因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

劇団ロ字ック第六回本公演『タイトル、拒絶』

2013-02-12 | 舞台

*山田佳奈作・演出 公式サイトはこちら サンモールスタジオ 17日まで(1
 デリヘル嬢。性的サービスのデリバリーを行う若い女性たちの事務所が舞台だ。
 6人のデリヘル嬢と、電話応対や車の送迎、事務所の掃除や備品の買い出しをするスタッフが男女ふくめて数人いる。デリヘル嬢は容姿も性格もさまざまで、売れっ子もいればクレームばかりの問題児もいる。彼女たちを叱咤し、つぎつぎと指名先に手配しながらちゃっかりと手を出していたり、デリヘル嬢のひとりに熱を上げられて迷惑していたり、まじめな働きぶりが逆に心配だったり、男たちもいろいろだ。作・演出の山田佳奈は出演もこなす。はじめはデリヘル嬢として採用されたのだが、クレームによる罰金に懲りてスタッフに転じたらしいカノウを演じる。

 狭い事務所の一室で些細なことですぐに派手な言い合いをはじめる女の子たち。舞台手前のスペースを彼女たちはしばしば歩き、あるいは走る。金のためにからだを売る、いわば裏の世界から、そんなものはまったく存在すらないかのような表の世界へ歩き出す。おもてへ脱出したかのようにみえて、彼女たちはぐるぐる回っているだけで、結局くりかえしなのである。

 劇作家山田佳奈は同じ女性である女優たちに対して、その容姿要望から性格まで徹底的にこきおろし、これ以上ないほど罵倒する場面を書いている。創作の上のこととはいえ、外見でそのような役を配されるのは、女性としてあまりおもしろくなく、傷つくことなのではなかろうか。わが身を投げ出しても作品に奉仕する捨て身の覚悟がなければできないことで、劇作家・演出家と俳優たちのあいだに確かな信頼と厚い友情があることが想像される。

 デリヘル嬢たちとスタッフになったカノウ(山田)の関係が劇の構造のなかでもう少し活かされれば、本作はまだまだ違う顔をみせたのかもしれない。同様なのがいちばんの売れっ子マヒルのあまり仲のよくない姉の存在だ。しょっちゅう金をせびりにくるこの姉というのが安藤サクラを思わせる不敵な面構えで、不幸のかたまりのような造形をみせる。妹との関係や設定など、いささかあざとい感じが惜しく、彼女に劇世界を捻じれさせる力を持たせたい。
 また大音量の音楽がかぶっていたり、デリヘル嬢たちのやりとりがあまりにけたたましいために台詞の聞き取れないところがいくつもあり、すべてを明瞭にする必要はないのだが、これは敢えてそうしているのか、とすればなぜなのか、疑問に感ずる点である。やりようによっては劇作家の腕のみせどころにもなるのでは。 

 今日は終演後に山田佳奈が脚本・監督をつとめた映画『ワールド・ワールド・ワールド』が上演された。女優の二人芝居をショートフィルム作品として映像化したものである。ラブホテルで清掃のバイトをする女の子ふたりの会話を中心にした25分。映像を作ったのははじめてとのことで、カメラワークやカットのつなぎかたなど、バリバリの映像プロの作品と比べれば粗削りなところはたしかにある。しかしそのぶん素直であり(むき出しということではない)、今日の舞台を理解し、歩みよる一助となった。

 主人公が「セックスがしたいな」とポツリもらす。普通にセックスして結婚して子どもを産んで、日曜日には家族で買い物にいって、冷蔵庫に食料品をいっぱい詰めこみたいと(台詞は記憶によるもの)。この女の子の素直なつぶやきは、なかなかにぐっとくるものがある。
 彼女は身のほど知らずの高望みなど言っていない。どころか、とても控えめでささやかな夢であり希望ではないか。

 ロ字ックに登場する女の子たちは、自分の未来像が描けず不安におびえ、諦めているようにみえる。それを認めたくない、周囲に知られたくないために去勢をはり、必要以上に享楽的なふるまいをする。若者が将来に不安を抱くのはいつの時代でも同じだが、少なくとも自分が二十代のころは根拠はないにしても、もっと楽観的だった。
 女の子たちは暴力的なほどたくましくもあり、いっぽうで脆く壊れやすい。
 『タイトル、拒絶』とは、こんな自分にタイトルなどいらないという主張だが、このごろの若い女子たちが作る演劇というくくりで捉えられることへの抗議、異議申し立てともとれる。

 前作よりは自分もがんばれただろうか。ロ字ックはまだまだ変化する可能性がありそうだ。
 がんばれ女の子たち。演劇も人生も。

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