇です。
ユーロ安にならないから、輸入物価が上昇せず、外国の安い商品が引き続きギリシアに入り続ける結果となります。自国生産品より外国製品のほうが安価で手に入るなら、一般消費者である国民はそっちを買いますよね。
この結果、輸入超過が続き、ギリシア国内にあるユーロ通貨は輸入商品の支払いのため、どんどん外国に流れていき、ギリシア国内にカネ不足が生じたのです。では、ギリシアにどんどん製品を輸出して儲けた国はどこでしょう?・・・ドイツですよ。
自国製品が売れなければ、自国での生産品や生産量は減少の一途をたどり、国内企業の衰退を招きますし、ギリシアに投資しようとする諸外国もありません。国内企業が倒産すれば失業者もあふれ、賃金も減少です。ユーロ安にならないのですから、輸出企業も儲かりません。
日本のように自国通貨を発行できる国なら、国内のカネが不足したら、新たにカネを刷れば問題は解決します。ところが、ユーロ通貨の発行権は、欧州中央銀行(ECB)にしか無いので、ギリシアは通貨を自由に発行できないのです。これがギリシア第2の悲劇。
通貨が発行できないなら、ギリシアに入ってくる外国商品に高い関税率をかけて、輸入価格を調整したらと考えます。そうすれば、ギリシア国内のユーロ通貨が国外に出て行くことはありません。しかし、ユーロ圏は完全関税撤廃の自由貿易圏と定められており、加盟各国には、関税設定権限が認められていないのです。
これがギリシア第3の悲劇。
通貨は発行できない、為替の調整機能は働かない、関税もかけられない。唯一残された手段は、国債の増額発行です。でも、ギリシア国内はカネ不足で買い手が少ないので、仕方なく国外に売るしかありませんでした。これがギリシア第4の悲劇を招きました。
では、その国債を大量に購入した国はどこか?
これもまた、ドイツなのです。
つまり、ドイツはギリシアに自国製品を売りまくり、その稼いだカネでギリシア国債を大量に購入し、ユーロ通貨を大量に貸付けて実質的な支配下に置いたのです。
国債のデフォルトは自国通貨の暴落を招きますが、国家が消滅するわけではありません。むしろ自国通貨が暴落して自国通貨安になると、輸出価格競争力が回復するため、通貨暴落により一時的に国内経済は大混乱に陥るものの、やがて輸出が経済を牽引するようになるのが一般的です。
ところが、ギリシアの場合、自国通貨はユーロであり、ユーロが暴落することはないのです。これがギリシア第5の悲劇。
ギリシアが、通貨暴落による為替安の恩恵を受けることは一切ありません。このような状況では、輸出による国内産業の活性化を図ることは極めて難しいと言えるのです。
ドイツやフランスはギリシア国債を楯にした借金取立屋ですから、ギリシアにどんどん圧力をかけています。一番悪いのは、こうなる事を事前に察知し、国内産業成長のための努力を怠ったギリシアであることは間違いありませんが、もはや今のギリシアは八方塞がり状態。
いっそのこと、ユーロから離脱し、ユーロ圏以外の他の国の援助を受けながら、新たな経済協定を模索したほうが良いのではないかと思います。
今回のデフォルトを回避したところで、経済システムの構造的改革ができなければ、また同じ事の繰り返しになることが明白だからです。
消費経済が低迷している現状ギリシアに対して、更なる消費税率の引き上げや年金支給額の減額を要求する債権国ドイツの態度もギリシアの国民感情を察するに、いかがなものか・・・・と、思ってしまいます。
ギリシア自立のための特別な方策をユーロ全体で協議できないならば、ユーロからの離脱も致し方ないのではないでしょうか。